ZOZOの前澤社長が月旅行を発表して数か月、これに使用される宇宙船のテスト機が完成しました。銀色に輝く外観が印象的ですが、どのような船なのでしょうか。

月近傍まで2日間

 ECサイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZO社長の前澤友作氏は2018年9月、宇宙開発企業のスペースX(アメリカ)を率いるイーロン・マスク氏と共に、「2023年にも月旅行を行う」と発表しました。月旅行には、スペースXの超大型ロケット「スターシップ(Starship)」が利用される予定です。

 前澤氏の月旅行では、地球から打ち上げられたロケットが月の裏側を通過し、地球へと帰還します。宇宙船が月に接近するのは打ち上げから約2日後、そして地球への帰還は約5日後です。

 月旅行の際には無重力を体験できるのはもちろん、地球を眺めたり、さらには月の縁から地球が昇る「地球の出」が眺められたりするはずです。

 さらに、ロケットには前澤氏だけでなく6人から8人のアーティストが同乗することも発表されています。彼らアーティストは、宇宙から得られたインスピレーションを生かし、作品作りに取り組むことが期待されているのです。なお、このプロジェクトは「#dearMoon」と呼ばれています。

再利用可能な「スターシップ」、将来は火星へも

 スペースXは以前より、超大型ロケットの構想を膨らませていました。最初「ITS(Interplanetary Transport System)」と呼ばれていたこのロケットは、「BFR(Big Falcon Rocket)」と名前を変え、前澤氏とイーロン・マスク氏の計画発表段階では「BFR」と呼ばれていました。そして2019年1月現在、その名称は「スターシップ」となっています。

「スターシップ」は2段式のロケットで、下段のブースター部分が「スーパー・ヘビー(Super Heavy)」、上段の宇宙船部分が「スターシップ」と呼ばれています。

「スーパー・ヘビー」と「スターシップ」は、どちらも推進用のエンジンを持ち、さらにエンジン噴射を利用して地上やほかの天体に着陸することができます。加えて、着陸したブースターや宇宙船を何度も再利用することで、その運用コストを抑える予定です。

 この「スターシップ」は月旅行だけでなく、人工衛星の打ち上げから国際宇宙ステーション(ISS)への補給任務、さらには月や火星など、太陽系の天体の開拓にも利用される予定です。実際に、イーロン・マスク氏は「スターシップ」を利用した、火星への移植計画についても言及しています。

銀色に輝くボディはステンレス製

 そしてテキサス州のボカチカにあるスペースXの施設では、とうとう年始に「スターシップ」のテスト機が完成しました。このテスト機は実際の「スターシップ」より全長が短いものの、基本的なデザインや設計は同一となっています。

 また、「スターシップ」のテスト機には、「従来のBFR」から興味深い変更が加えられています。まず、本体素材がカーボンからステンレスに変更されたこと。これについてイーロン・マスク氏は、低温時や高温時の強度がカーボンに対して優れていることを挙げています。また、液体燃料を利用した機体表面の冷却システムも採用されています。

 このテスト機は近日中にも、低い高度へと到達する短距離飛行(ポップ飛行)を予定しています。そして早ければ来年には、軌道へと到達する打ち上げが実施される予定です。さらに2022年と2024年には、フルサイズの「スターシップ」による火星の無人/有人探査が予定されています。

 前澤氏の月旅行だけでなく、スペースXの宇宙開拓計画のまさに中心となる予定の「スターシップ」。まずはその第1歩となるテスト機の初打ち上げを、無事成功させてほしいものです。