過去の「大量絶滅」と現在の空恐ろしい類似点とは

2019年10月09日 | Science 科学



過去の「大量絶滅」と現在の空恐ろしい類似点とは

9/30(月) 17:28配信ナショナル ジオグラフィック日本版

過去の「大量絶滅」と現在の空恐ろしい類似点とは

(ARTWORK BY PETER ARNOLD, INC./ALAMY)
全生物種の75%超が絶滅した過去5回を解説、人類は6度目を起こすのか?
 これまでに地球上に登場した生物の99%以上は、すでに絶滅している。たえず変化する環境に適応しようと新しい種が進化してくる一方で、古い種は消えてゆく。しかし、絶滅のペースは決して一定ではない。むしろ、地質学的には一瞬とも言えるような短い間に75~90%以上の種が姿を消す「大量絶滅」が、過去5億年の間に少なくとも5回起きている。

ギャラリー:現在の大量絶滅? 今、絶滅の危機にある動物たち 写真5点

 大量絶滅は恐ろしい現象だが、新しい形の生命に地球を明け渡すという意味合いもある。最もよく研究されているのは、白亜紀と古第三紀の境界となる約6600万年前の大量絶滅だ。非鳥類型恐竜を絶滅させ、哺乳類や鳥類が急激な進化と多様化を遂げる余地をつくった。

 白亜紀末の絶滅は、主に巨大隕石の衝突によって引き起こされたことで有名だが、これは例外的なケースだ。大量絶滅の最大の原因は、地球の炭素循環の激変だ。例えば数十万平方キロもの範囲に溶岩を吐き出すような巨大噴火は、大気中に二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に放出し、暴走温室効果や、それに伴う海の酸性化および貧酸素化を引き起こす。

 以下に、過去に5度起きた大量絶滅とその原因、そして、現在の状況を順に解説しよう。

1. オルドビス紀―シルル紀絶滅(4億4400万年前)
 オルドビス紀(4億8500万年~4億4400万年前)は、地球上の生命が劇的な変化を遂げた時期だったが、その終わりに、知られているかぎりで最初の大量絶滅が起きた。このとき、突然の寒冷化により、莫大な量の水が、南極付近の陸地を覆う氷冠として閉じ込められたのだ。この氷河作用は、現在の北米のアパラチア山脈が隆起したことがきっかけで起きた可能性がある。新たに隆起した岩石の大規模な風化により、大気中の二酸化炭素が岩石から水に溶け出した物質と反応して吸収され、地球の温度が大幅に下がったのだ。

 その結果、海面は数十メートルも低下した。浅瀬にすむ生物は、生息地の寒冷化と縮小により大打撃を受けた。ところが、寒冷化はすぐに終わってしまう。そしてこれが、生き延びた生物へのセカンドインパクトとなった。海面が再び上昇し、海水の酸素濃度が低下。有毒な金属が海水中に溶け出しやすくなったせいで、回復がたびたび中断させられたのだ。

 現在知られている大量絶滅のなかで2番目に大規模なこの出来事は、すべての種の85%を絶滅させたと考えられている。サンゴ、シャミセンガイのような腕足動物(2枚の殻をもつ生物)、コノドント(ヤツメウナギに似た生物)、三葉虫などの海洋生物が最も大きな影響を受けた。


2. デボン紀後期の絶滅(3億8300万年~3億5900万年前)
 3億8300万年前に始まったこの大量絶滅では、2500万年ほどの間に地球上の生物種の約75%が姿を消した。

 デボン紀には海の酸素濃度が急激に低下する「海洋無酸素事変」が何度も起きていて、コノドントやゴニアタイト(アンモナイトの仲間)に打撃を与えた。なかでも深刻だったのは3億7200万年前のケルワッサー事変だった。ドイツで採取された事変当時の岩石は、酸素濃度の急激な低下に伴い、カイメンの仲間である層孔虫などの造礁生物が死滅したことを示している。

