<小児がんとの闘い>抗がん剤の毒性で一度止まった心臓 治療の継続はあまりにも残酷だと…

2018年07月28日 | 病気 余命を考える 死を迎える準備
<小児がんとの闘い>抗がん剤の毒性で一度止まった心臓 治療の継続はあまりにも残酷だと…
7/28(土) 7:11配信 読売新聞(ヨミドクター)
小児外科医 松永正訓
 千里ちゃん(仮名・3歳)のおなかの中には、手術で摘出できないくらい大きな小児がんがありました。その小児がんは大変珍しいタイプで、血圧を上昇させるホルモンを放出していました。したがって、千里ちゃんは3歳であるにもかかわらず高血圧の状態にあり、そのために心臓の働きが低下し、心不全になっていました。

<小児がんとの闘い>抗がん剤の毒性で一度止まった心臓 治療の継続はあまりにも残酷だと…
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完治すると思った千里ちゃんが「呼吸していない」
 私たちは、小児科の循環器グループと連携しながら、千里ちゃんに抗がん剤治療を開始しました。

 抗がん剤は効果を発揮し、X線CT(コンピューター断層撮影)を撮ってみると、腫瘍は縮小していました。腫瘍が十分に小さくなったところで私たちは手術をおこない、腫瘍をすべて摘出しました。あとは、追加の抗がん剤を投与すれば、千里ちゃんが完治する可能性は高いと言えます。手術が終わっても、小児循環器科の先生に、心臓の機能のチェックは継続してもらっていました。

 ある日の回診のことです。夕方でした。お母さんが千里ちゃんを抱っこしています。部屋は薄暗く、千里ちゃんの表情がよく見えません。そのとき、私は「あ!」と声を上げました。千里ちゃんは呼吸をしていないのです。

 私は慌てて千里ちゃんをベッドに寝かせてもらいました。心臓も止まっています。医師と看護師が千里ちゃんの周囲に殺到して、心臓マッサージを開始し、気管内挿管をして人工呼吸をしました。心臓を動かす薬も次々と注射しました。

脳にダメージ残り、寝たきりに
 心不全を起こしていた千里ちゃんの心臓が、ついに、投与した抗がん剤の毒性に耐えきれなくなってしまったのです。懸命の処置によって心臓の拍動が弱いながらも再開したのをとらえ、私たちは千里ちゃんをICU(集中治療室)に運びました。

 およそ1か月がたち、千里ちゃんはICUから小児外科の病室に帰ってきました。自分の力で呼吸はできますが、手足を動かしたり、言葉を出したりすることはできなくなっていました。心臓が止まっていた間に、脳に深刻なダメージが加わったからです。千里ちゃんは一生、寝たきりになってしまったのです。


腫瘍が再発 治療を再開すべきか?
 さらに悪いことが起きました。超音波検査で腹部に腫瘍が再発していることが分かったのです。がんを治すためには、もう一度、腫瘍の摘出手術と抗がん剤治療をおこなう必要があります。

 千里ちゃんの今後の治療について、私たちの見方は分かれました。がんの治療で一度は心臓が止まったのですから、もう限界にきている。治療は諦めるべきだという声が上がる一方で、もう一度トライしたいという意見も出ました。

 私は正直に言って、今後も抗がん剤を継続するのは千里ちゃんにとって残酷なことだと思いました。そこで両親と面談をしました。

両親は「どんなことがあっても助けて」
 2人の気持ちは一致していました。どんなことがあっても千里ちゃんを助けてほしい。もう一度、手術と抗がん剤治療をやってほしいというものでした。そして、こうも言います。「かつて、自分たちの友人が海で溺れ、一度は植物状態になったにもかかわらず、その後、完全に回復したことがあった。千里も元の状態に戻るかもしれない」と。

 私はそれでは困ると思いました。その友人が具体的にどんな状態だったか私には知りようがありませんが、千里ちゃんが元の状態に戻ることはあり得ません。それはくり返しおこなったX線CTや脳波検査から明らかです。

 私は、寝たきりの状態で生きていく千里ちゃんを両親が受容できないならば、治療を再開することは難しいと考えました。話し合いは平行線をたどり、お互いに納得するものにはなりませんでした。

 しかし、理由はどうあれ、患者側が治療を希望しているのに医療サイドがそれを拒否するのは正しくありません。私たちは千里ちゃんに2度目の手術をおこない、抗がん剤治療も再開しました。

奇跡は起きず わが子の姿を受け入れた両親
 その結果、千里ちゃんの小児がんは完治しました。そして、奇跡はやはり起きませんでした。千里ちゃんは依然として寝たきりのままです。しかし、両親がその現実に対して、がっかりした素振(そぶ)りを見せることはありませんでした。千里ちゃんのその姿を受け入れ、千里ちゃんを車いすに乗せて、病院に通ってくるようになりました。

 再開した抗がん剤治療でもう一度心臓が止まるようなことがあったら、私たちは悔やんでも悔やみきれなかったでしょう。けれども、千里ちゃんと両親はその過酷な治療を乗り越えました。千里ちゃんに「生きたい」という気持ちが強くあったからではないでしょうか。

<小児がんとの闘い>抗がん剤の毒性で一度止まった心臓 治療の継続はあまりにも残酷だと…
松永正訓(まつなが・ただし)
松永正訓(まつなが・ただし)
1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)など。2017年11月、『子どもの病気 常識のウソ』(中公新書ラクレ)を出版。





ある大学病院に末期がんで入院してた父親に看護師が着替えさせてたときに心臓が止まり、、、

すると看護師が、私の顔を見て、焦りながら心臓マッサージして蘇生させた。後で思ったが、そのままにしたほうが本人のためだった。

医療者は反射的に救命するが、ケースによっては残酷な結果に成ることまで医療関係者はほとんど考えない。
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