自動車メーカーのホンダが開発したビジネスジェット機「ホンダジェット」が2017年上半期、小型機(最大離陸重量5.7トン以下)分野でシェア世界一に輝いた。参入からわずか2年。24機を出荷してシェア4割を占め、米セスナ社など伝統メーカーを抑えた。躍進のわけは何なのか。

 ◇創業者・本田氏の悲願

 「車作りの経験を生かした機体の工夫が評価された」。航空評論家の秀島一生さんはこう分析する。

 同機は全長13メートル、翼幅12メートルで乗員を含め最大7人乗り。特徴は主翼の上に2基のエンジンを載せたことだ。胴体の後部側面に取り付けるのが主流だが、ホンダは主翼の上で空気抵抗が抑えられる最適の配置を発見。「他人のまねはするな」という創業者、本田宗一郎氏(1991年死去)の言葉通り、業界の常識を覆した。

 最大運用高度はライバル機より600メートル以上高い約1万3100メートルで、空気抵抗が減って燃費が向上し、最大時速もクラスでトップレベルの782キロを記録。室内の広さもエンジン配置の効果で15%改善した。秀島さんは「見本がない状態で発注する飛行機は信頼が欠かせず、ホンダ・ブランドが生きた」と評価する。

 ビジネスジェットは数人から20人乗り程度の小型機で、01年の米同時多発テロ以降、安全性や利便性から企業経営者らの需要が高まっている。

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 航空産業への参入は、創業前から本田氏の夢だった。62年に社内報で小型機の開発を宣言。本格的な研究は86年に始まり、子会社「ホンダ・エアクラフト・カンパニー」(米国)の藤野道格(みちまさ)社長らがゼロから作り上げた。藤野社長は「ホンダジェットは例えるなら空飛ぶスポーツカー」と胸を張る。

 エンジンも機体も自社で開発した。主要機器は社外調達するメーカーが多いなか、航空評論家の青木謙知(よしとも)さんは「自己完結性が高いのが他社にはない特徴。設計変更などにスムーズに対応できた」と話す。15年末に米国で初納入され、欧州や中南米、東南アジアに販路を拡大している。

 一方、本国・日本市場への参入は残念ながら未定だ。空港の発着枠に限度があるためで、国内商社の担当者は「米国では車感覚でビジネスジェットを使うが、日本では『金満』という印象を持たれがち。それでも専用ターミナルの整備など利用環境は改善しつつある」と語り、今後の市場動向を注視している。【和田浩幸】