 デボン紀後期に繰り返された海洋無酸素事変の原因を特定するのは困難だが、火山活動がきっかけだった可能性がある。ケルワッサー事変の約200万年前には、今日のシベリアで100万立方キロの溶岩を吐き出す火山噴火が起きて、ビリュイ・トラップという巨大火成岩岩石区が形成されている。この噴火は、温室効果ガスのほか、酸性雨の原因となる二酸化硫黄も撒き散らしたはずだ。

 また、隕石も関与していたかもしれない。直径52キロに及ぶ地球上で最大級の衝突クレーターであるスウェーデンのシリヤン・クレーターは、3億7700万年前に形成されている。

 意外に思われるかもしれないが、陸上の植物が加担していた可能性もある。植物はデボン紀に画期的な適応を遂げた。茎を堅くするリグニンという化合物や、水分や養分の通路となる維管束(いかんそく)を完成させたのだ。これまでになく大型化し、深く根をはるようになった植物は、岩石の風化のペースを速めただろう。

 岩石の風化のペースが速くなると、陸から海に過剰な栄養分が流れ込むようになり、藻類が大発生する。これらの藻類が死んで分解される際に、海から大量の酸素が奪われ、デッドゾーンと呼ばれる貧酸素海域ができる。また、樹木の広がりにより大気中の二酸化炭素の多くが失われ、地球寒冷化を招いたかもしれない。

 不思議なことに、デボン紀後期には一部の生物が絶滅しただけでなく、種の多様化の減速も起こっている。その原因は侵入生物の世界的な広まりにあるのかもしれない。海面の上昇により、それまで孤立していた海の生息地がつながり、世界中の生態系が均質化したのだ。


3. ペルム紀―三畳紀絶滅(2億5200万年前)
 2億5200万年前、生命は地球史上最大の「大絶滅(Great Dying)」に直面していた。ペルム紀―三畳紀絶滅だ。6万年ほどの間に、海にすむ生物種の96 %、陸にすむ生物種の4分の3が死に絶えた。世界の森は消滅し、再生には1000万年もかかった。また、5回の大量絶滅のなかで唯一、多数の昆虫が絶滅している。海洋生態系の回復には400万~800万年を要した。

 大絶滅の最大の原因は、シベリア・トラップという巨大火山の噴火だった。今日のシベリア一帯に300万立方キロもの溶岩を流出させたこの噴火で、少なくとも14.5兆トンの炭素が放出された。これは、地球に残っているすべての化石燃料を採掘して燃やした場合に放出される炭素の2.5倍の量である。さらに、これではまだ足りないとばかりに、シベリア・トラップのマグマは地表に出てくる途中で石炭盆地の地層と相互作用を起こし、メタンなどの温室効果ガスを余計に発生させたと考えられている。

 こうして起きた地球温暖化は、まさに地獄だった。噴火から100万年後には、海水と土壌の温度は14~18℃上昇していた。2億5050万年前には赤道の海水の表面温度は40℃もあったため、赤道付近には魚はほとんど生息していなかった。

 温度が上昇すると、陸上の岩石が風化するスピードが速くなり、火山からの硫黄による酸性雨がそれをさらに加速した。デボン紀後期の絶滅のときと同じように、速くなった風化は海の酸素濃度を低下させた。当時の海が76%の酸素を失っていたことと、ほとんどの種の絶滅は温暖化と貧酸素化により説明できることを、気候モデルは示唆している。

4. 三畳紀―ジュラ紀絶滅(2億100万年前)
「大絶滅」から生命が回復するには長い時間を要したが、ひとたび回復すると、みるみるうちに多様化していった。さまざまな造礁生物が繁栄し、陸地には植物が生い茂り、鳥類、ワニ、翼竜、非鳥類型恐竜の祖先にあたる主竜類が登場する舞台が整った。しかし約2億100万年前、生命は再び大きな打撃を被った。陸と海にすむ生物種の80%が突然、失われたのだ。

