インドが狙う対中国「敵基地攻撃能力」

2022年01月19日 | 国際紛争 国際政治 

インドが狙う対中国「敵基地攻撃能力」

1/6(木) 6:01配信
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インドはラファール戦闘機を基地に配備し、戦闘力の誇示を図っている(ロイター/アフロ)

 2022年、日本の安全保障にとって大きな課題になるのは「敵基地攻撃能力」の保有だ。年々、活動を拡大させる中国に対応するため、日本も、中国に対して反撃できる能力の保有を目指す構想である。

 実は、日本以外にも「敵基地攻撃能力」獲得に向けて動いている国は多い。お隣では台湾と韓国、フィリピン、ベトナム、オーストラリア、そしてインドも積極的に構想を進めている。

 そのインドで、21年12月8日、その「敵基地攻撃能力」に関する大きなニュースがあった。日本ではあまり大きく取り上げられることはなかったが、インド軍のトップ、ビピン・ラワット国防参謀長(日本の統合幕僚長に相当)の乗ったヘリコプターが墜落し、亡くなったのである。

 この事件は、インドの対中国軍事戦略において大きな打撃であった。亡くなったインド軍国防参謀長は、中国に対する「敵基地攻撃能力」を念頭に置いたインド軍の大改革を主導している最中だったからだ。しかし、統合参謀長の死で、計画全体が遅れる可能性がある。

 そこで、本稿では、インド軍の大改革について概観し、この再編と統合参謀長の事故死が、日本にどのような影響をもたらす可能性があるのか、分析するものである。
インド軍が誇示する2つの戦闘力

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 インド軍は今、どのような大改革をしようとしているのだろうか。その改革の主眼を見て取ることができたのが、20年以降の状況である。20年春、中国軍がインド側に侵入して印中両軍が衝突、インド兵だけで100人近い死傷者を出した。

 それ以来、印中両軍は国境付近に大規模に展開し、21年末の時点でも、緊張状態のままだ。その中で、インド軍は大きく分けて2つの戦闘力を誇示している。中国を攻撃するための戦闘機やミサイル、そして中国を攻撃するためのインド陸軍第17軍団である。

 インドが20年に独自開発ないし外国から購入している戦闘機やミサイルをみると、特徴がある。まず、ミサイルの速度が大変早く、極超音速、超音速といった世界最速レベルで、中国の迎撃網を突破して攻撃が可能であることだ。また、射程も延伸しており、1000~2000キロメートルのものが多く、印中国境に隣接するチベットや新疆ウイグル自治区の中国軍施設やインフラなどがすべて射程に入るものである。

「防御ばかり」からの転換

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 インド陸軍第17軍団も同じような目的をもつ。この部隊は9万人の大規模部隊(陸上自衛隊は全体で15万人)で、インド空軍の大型・中型輸送機、大型輸送ヘリコプター、攻撃ヘリコプターの支援を受けて、空中機動で移動し、中国側のチベットや新疆ウイグル自治区へ攻撃にできる能力を有する。21年に編成が終わり、作戦可能な状態になった。

 このような戦闘機、ミサイル、第17軍団の整備は、インドの新しい傾向を示している。これまでインドは、中国やパキスタンからの攻撃に対して、防御ばかり考えてきた。しかし、今、インドは、防御だけでは守れないと考え始め、攻撃能力を強化し始めている。

 例えば、パキスタン国内にインドでテロ活動する組織の拠点がある。インドは、このような拠点を、16年に特殊部隊で襲撃、19年には空爆した。中国に対しても同様の対策を考えているのだ。

 印中国境地帯の中国側、チベットは、標高5000メートルの山岳地帯である。限られた道路、橋、トンネル、鉄道、空港といった重要インフラなしには軍事作戦ができない。インドの戦闘機やミサイルも、第17軍団も、それら重要インフラを重点的に攻撃するために整備しているものである。まさに中国側の弱点を効果的に狙う作戦なのである。
インド軍の大再編計画と直面する問題点

 しかし、このような攻撃を伴う作戦は、防御よりもさらに難しいものだ。陸海空軍がより適時適切連携していなければならない。外交交渉と軍事的攻撃のタイミングについても、緊密に連携していなければならない。そこでインド軍は、23年を目標に、組織そのものの大改革を始めている。具体的には、米国方式の統合軍の創設である。

