ついに対中強硬姿勢一色に染まった米国
6/30(火) 6:01配信
JBpress
6月24日、中国について語るロバート・オブライエン大統領補佐官(写真:AP/アフロ)
「トランプ政権下で、米国はようやく中国共産党の行為が脅威であることに目覚めました」
日本のメディアでは大きく報道されていないが、トランプ政権の国家安全保障担当補佐官ロバート・オブライエン氏が6月24日、アリゾナ州フェニックス市での講演で、冒頭の発言をしたのだ。
これだけでは全体像が明確ではないので補足させていただきたい。
米国は中国と国交正常化を果たした1979年以来、一貫して中国には「関与政策」を採用してきた。
共産党が政権を握っている国ではあるが、米国が他分野にわたって交流を深めれば、中国は世界の中で責任ある国家として、民主化に向かうはずであるとの考え方であったからだ。
だが最近になって、中国が米国の思い描く形で変わるとの期待は妄想にすぎず、むしろ民主国家にとっては脅威でしかないとの見方が台頭してきた。
オブライエン氏は講演でこう述べている。
「中国が経済的に豊かになり、強大な国家になれば、中国共産党は人民の中から生まれる民主化への希求に応えざるを得なくなる。我々はそう信じていた」
「これは米国で広く流布した考え方だが、楽観的過ぎたのかもしれない」
そして中国に対してナイーブでいたことを自省し、「消極的でいた日々はもう終わった」と言明したのだ。
米国があまりにも長きにわたって中国に期待をかけすぎていたことについて、同氏はこうも述べている。
「中国は以前よりもさらに強く、共産主義という体制に執着している。このことを予測できなかったことは、1930年代以来、米国の外交政策における最大の失敗といえる」
ホワイトハウスの国家安全保障担当補佐官という役職は、各時代で大統領に外交政策を直接提言する役割を担っている。
国務長官や国防長官とほぼ同レベルのポストであり、大統領とほぼ毎日顔を合わせることから、トランプの外交の中核とさえ言える要職である。
その人物が同じ講演で、習近平国家主席をこう評している。
「中国共産党はマルクス・レーニン主義国家だ」と前置きしてから、「習近平国家主席は自分をスターリンの後継者だと考えている」と述べ、中国がいずれ民主国家になるとの期待を捨て、共産主義国家として再認識する必要があると指摘。
同時に、冒頭の言葉どおり、「中国共産党の行為は脅威である」として警戒感を露わにしたのだ。
ところがトランプ大統領はこれまで逆の立場をとってきた。
習近平主席のことを「偉大なリーダー」と持ち上げ、自身の再選を果たすために、習近平主席の力を借りたいとの意思を見せてさえいる。
この状況を考察すると、大統領と補佐官の間には対中政策で亀裂が入っているかに思える。
事実、フェニックス市でのオブライエン演説は政権内外で波紋を呼んでいる。
ポリティコ誌のダニエル・リップマン記者は、オブライエン氏が「過激な演説」をしたと記した後、「習近平国家主席を独裁者スターリンと同等視し、世界情勢で邪悪な役割を担っている」と書き、対中強硬策に一定の評価を与えている。
またワシントン・ポスト紙のジョッシュ・ロギン記者も、「トランプ政権高官として、これまでで最も辛辣な中国批判をした」と評した。
同時に「オブライエン氏の中国への見立ては新しいものではない」と、トランプ政権内の事情も述べている。
それは政権内部ですでに反中国の動きが煮詰まっていたということでもある。
5月20日、トランプ政権は「中国に対する米国の戦略的アプローチ」という報告書を発表し、議会に提出している。
中国との敵対関係をより鮮明化させ、関与政策を過去のものにする内容となっている。
それからほぼ1カ月後、オブライエン氏がまず政権を代表する形で中国を批判してみせた。内容が内容だけに、約25分の演説であっても入念な準備を行ったという。
原稿をまとめ上げたのは元ウォールストリート・ジャーナル紙の記者で、現大統領副補佐官のマシュー・ポッティンジャー氏。