 三畳紀の終わりに、大気中の二酸化炭素濃度は4倍に上昇し、平均温度は3~6℃上昇した。原因はおそらく、中央大西洋マグマ分布域から大量の温室効果ガスが放出されたことだった。中央大西洋マグマ分布域は、当時の超大陸パンゲアの中央部にあたる広大な火成岩岩石区で、その活動によって超大陸が分裂したため、現在は南米東部、北米東部、西アフリカにある。その溶岩の量は、米国本土を厚さ400メートルの岩石で覆い尽くせるほどだったと考えられている。

 二酸化炭素濃度の上昇は三畳紀の海を酸性化させ、海洋生物が炭酸カルシウムから殻を作るのを難しくした。陸上では、最も優勢な脊椎動物はワニ類だった。今日より大型で、はるかに多様だったワニ類の多くが絶滅し、その後、初期の恐竜が急速に多様化していった。


5. 白亜紀―古第三紀絶滅(6600万年前)
 白亜紀―古第三紀絶滅は最も新しい時代に起きた大量絶滅で、確実に巨大隕石の衝突によるとされる唯一の絶滅である。すべての非鳥類型恐竜を含め、地球上の生物種の約76%が絶滅した。

 6600万年前のある日、直径約12キロの隕石が時速7万2000キロの猛スピードで、今のメキシコのユカタン半島沖に落下した。この衝突で、海底に直径約200キロのクレーターができ、大気中に大量の塵や岩石片や硫黄が撒き散らされた結果、深刻な寒冷化が起こった。衝突地点から1500キロ以内の陸地は炎に包まれ、海には津波が広がった。非鳥類型恐竜を支えていた生態系は、一夜にして崩壊に向かった。

 同じ頃にインドのデカン高原で発生した激しい火山噴火による地球温暖化が、事態を悪化させた可能性がある。一部の科学者は、デカン高原での火山噴火は隕石の衝突によって誘発されたと主張している。

6? 現代の絶滅
 今日の地球は生物多様性の危機にひんしている。最近の見積もりによると、主として人間による森林破壊、狩猟、乱獲により、100万種の動植物が絶滅の危機にあるという。また、人間の交易による侵略的外来種や病気の広がりのほか、環境汚染や、人為的原因による気候変動も深刻な脅威となっている。

 現代の絶滅は、自然に起こる絶滅の数百倍の速さで進んでいる。もし現時点で近絶滅種、絶滅危惧種、危急種に指定されているすべての種が次の世紀に絶滅し、そのペースが続けば、今後240~540年で大量絶滅のレベルに達することになる。

 気候変動は長期的な脅威だ。人間による化石燃料の燃焼は、巨大噴火を化学的に模倣しているのと同じだ。毎年数十億トンの二酸化炭素やその他のガスを地球の大気に送り込んでいるのだから。

 総量で言えば、過去の火山噴火が放出した温室効果ガスは、今日の人間による排出量よりはるかに多い。例えばシベリア・トラップは、2018年に人間が化石燃料の燃焼により排出した量の1400倍以上の二酸化炭素を放出している。しかし放出のペースで言えば、人間はシベリア・トラップと同等か、それ以上の速さで温室効果ガスを排出していて、その結果、地球の気候は急激に変化している。

 過去の大量絶滅が教えているように、急激な気候変動は破壊的な影響を及ぼすおそれがある。人類がもたらした絶滅は、大量絶滅の定義である「全生物種の75%」という数字をまだ超えていないが、それなら良いというものではない。この恐ろしい数字に到達するよりずっと前に、私たちが暮らす生態系はカオス状態になり、世界中の生物種が危険にさらされることになる。そこにはもちろん、私たち自身も含まれている。