 統合軍とは何か。伝統的な軍隊は、陸軍、海軍、空軍にそれぞれ部隊があり、明確に分かれている。陸軍の指揮官は陸軍の部隊を指揮し、空軍の部隊は空軍を指揮する。だから、もし陸軍の指揮官は、空軍の支援を受けたいと思ったら、空軍の指揮官に連絡しなければならない。しかし、この方法だと、毎度、陸軍の指揮官と空軍の指揮官が調整しなければならず、時間がかかるから、非効率である。

 そこで考え出されたシステムが、統合軍のシステムである。統合軍を創設し、陸海空軍の必要な部隊をまとめて統合軍の指揮下にいれ、一元化した指揮系統で動くのである。米国軍の場合は、インド太平洋地域の部隊は、「インド太平洋軍」という名前の統合軍の下で作戦行動をとる。

 インドの場合、中国対策を担う統合軍を2つ、パキスタン対策を担う統合軍も1~2つ、インド洋を担当する統合軍(海洋戦域コマンド)、防空作戦を担う統合軍(防空コマンド)、そして、宇宙作戦を担う統合軍(宇宙コマンド)、合計で5~7の統合軍を創設する予定だ。この計画が実現すれば、インド軍は適時適切な軍事作戦を展開し、中国相手に攻撃能力を示すことができるようになるだろう。


陸海空の調整を担っていた国防参謀長

 ただ、この構想実現には超えなければならない多くの問題がある。特に、陸海空軍の調整は大変な作業だ。陸海空軍とも、戦場では主役になりたい。しかし、もし中国向けの統合軍が創設されて、大規模な陸軍と小規模な空軍が割り当てられた場合、陸軍が主役で空軍が脇役、といった力関係になるかもしれない。あくまで、そうなるかもしれないという不安でしかないのであるが、そういった不安は、うまく調整しないと組織同士の連携がとれないのである。

 印中国境では、陸軍第17軍団が中国方面に攻撃に出るときは、空軍の輸送機やヘリコプターで運ぶのであるから、陸軍と空軍は一体になって連携した作戦をしなければならない。どっちが主役という問題ではない。統合軍のシステムの方が陸海空軍の連携を促し、効率的である。

 そこで、そういった陸海空軍の意見の対立をうまく調整して、この統合軍の構想を進めていたのが、インド軍のトップ、ビピン・ラワット国防参謀長だったのである。20年1月に国防参謀長の制度ができ、初代国防参謀長として計画推進を担った。そして23年までにすべての統合軍を発足させ、インドは、対中国作戦能力を大幅に高めるはずだった。しかし、亡くなってしまったのである。
日本への影響は

 このインド軍の大改革は、日本にどのような影響があるものといえるのか。実は大きな影響がある。

 上述のように、日本の岸田文雄政権も「敵基地攻撃能力」について検討を行っている。戦闘機や艦艇、車両から発射するミサイルを長射程化し、1000~2000キロメートルの射程のミサイルを装備する計画だ。

 20年には、オーストラリアが同じような1000~2000キロメートルの射程を持つ武器の保有を決めたし、台湾、韓国もミサイルの射程を伸ばしている。ベトナムも中国の海南島を攻撃できるミサイルを保有した。フィリピンもインドからミサイルを輸入する交渉を進めている。

 このように、中国の周辺各国が同時に中国を攻撃する武器を保有することは、中国対策としては効果的なものと考えられる。中国の軍事費がいかに膨大でも、いろいろな国から攻撃を受けるかもしれないことを考えると、軍事費をさまざまな方向に分散させなければならなくなるからだ。

 例えば、中国が台湾や日本への攻撃を考えていたとしても、インドから攻撃を受けることを考えると、軍事費の一部をインド対策に割り当てておかなければならない。実際に中国が台湾や日本を攻撃した時に、インドが中国を攻撃する可能性が高くなかったとしても、一定額をインド対策に充てる必要が生じるのである。

 実際、インド軍の能力が上がるにつれて、中国が日本対策にむけて準備していた戦力の一部が、印中国境の方へ移動している。20年に印中両軍が衝突し、インド側だけで100人近い死傷者を出してからは、非常の多くの中国軍の部隊、戦闘機やミサイルなどが、インドとの国境に配備されている。つまり、インドの対中国戦力が整えば整うほど、日本が相手にしなければならない中国軍の戦力、そしてその戦力を動かすための軍事費が少なくなることを意味している。