さらに国家安全保障会議のアジア担当者たちも手助けしている。しかも政権内部からの対中批判の流れはこれからも続いていく。
今後数週間で、マイク・ポンペオ国務長官、ウィリアム・バー司法長官、そしてクリストファー・レイ連邦捜査局(FBI)長官が対中批判の演説を行う予定になっている。
奇しくもオブライエン氏の前任者は、いま米国で話題になっている『それが起きた部屋:ホワイトハウス回顧録』の著者ジョン・ボルトン氏である。
ボルトン氏によれば、トランプ大統領は中国に柔軟姿勢を採り、自身の再選が叶うように中国側に要請していたという。
となると、大統領と補佐官たちとの間には対中感で乖離があるかに思われる。
ただ、ボルトン氏がホワイトハウスを後にしたのは昨年9月である。回顧録の記述がいま現在のトランプ大統領と補佐官たちの対中観を正確に表しているかは疑わしい。
というのも、大統領を含めた政権内部の中国観が新型コロナウイルスの対処を含めて、過去数カ月でガラリと変わってきているからだ。
前出のロギン記者も書いている。
「複数の政府関係者の証言によると、ボルトン氏が政権を去ってから、トランプ大統領の対中観に変化が見られた」
米国は新型コロナウイルス感染症拡大によって人命だけでなく、経済的にも多大な損失を計上したことで、トランプ大統領は「疲れ果てた」との思いを強くしているという。
ただトランプ政権は貿易交渉においては今年1月、中国と包括的貿易協定の第1段階合意に署名した。
6月に入ってからもランプ大統領やライトハイザー通商代表部(USTR)代表、またポンペオ国務長官はそれぞれが「米中合意はそのまま有効」というサインを送っている。
米中関係は当然ながら、重層的に論考していかなくてはいけない。
しかしながら、いま反中強硬策の流れが生まれて「戦いの狼煙」があがったところであり、これが今後のトランプ政権の中核的な考え方になっていきそうである。
堀田 佳男
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JBpress
6月24日、中国について語るロバート・オブライエン大統領補佐官(写真:AP/アフロ)
「トランプ政権下で、米国はようやく中国共産党の行為が脅威であることに目覚めました」
日本のメディアでは大きく報道されていないが、トランプ政権の国家安全保障担当補佐官ロバート・オブライエン氏が6月24日、アリゾナ州フェニックス市での講演で、冒頭の発言をしたのだ。
これだけでは全体像が明確ではないので補足させていただきたい。
米国は中国と国交正常化を果たした1979年以来、一貫して中国には「関与政策」を採用してきた。
共産党が政権を握っている国ではあるが、米国が他分野にわたって交流を深めれば、中国は世界の中で責任ある国家として、民主化に向かうはずであるとの考え方であったからだ。
だが最近になって、中国が米国の思い描く形で変わるとの期待は妄想にすぎず、むしろ民主国家にとっては脅威でしかないとの見方が台頭してきた。
オブライエン氏は講演でこう述べている。
「中国が経済的に豊かになり、強大な国家になれば、中国共産党は人民の中から生まれる民主化への希求に応えざるを得なくなる。我々はそう信じていた」
「これは米国で広く流布した考え方だが、楽観的過ぎたのかもしれない」
そして中国に対してナイーブでいたことを自省し、「消極的でいた日々はもう終わった」と言明したのだ。
米国があまりにも長きにわたって中国に期待をかけすぎていたことについて、同氏はこうも述べている。
「中国は以前よりもさらに強く、共産主義という体制に執着している。このことを予測できなかったことは、1930年代以来、米国の外交政策における最大の失敗といえる」
ホワイトハウスの国家安全保障担当補佐官という役職は、各時代で大統領に外交政策を直接提言する役割を担っている。
国務長官や国防長官とほぼ同レベルのポストであり、大統領とほぼ毎日顔を合わせることから、トランプの外交の中核とさえ言える要職である。
