三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、金融資産数十億円規模の「超富裕層」の顧客を対象としたサービスを強化する。年度内にも、傘下の銀行、信託、証券各部門のエース級社員を集めた新組織と新ブランドを創設し、資産承継など顧客ニーズに合ったサービスを拡充する。みずほFGや三井住友FGも体制強化を進めており、国内で未開拓とされる超富裕層向けビジネスが熱を帯びそうだ。

 傘下の三菱東京UFJ銀行(BTMU)、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で超富裕層の顧客を担当してきた社員の中から、経験や業務知識の豊富な計50〜100人の特別合同チームを編成する。顧客の同意を得て銀行、信託、証券の間で情報を共有。顧客がオーナー経営者の場合は、個人資産や経営する企業の財務状況、ニーズを把握し、資産承継などのアドバイスを行うほか、グループ横断で投資信託など最適の商品を提案し、株式売買の指南も行う。助言を通じてグループの金融商品の販売拡大につなげる考えだ。

 MUFGはこの分野で2023年度に16年度比500億円の収益増を目指している。グループ全体では、情報技術(IT)を活用した先進金融技術フィンテックで業務の自動化を進めているが、超富裕層は、人間関係が特に重要な部門と位置づけている。グループ幹部は「豊富な業務知識に基づく提案力で、いかに富裕層の顧客と強固な信頼関係を築けるかが鍵だ」と語る。

 超低金利で既存の貸し出し業務が苦戦する中、超富裕層は一度顧客になると収益規模が大きいだけに、他の大手金融グループも獲得に力を入れている。みずほFGは今年4月、みずほ証券に富裕層を対象としたプライベートバンキング部を新たに設置、みずほ銀行、みずほ信託銀行とのグループ内連携強化を急いでいる。三井住友FGも4月からグループ企業を横断する形で事業ごとに戦略を立てる「事業部門制」を導入しており、傘下の三井住友銀行とSMBC日興証券の営業担当同士の協業を加速させる方針だ。

 野村証券の銀行担当アナリスト、高宮健氏は「銀行、証券、信託の垣根を越えて精鋭を集めてチームを作り、総力で取り組むのは新しい試みだ。超富裕層向け事業の収益は安定性があり、収益を上積みできれば経営への意義も大きい。専門性の高い欧米の銀行に追いつけるかが課題になるだろう」と話す。【宮川裕章、岡大介】

 ◇超富裕層7.3万世帯、資産75兆円

 野村総合研究所などによると、金融資産5億円以上の超富裕層は2015年時点で7万3000世帯、金融資産保有総額は75兆円と推計される。株高などで11年の5万世帯、44兆円から大幅に増加した。邦銀はグループ内の組織の縦割りが壁となり、超富裕層向けサービスは「未開拓分野」(大手銀行幹部)だった。縦割りは解消されつつあり、オーナー経営者の高齢化によって、事業承継サービスなどへの需要も高まっている。