文=Michael Greshko and National Geographic Staff/訳=三枝小夜子


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「地磁気逆転」に異常な活動期、なんと100万年に26回、研究
10/4(金) 17:51配信ナショナル ジオグラフィック日本版
「地磁気逆転」に異常な活動期、なんと100万年に26回、研究
カナダ北部の上空に踊るオーロラ。太陽風が地球を包む磁場と相互作用するとき、すばらしい光のショーを見せる。鮮やかな光は、太陽の放射線から地球を保護する地磁気の重要性を改めて思い出させてくれる。(PHOTOGRAPH BY ESA/NASA)
地球のN極とS極が入れ替わる現象、5億年前に頻繁に起きていた
 大昔、地球のN極とS極が入れ替わる現象は、今よりずっと頻繁に起きていたらしい。シベリア北東部の岩場で調査を行ったフランス、パリ地球物理学研究所のイブ・ガレ氏らは、その証拠をつかんだ。

ギャラリー:奇跡の一瞬!心ふるえる地球の名作写真50点

 彼らが9月20日付けで学術誌『Earth and Planetary Science Letters』に発表した論文によると、ちょうど5億年ほど前のカンブリア紀中期(ドラム期)に、100万年あたり26回のペースで地磁気が逆転していたという。これは、過去1000万年間と比べると5倍以上のペースだ。

 地球を包む地磁気は、常に太陽から降り注ぐ放射線から私たちを守っている。地球の46億年の歴史の中で、地磁気の向きは何度も逆転し、北磁極と南磁極が入れ替わってきた。

 地磁気の逆転が、かつて考えられていたよりも頻繁に起こりうることを示唆する証拠は、数多く集まってきている。米フロリダ大学の古地磁気学者ジョゼフ・メールト氏は、今回の結果もそうした証拠の1つだと言う。なお氏は今回の研究には関わっていない。

 かつての地磁気を示す記録は、こうした研究により少しずつ穴が埋められていて、逆転のタイミングや原因の解明に役立つだけでなく、古代にあった激しい変動が初期の生命に及ぼした影響まで教えてくれる可能性がある。

この78万年ほどは逆転していない
 地磁気が生じるのは、地下2900kmほどの深さにある地球の外核で、液体の鉄とニッケルが流動するためだ。地磁気の向きは、小さな方位磁針がそのまま凍りつくように、堆積岩や火山岩ができる際、それらに含まれる鉄分の多い鉱物によって記録される。

 こうして岩石に刻まれた記録から、地磁気はこの78万年ほど逆転していないことがわかっている。一方、過去には約20万年ごとに逆転していた時期もあった。長い間逆転がなかった時期は大昔にもあり、例えば約1億年前の白亜紀には、4000万年ほど地磁気がほとんど動かなかった。

 地磁気の逆転はどのくらい頻繁に起こりうるのだろう? ガレ氏らは答えを求めて、ヘリコプターとゴムボートを乗り継ぎ、最後は徒歩で危険な崖を訪れた。約5億年前のカンブリア紀中期のなかでも、まだほとんど調査が及んでいない時期に形成された地層だ。ここの岩石は、はるか昔に暖かく浅い海だった頃に、砂が磁性鉱物を閉じ込めながら堆積してできたものだ。

 ガレ氏らは2000年代初頭にこの地を初めて訪れ、ほぼ垂直に切り立った崖から119点のサンプルを採取し、分析した。その結果、カンブリア紀中期に、地磁気の逆転が100万年あたり少なくとも6~8回起きた時期があったことがわかった。

「これほど頻繁な逆転は予想していませんでした」とガレ氏はメール取材に答えるた。当時は4、5回でも多いとされていたのだ。

 この結果が気になった彼らは、もっとサンプルを採取しなければと考えた。2016年の夏に現地を再び訪れて、今度は10~20cmごとに岩を切り出し、550点の小さなサンプルを採取した。分析してみたところ、300万年の間に、地磁気は78回も逆転していたことが判明した。