その人物が同じ講演で、習近平国家主席をこう評している。
「中国共産党はマルクス・レーニン主義国家だ」と前置きしてから、「習近平国家主席は自分をスターリンの後継者だと考えている」と述べ、中国がいずれ民主国家になるとの期待を捨て、共産主義国家として再認識する必要があると指摘。
同時に、冒頭の言葉どおり、「中国共産党の行為は脅威である」として警戒感を露わにしたのだ。
ところがトランプ大統領はこれまで逆の立場をとってきた。
習近平主席のことを「偉大なリーダー」と持ち上げ、自身の再選を果たすために、習近平主席の力を借りたいとの意思を見せてさえいる。
この状況を考察すると、大統領と補佐官の間には対中政策で亀裂が入っているかに思える。
事実、フェニックス市でのオブライエン演説は政権内外で波紋を呼んでいる。
ポリティコ誌のダニエル・リップマン記者は、オブライエン氏が「過激な演説」をしたと記した後、「習近平国家主席を独裁者スターリンと同等視し、世界情勢で邪悪な役割を担っている」と書き、対中強硬策に一定の評価を与えている。
またワシントン・ポスト紙のジョッシュ・ロギン記者も、「トランプ政権高官として、これまでで最も辛辣な中国批判をした」と評した。
同時に「オブライエン氏の中国への見立ては新しいものではない」と、トランプ政権内の事情も述べている。
それは政権内部ですでに反中国の動きが煮詰まっていたということでもある。
5月20日、トランプ政権は「中国に対する米国の戦略的アプローチ」という報告書を発表し、議会に提出している。
中国との敵対関係をより鮮明化させ、関与政策を過去のものにする内容となっている。
それからほぼ1カ月後、オブライエン氏がまず政権を代表する形で中国を批判してみせた。内容が内容だけに、約25分の演説であっても入念な準備を行ったという。
原稿をまとめ上げたのは元ウォールストリート・ジャーナル紙の記者で、現大統領副補佐官のマシュー・ポッティンジャー氏。
さらに国家安全保障会議のアジア担当者たちも手助けしている。しかも政権内部からの対中批判の流れはこれからも続いていく。
今後数週間で、マイク・ポンペオ国務長官、ウィリアム・バー司法長官、そしてクリストファー・レイ連邦捜査局(FBI)長官が対中批判の演説を行う予定になっている。
奇しくもオブライエン氏の前任者は、いま米国で話題になっている『それが起きた部屋:ホワイトハウス回顧録』の著者ジョン・ボルトン氏である。
ボルトン氏によれば、トランプ大統領は中国に柔軟姿勢を採り、自身の再選が叶うように中国側に要請していたという。
となると、大統領と補佐官たちとの間には対中感で乖離があるかに思われる。
ただ、ボルトン氏がホワイトハウスを後にしたのは昨年9月である。回顧録の記述がいま現在のトランプ大統領と補佐官たちの対中観を正確に表しているかは疑わしい。
というのも、大統領を含めた政権内部の中国観が新型コロナウイルスの対処を含めて、過去数カ月でガラリと変わってきているからだ。
前出のロギン記者も書いている。
「複数の政府関係者の証言によると、ボルトン氏が政権を去ってから、トランプ大統領の対中観に変化が見られた」
米国は新型コロナウイルス感染症拡大によって人命だけでなく、経済的にも多大な損失を計上したことで、トランプ大統領は「疲れ果てた」との思いを強くしているという。
ただトランプ政権は貿易交渉においては今年1月、中国と包括的貿易協定の第1段階合意に署名した。
6月に入ってからもランプ大統領やライトハイザー通商代表部(USTR)代表、またポンペオ国務長官はそれぞれが「米中合意はそのまま有効」というサインを送っている。
米中関係は当然ながら、重層的に論考していかなくてはいけない。
しかしながら、いま反中強硬策の流れが生まれて「戦いの狼煙」があがったところであり、これが今後のトランプ政権の中核的な考え方になっていきそうである。
堀田 佳男
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