広島県警広島中央署で詐欺事件の証拠品として金庫に保管されていた現金8572万円が盗まれた事件をめぐり、詐欺事件で公判中の男性被告(34)が27日、証拠品を保全する注意義務を怠ったとして、県に対し、盗まれた現金と弁護士費用を含めた9429万円の損害賠償を求めて広島地裁に提訴した。証拠品の管理をめぐり、被告側が捜査当局側を訴えるのは異例。

 組織的詐欺事件などで被害にあった金品は、刑事裁判で没収や追徴が確定すれば、犯罪被害回復給付金支給法に基づき、検察を通じて被害者に分配される。

 県警などによると、被告は生前贈与名目の手数料と偽って現金をだまし取ったなどとして、今年2月に逮捕、その後起訴された。県警は約9千万円の現金を自宅など関係先から証拠品として押収した。

 会見した被告の弁護士によると、被告は詐欺罪について否認し、押収された現金は事件とは無関係と主張。ただ、設立に関わった会社が運営するサイトを通じて被害が発生したことへの責任から「被害者に弁済するつもりのものだった」と説明しているという。また「県警と県の自浄作用に期待したが、何ら責任を取る気配がないため、やむを得ず提訴した」との被告のコメントを明らかにした。

 現金は署の1階の会計課の金庫で保管されていたが、5月に盗難が発覚。県警の名和振平本部長は今月26日の県議会で、盗まれた現金について、「犯罪に関連する疑いが強いとみている」と答弁しており、内部犯行の可能性も視野に捜査を続けているが、容疑者逮捕には至っていない。

 県警監察官室は「具体的な主張の内容を詳細に検討した上で、適切に対応したい」とコメントした。(宮川純一、小林圭)