「かなり大きい数字になるとは思っていましたが、ここまでとは思っていませんでした」とガレ氏は言う。しかも、22回も逆転が記録されていた岩があり、実際の頻度はさらに高かった可能性が示唆された。


生物への影響は?
 現段階では、今回の研究は、答えよりも多くの新たな疑問をもたらした。当時、地球磁場の活動がそこまで激しかった理由も、さらに興味深いことに、その活動が突然落ち着いた理由もよくわからない。

 1つの可能性は、古代の地磁気の逆転が、固体である地球内核の冷却および結晶化と結びついていることである。多くの研究から、それはおそらく6~7億年前に始まったと考えられているため、内核形成の終盤が地磁気の頻繁な逆転を引き起こしたのかもしれない。しかし、まだ不確実な点は多い。

「核とそのふるまいについて知ることは非常に難しいのです」と英リバプール大学の地質学者アンニーク・ファン・デア・ブーン氏は言う。「私たちは地球の核を見ることも、そこに行くこともできないからです」。なお氏も今回の研究には参加していない。

 ほかに地磁気の逆転がこれほど頻繁に起きていたのは、エディアカラ紀にあたる5億5000万~5億6000万年前の時期だけだ。メールト氏によると、非常に興味深いことに、ちょうどこの時期に大量絶滅が起きているという。コロコロと逆転していたこの時期の地磁気は、極端に弱かった。おそらくそのせいで、地球に登場したばかりの複雑な生命が、過酷な状況にさらされることになったのかもしれない。

「『スター・トレック』的な言い方をすると、私たちのシールドに不具合が生じて、地球の表面が宇宙線やその他の放射線の爆撃を受けたのです」とメールト氏は言う。エディアカラ紀のぐにゃぐにゃした動物の多くは、有害な太陽の放射線から逃げられずに死んでいったのだろう。

 しかし、5億年前のカンブリア紀中期に大量絶滅は起きていない。むしろ、この時代にはさまざまな形の生命が繁栄していた。もしかすると、進化がこれらの生物に救いの手を差し伸べて、有害な太陽光線から身を隠せる動物を爆発的に生み出したのかもしれない。とはいえ現段階では、すべては推測にすぎない。


次なる活動期に向かっている?
 とはいえ、地磁気の変化に周期性があるように見えるのは興味深い。1億5000万年ごとに、地磁気が逆転しなくなる期間が長く続くのだ。それ以外では、100万年に5回のペースで地磁気は逆転し、その間にはさらに異常に活発な活動期もある。

 この大まかな周期性から言うと、現在は次なる活動期に向かっているのかもしれないが、まだ不確かな点が多いとメールト氏は言う。それに、たとえ地磁気の逆転が近いとしても、磁極は何千年もかけて移動していくものなので、人間の尺度からすれば非常に遅い変化だ。

「映画のように、昨日は北を指していたコンパスが今日は南を指しているというようなことはありません」とメールト氏。

 これらのパターンを読み解くうえで大きな問題となるのは、まだ地磁気の状況がわからない年代があることだ。今回のカンブリア紀ぐらい古い岩石となると、通常は大陸どうしの衝突によって破壊され、変性してしまうため、記録の多くが不明瞭になってしまうとファン・デア・ブーン氏は説明する。氏は、地磁気の逆転が頻繁に起きていた可能性がある、さらに希少な約4億年前の岩石記録を調べている。

「彼らのデータがうらやましいです。本当に良いデータだと思います」と氏は言う。

 今回の研究者たちは困難な状況下でベストを尽くしたが、これが本当に地球規模で起きた出来事だったと証明するには、ほかの地域からの証拠による裏付けが必要だとドイツ、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの地磁気学者フロリアン・ルイリエ氏は指摘する。また、堆積岩だけでなく火山岩の記録も見たいと話す。形成時に粉砕・圧縮され、変性することもある堆積岩では、地磁気の記録が影響を受けている可能性があるからだ。