 だから、インド軍の対中国攻撃能力の強化、そして、それを実行可能にするインド軍の統合軍の創設については、日本としては、早く実現してほしい構想だ。しかし、ラワット国防参謀長の死で、今後、計画は遅れるかもしれない。亡くなったのは21年12月8日、2022年1月1日時点で、後任はまだ決まっていない。今後のインド軍の動向が注目されるところである。

長尾 賢



ポコちゃま | 1日前
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インドが狙う対中国「敵基地攻撃能力」

表題は日本にとっても喫緊の課題ではないでしょうか。
中国海警が尖閣諸島周辺に居座り続け、沖縄の漁船を追い回している現在、日本も防衛力を高める必要があります。言い方を変えれば、日本に侵攻すれば自らもそれ相応の甚大な被害を被ることを悟らせるべきだと言えます。
日本も敵基地攻撃能力や核武装をも検討するべきだと思います。

軍事力のバランスこそが最大の抑止力となるはずです。

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ku****** | 1日前
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敵基地攻撃能力の保有は当たり前の事、専守防衛という定義そのものが可笑しいでしょう、攻められたら反撃する? 第一次攻撃で反撃を許さないほどの打撃を与えるのが当たり前、第一攻撃で日本が反撃出来る程の戦力を残さないようにし、日本を降伏交渉に持ち込む、中国と戦力に何倍もの差がついてしまった現在、専守防衛など絵に描いた餅です、日本人はこの現実を認識すべきです、自衛隊は米軍の応援が有っても守り切れる保証がない事、日本が自ら自国の防衛力を大きくするしかありません、核保有も例外なく議論すべきです、警戒すべきは日本組みやすしと中国に見られた時です、中国が日本侵略は無理だと自覚させる事しかありません、中国国内の主要都市を狙え、人民解放軍の基地を直接攻撃できるミサイルの配備や報復兵器を配備して中国が無傷で済まないと思わせなければなりません、弱みを見せた時、戦争になります、抑止力とは戦争を仕掛けられない力です。

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ryo***** | 1日前
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まずは日本のリーダーや有力者たちがあまり興味を持たない知らないがとても重要な話を詳細にわたり記事にされた筆者、長尾さんに敬意を表したい。但し、日本人向けの説明記事としてはこんな内容がタイミング的に良いのだろうが、インドは過去からパキスタンや中国に対しての敵基地攻撃能力を弾道ミサイル核戦力で相当なレベルで整備してきたのが事実。中国の大半の大都市はその射程距離内にある。筆者の視点からするとこれは核兵器攻撃を受けた場合の報復反撃力なのだろう。インド軍が整備を進める新敵基地攻撃能力の主体は超音速極超音速ミサイルでしょう。だから日本も巡航ミサイルなんて小さな事では駄目だろう。日本の専守防衛主義は海外からは理解し難い。何故なら兵器には防衛用、攻撃用なんて区分は無い。平和希求の理想は掲げても戦後の亡霊を振り払い、現実を直視し保有する事で敵国を牽制できる兵器を積極的に整備するのが国民を守る最強の策です。

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氷都のお銀 | 1日前
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放たれる弓を一本一本撃ち落とすのは至難の業。それよりも弓を放つ射手を倒した方が効率も良い。実際に射手を倒すかどうかは別として「倒す能力」を保有することで射手に弓を放つことを躊躇わせることが肝要だと思う。

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cir***** | 23時間前
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敵基地攻撃の前に日本は核弾頭を持つべき。
日本の周りの仮想敵国は、全て核兵器保有国、
日本が先に通常弾頭で攻撃して、核弾頭の反撃
を受けては本末転倒。核シェルターが殆ど無い
日本が核弾頭の反撃を受ければ国家機能を消失
し国が滅ぶ。核兵器の保有こそ、日本の領土領
海、国民の生命、財産を守る唯一の国防政策。
周りの仮想敵国より、格段に劣る兵器を幾ら買
い込んでも税金の無駄遣い。国防として意味の
有る兵器装備こそが国の安全を確保出来る。

