BUZ LIFE

毎度ご乗車ありがとうございます。

祝うのは、100歳のお誕生日

2018年10月20日 | Weblog

士別という土地を初めて訪れた。北海道は旭川からさらに北上した位置にある人口2万に満たない小さな市だ。
目的は、士別軌道が運行する1982年に製造された古い日野製のバスに出会うため。期間限定で土日も運行されるとのことで、当地を訪問したのだ。

秋晴れの当日、9:40の出発時刻には、総勢20名弱の客が乗り込んだ。今日が期間限定の最終日ということで、多くのファンとともに地元の新聞社まで取材に入る盛況ぶり。
サングラスをかけたドライバーも、普段は閑散とした車内なのだろう、なんだか嬉しそうである。我々も思い思いの場所に座って、風連駅を目指す。

35年以上も走り続けてきたご老体とは思えないほど、快調に道を走って行くが、2018年の現代を駆け抜けるこのバスは、とても示唆的である。

このバスに乗るためにはわずかな現金(あるいは回数券)さえあればよい。乗ってしまえば向かう先は同じで、また着く時間も同じ。誰かを抜いたり抜かされたり、そんなことは一切気にしなくて良い。没個性が完全に認められ、保証されている空間は、とにかく独創性や個性が求められる何とも落ち着かない現代にとっては、とても貴重なもののように思われる。

だからこそ、車窓に写る広い秋晴れの青空と、紅葉し始めた木々は、一層美しいものとして目に飛び込んでくる。
ここで紡ぎだされる言葉や、生み出される数式の定理は、AIやスーパーコンピューターからはじき出されたものより、きっと人間的で美しく、心に響くものだろう。

何より、35年以上の経年車とは思えない快適さである。手元のスマホでさえ5年ともたない中、ものを大切にするという基本原則を改めて思い知らされる。
ドライバーからも「その辺のバスよりも癖がなく、とても操りやすい。走行距離も10万キロに満たず、交換部品も手に入りやすく、まだ走りそう」とのご発言があった。

風連駅で折り返し、士別軌道の本社に戻る。「来年は弊社の100周年。このバスを使ってのイベントも何かあるだろう」と、とても頼もしいことを語っていた。
この会社の100周年のみならず、このバス自体の100周年も、見届けたいものだ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