 とはいえ今回の研究は、大昔の地球の活動の激しさを垣間見せ、取り組むべき新鮮なデータをたっぷり提供してくれた。リバプール大学の地球科学者コートニー・ジーン・スプレイン氏は、データをコンピューター・モデルと比較してみたいと言う。「いくつかのモデルを走らせて、その意味を考えたいと思います」

文=Maya Wei-Haas/訳=三枝小夜子




温暖化で氷河から溶け出した水が、大量の二酸化炭素を吸収している
10/7(月) 12:11配信WIRED.jp
温暖化で氷河から溶け出した水が、大量の二酸化炭素を吸収している
PHOTOGRAPH BY KYRA ST. PIERRE
北極にすさまじい勢いで大混乱が生じている。いま北極では、地球上のその他の地域の2倍の速さで温暖化が進んでいるのだ。

エアコンがCO2を燃料に変える“工場”になる?

今年の夏、北極は前代未聞の暑さに見舞われた。アラスカだけでも、山火事によって2,400万エーカー(約97,130平方キロメートル)にも及ぶ地域が焼失し、膨大な量の二酸化炭素が排出されている。あまりの暑さに、通常は熱帯で頻繁に発生する雷雨が、北極点のすぐそばで生じたほどだ。

この奇妙な事態に加えて、常識では考えられないような不思議な調査結果が、グリーンランドにほど近いカナダの極北地方で報告されている。研究者によると、氷河の融解水を水源とする川、すなわち氷河川の流域で、かなりの量の二酸化炭素が吸収されているというのだ。これは一般的な川が二酸化炭素を排出するのとは対照的である。

2015年の融解期における氷河川の二酸化炭素吸収量は、1平方メートル当たり(誤解のないように言っておくと、総面積ではない)の平均で、アマゾン熱帯雨林の二酸化炭素吸収量の2倍に達した。なんとも皮肉なことに、地球温暖化の重圧に耐えかねて溶け出した氷河の氷が、二酸化炭素を封じ込めるうえで役立つ可能性があるのだ。これまで二酸化炭素の吸収源とは見なされなかったが、実は吸収源である氷河川の流域を、融解水がつくっているのである。

複雑な二酸化炭素のサイクルを理解する鍵に
差し迫った気候変動の危機から脱する方法として、氷河の融解水に期待しようとしているなら、それは無理である。まず第一に、氷河の融解水が二酸化炭素を封じ込める勢いは、人類による制御不能な二酸化炭素の排出はもとより、気候変動を引き起こすその他の要素、例えば永久凍土の融解といった北極からの二酸化炭素の排出のペースにも追いつかないからだ。そもそも氷河の氷が溶け続けたら、融解水そのものも尽きてしまう。

それでも、氷河の融解水が二酸化炭素の吸収に役立つという発見は、地球上のひどく複雑な二酸化炭素のサイクルを理解する鍵となる。

氷河川は、世界中にあるほかの川とはかなり異なっている。顕著な違いをひとつ挙げると、氷河川の大半には生物が生息していない。概して藻類や魚類は氷河川には群生しない。氷河川は水温が冷たすぎるからだ。このため氷河川に生物はほとんどいないが、その代わり堆積物が豊富にある。

「このような氷河は後退や前進を繰り返し、毎年のように動いているので、実はとても良質の堆積物を大量につくっています。堆積物は氷河の下部の地形に大きく広がっています」と、ブリティッシュコロンビア大学の生物地球化学者であるカイラ・A・サンピエールは言う。サンピエールは今回の調査に関する論文の筆頭著者でもある。

氷河の融解水はこの堆積物を取り込むので、ミネラル分が豊富になる。こうした融解水からなる氷河川は、やがてミネラル分が豊富な氷河湖に流れ込む。


氷河の融解水が二酸化炭素を吸収するメカニズム
二酸化炭素は水面を自由に漂い、水は温室効果ガスである二酸化炭素の吸収源にも排出源にもなりうる。一般的な川では、生物が有機物を消費し、二酸化炭素(CO2)を排出する。人間が息を吐いてCO2を排出するのと同じだ。