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kai***** | 21時間前
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インドは、ネパール、ブータン、チベット、スリランカ、アフガニスタン等の歴史的周辺仏教国の保護国として相互安全保障条約と現地親インド団体と連携して大きな合衆国を形成してもよい。それが西アジアの安定と繁栄に一番寄与する形だ。その為にはヒマラヤを飛び越して直接中共の核心を狙える長距離弾道弾の増強と宣伝を積極的に行なうべきである。そうしないと東南アジア及び西アジアは全て中国共産党の手に陥る。同じ自由民主主義国家の一翼を担う大国としての自信と責任を持ってほしい。

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竹島と尖閣諸島は日本の領土 | 22時間前
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日本も台湾並みに、中国からの日本侵攻作戦を防止する抑止力を保有しなくてはいけない。

そのためには、弾道ミサイルや巡航ミサイル、爆撃機の保有は、避けて通れないと思う。

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yam***** | 7時間前
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現在の近代戦争はチョッカイを出して相手国を揺さぶりをかけてる段階で、相手はシュミレーションした幾通りの筋書きをアップデートしている。後は自国の何処からかで指令を出して、在る処からミサイルや陸海軍から攻撃を仕掛ける。唯中国は国土が広すぎて秘密裏に散らばった軍事施設から攻撃されたら、手に負えない 将棋や囲碁では勝負は詰んでるのと同じ、対抗するにはやはり同盟国で役割分担で事前に、攻撃目標を決めて置く 命令系統を叩くのが優先される 国のトップと軍トップ ロシアから武器を買い入れる強かなインドですから、

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マスコミ監視委員 | 1日前
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次期高市総理大臣が令和番の富国強兵所得倍増計画で令和維新を成し遂げ日本人を再び最強の戦闘民族作り替えてくれるんじゃない。

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風太 | 23時間前
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なるほど、手っ取り早いのは日本政府はインドからミサイル買えばいいのだね!アメリカ一辺倒じゃなく、すぐ北海道、本州沖縄諸島とか,日本国産が出来るまでのつなぎとして



不偏不党 | 18時間前
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軍備に資金を使わせて、インドの経済発展を遅らせようとする中国の罠に嵌められているような気がする。中国にとっては、究極の競争相手は米国ではなく、インドだ。

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lin***** | 23時間前
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>>>20年春、中国軍がインド側に侵入して印中両軍が衝突、インド兵だけで100人近い死傷者を出した。

衝突発生後、インド首相は、”中国軍はインドの「実効支配領域」に侵入していない”、とも発言した。

実に、中国軍がインド支配領域の近辺に軍関連施設の建設を”強行”したことは事件の発端だった。

この記事は「中国軍がインド側に侵入」を強調し、インド首相よりもインドを愛し、むやみにも擁護しようとしている。

無知か、事実を無視する”識者”は偏らず参考に値する記事を書くことができないだろう。

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kokubo | 16時間前
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インドは核兵器を所有しています。核もなくてアメリカの兵器を言い値で買っているだけの日本政府は本当に国民を守れるのか?

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ma2***** | 1日前
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日本は何でも検討検討!
その検討も遅すぎるし、危機感が全くない!

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右往左往 | 1日前
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いざ戦争になったら「専守防衛」の戦い方なんかあるわけない。
紙の上での作戦なら「日本は盾に徹し、アメリカが矛を担当する」ということも不可能ではないが、実際の戦争場面で現場の指揮官が「ここから先は専守防衛の範囲を超えるから攻撃やめ!」などと命令できるわけがない。
日本は少なくとも他国から先に攻撃されない限り「実力」を行使しないのだから、その場合は敵基地攻撃能力を持つのは当たり前。ただし、まだ攻撃されていないのに先制攻撃はダメ。
先制攻撃も可能にしろとほざいているウルトラ右翼の政治家は、真珠湾攻撃で日本は何を失ったかの反省が全然ない。

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kum***** | 1日前
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インドをあてにするんでなくて、一緒に能力を強めれば更に効果的なのに日本の政治家は全く・・

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pynkici | 1日前
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我が国日本は、ローコストの迎撃手段を既に保有している!連射も可能!ソレは、遺憾砲だ!

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hua***** | 23時間前
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いくら叫んでも日本にアメリカ軍基地がある限り、自立は無理だろう、

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最大の政治課題は議員半減 | 23時間前
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尖閣諸島が侵略されていても何も出来ない自衛隊。中国は舐めるよね。沖縄の米軍は何もしない。日米同盟って何?

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sat***** | 1日前
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この類の情報、記事は貴重だ。
ありがとう。




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