こうして川が究極の二酸化炭素供給源となるのは、川に大量のCO2が充満するせいで、川の水が大気中のCO2をそれ以上は溶解できなくなるからである。同じことが世界中の池や湖で発生し、温室効果ガスの発生源となる。

一方、氷河の融解水にはこうした生物の呼気が含まれないので、大気中の多くのCO2を溶解する。融解水が氷河川を流れる間に取り込んだ堆積物は、水中に溶けているCO2を吸収する。

「水中に堆積物が混ざり、さらに大気中の二酸化炭素が混ざると、氷河川の下流にいくにつれて化学変化が生じます」と、サンピエールは説明する。堆積物がCO2と反応し、CO2の一部が溶解すると、川そのものが流れながら二酸化炭素吸収源となる。それも、かなりの量を吸収するのだ。

融解水が比較的少なかった2016年は、北極の氷河川流域の1日分の1平方メートル当たりの二酸化炭素吸収量は、アマゾン熱帯雨林の二酸化炭素吸収量の半分だった。だが、氷河の融解水の量が2016年の3倍だった2015年には、氷河川の二酸化炭素吸収量は平均でアマゾンの2倍だった。

ある場所では1平方メートル当たりのCO2吸収量が、アマゾンの40倍にもなった。繰り返すが、これは総面積での比較ではない。アマゾン熱帯雨林の総面積は200万平方マイル(約518万平方キロメートル)であり、北極の氷河川流域の面積をはるかに上回る。

複雑な現象を理解する重要になる尺度に
氷河川流域で吸収される二酸化炭素量はともかく、今回明らかになったのは、氷河川流域がこれまで見落とされてきた二酸化炭素の吸収源であることだろう。気候変動が北極のシステムを大混乱に陥れるようになる前でも、氷河の融解水が二酸化炭素をどれほど吸収しているかを世界に知らしめるのは極めて困難だったはずなので、今回の調査は非常に意義がある。

しかし、それと同時に今回の調査の素晴らしい点は、複雑な現象を理解するうえで重要になる尺度をもたらしていることだ。

「北極は、わたしたちが予測した最適なモデルよりもはるかに速く変化しています」と、ミシガン大学の生物地球化学者ローズ・コーリーは言う。コーリーは今回の調査には関わっていない。「何が起こりつつあるかをモデル化したり、予想したりできるようにするためには、北極の変化に関する情報を処理しなければなりません」

氷河の融解水が淡水系にいかに速く影響を与えるか、また融解水がどれほど二酸化炭素を吸収するかについて、科学者には深い理解が必要である。こうしたことを深く理解すれば、科学者はより確かなカーボンバジェット(炭素予算)を算出できるようになる。

つまり、パリ協定の目標を達成するには、大気中の二酸化炭素排出量をここまでに抑えればよいという上限値を計算できるようになるのだ。「そのために必要な研究の実例に、今回の調査は見事に当てはまります」とコーリーは付け加える。

誤解のないように言うと、今回の調査は、氷河の融解水が地球に化学的変化を起こし、人類の救世主になるとみなしているわけではない。確かに氷河川や氷河湖はCO2を吸収しているが、それだけではない。

「同時にそれ以外の変化も高緯度北極と低緯度北極で発生しており、温暖化によるCO2の排出量を左右しつつあります」とコーリーは語る。「例えば、永久凍土の融解によって二酸化炭素が放出されますが、その二酸化炭素が氷河湖で生じる二酸化炭素の吸収によって相殺される可能性はありません」

とはいえ、氷河川の流域が二酸化炭素の吸収源であることに違いはない。そして、こうした複雑なプロセスの理解が進めば、混乱をますます極める二酸化炭素のサイクルの解明も進むはずだ。

MATT SIMON

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