夫の腎臓をもらった私 「手術の後、相手のことが嫌いになったらどうする?」…質問への答えは
10/13(日) 13:10配信
読売新聞(ヨミドクター)
夫の腎臓をもらった私 「手術の後、相手のことが嫌いになったらどうする?」…質問への答えは
手術直前の夫と私
もろずみ・はるか 夫と腎臓とわたし~夫婦間腎移植を選んだ二人の物語
秋めいた肌寒さを感じて、目を覚ました。3~4時間、別室で仕事して再びベッドに戻ると、夫が寂しそうに抱きしめてくれた。私を、というより、私のおなかにある「夫の腎臓」を抱きしめた感覚があった。本来、生まれて死ぬまでつながりあっていたはずの二つの腎臓。生き別れのような状態にしてごめんなさい……と複雑な気持ちになる。
妙なことだとわかっている。「臓器にも記憶や感情があるのではないか」と錯覚する時があるのだ。
例えば、泊まりの出張のとき。夫の腎臓と物理的な距離が離れているせいか、落ち着かなくて眠れなくなる。対策として、オンライン電話でつながって、夫の気配を感じながら目を閉じる。すると、10分もせず深い眠りにつける。
こんなこと、移植前にはありえなかった。そのうち、私が知らない夫の記憶が、ふんわり夢に出てくる……なんてことがあっても、きっと私は驚かないと思う。
夫の腎臓をもらった私 「手術の後、相手のことが嫌いになったらどうする?」…質問への答えは
「日本臨床腎移植学会・腎移植臨床登録集計報告(2018)』より抜粋
親子間より夫婦間の方が多くなった腎移植
近年、健康な人から腎臓を提供してもらう「生体腎移植」で、血のつながりがない夫婦間の腎移植が増えている。免疫抑制剤の開発と組織適合性検査の進歩のおかげだ。
「日本臨床腎移植学会・腎移植臨床登録集計報告(2018)」によると、2017年に夫婦間で実施された例は、全体の1429例中、566例(39.6%)。親子間の531例(37.2%)や兄弟・姉妹間の150(10.5%)を上回り、1位となっている。
私の主治医である東京女子医科大学病院の石田英樹先生はこう説明する。
「夫婦間腎移植は、2000年ごろまでは我々医師の間でもタブー視されていたところがあります。単純に血縁ではないからです。今でもあたりまえではないかもしれません。しかし私は、夫婦で、というのは良いのではないかと思っています。生涯、生活を共にする伴侶なのですから」
夫婦は、運命共同体だ。夫が病になろうと、妻が病になろうと生涯を共にする。
11年前、東京・市ヶ谷のチャペルで式をあげた。「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」。私と夫は「誓います」と形式的に言ったのだが、それがどういうことなのか、夫からの移植を受けて、ようやく理解できた気がする。
深夜にガバッと起き、自分の頬をバンバンたたいた私
移植前の夫と私はまさに“病めるとき”にぶち当たり、家庭に不穏な空気が流れることもしばしばあった。妻の病を、夫が一人で引き受けてくれていたのだから。
腎機能が低下し、代替治療をしないと生きられなくなった私は、「こんな私、消えてなくなればいい」と言って、オイオイ泣いた。スマートフォンを床に投げつけたこともある。口癖は「疲れた」と「消えたい」。
深夜にガバッと起き出して、自分の頬をバンバンたたいたことも……。正気の沙汰じゃなかったが、それでも夫は私から離れようとせず、「大丈夫。大丈夫だから」と言って、私が眠りに落ちるまで、全身をマッサージしてくれたのである。平日のど真ん中、早朝4時の出来事だった。
現在の私は、人が変わったように穏やかだ。口癖は「しあわせだね」。最近のお気に入りは東京・永田町。自宅から1時間かけて夫と徒歩で向かい、「昼間は暑くなるね」とか言いながら、たっぷり汗をかいて、得意の「しあわせだね」を連呼している。「はるかさん、明日はどこ散歩する?」夫も楽しそう。家庭に花が咲いたようだ。
経験者の「しあわせな顔」 それが移植医療の成果
「怖くなかったですか?」
と聞かれたことがある。学生さんからされた質問だ。
「腎移植後、夫さんのことが嫌いになっても別れられないから」
恋愛至上主義の若者らしく、倫理観を飛び越えたピュアな質問である。
これには、「考えもしなかった!」というのが私の本音だ。ドナーとレシピエント(臓器受給者)の関係は、一線を越えたような関係で、血と血が混ざり合い、溶け合うような愛が体内に流れているのだと思っている。もちろん救った人より、救われた人の方が、何十倍も想(おも)いは強いだろう。夫から三行半(みくだりはん)を突きつけられないよう、妻としてしっかりせねば。
今月、患者会「あけぼの会」の創立20周年記念パーティーが東京・新宿で開かれる。夫婦間腎移植を受けたドナーとレシピエントもたくさん来られるだろう。お会いするたびに胸がいっぱいになる。「顔に、しあわせって書いてあるなぁ」と。今、患者がどんな顔をしているか。それこそが移植医療の成果であるように思う。
監修 東京女子医科大学病院・石田英樹教授
夫の腎臓をもらった私 「手術の後、相手のことが嫌いになったらどうする?」…質問への答えは
もろずみ・はるか
もろずみ・はるか
医療コラムニスト
1980年、福岡県生まれ。広告制作会社を経て2010年に独立。ブックライターとしても活動し、編集協力した書籍に『成約率98%の秘訣』(かんき出版)、『バカ力』(ポプラ社)など。中学1年生の時に慢性腎臓病を発症。18年3月、夫の腎臓を移植する手術を受けた。
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isi***** | 2時間前
血液透析の彼女がいる者です
穏やかな日がずっと続けられているわけでは無いし
ケンカもまあ・・します
大事なのは自分も相手も大事に思い
感情に流され過ぎずに一歩立ち止まって
話し合うことが上手くやっていけるこつだと思っています
なんだよって思う日はあっても嫌いになるわけじゃない
「腎臓が繋がってるから」や「迷惑かけたから」は
一つの理由で、今の状況はこの二人の努力の賜物で
凄く相手を思いやれる良い状態で関係なのだなと思いました
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返信14
ohm***** | 1時間前
私は当時付き合っていた彼女に入籍と同時に自分の腎臓を提供しました。
当時は彼女(今は妻)の方が罪悪感があった様で、なかなか入籍に至らなかったのですが、私はそれ程重く考えていませんでした。
だから、『別に一つで問題ないんだから、気にする事は何もない』『2人で生きて行くのだから、お互い健康に注意して生きていけば良い』私は、感謝されようとは思ってないし、しては欲しくもないんです。いつまでも、妻とはイーブンでいたい。ケンカや口論があっても、それでたとえ離婚する事になったとしても、それはそれで、移植の話と一緒にしたくないんです。
でないと、移植した事が、妻にいつまでも重荷になってしまう。その方が私には耐えられない。
ドナーになる方は是非もう一度しっかり考えて欲しい。恩着せがましい事をいうのなら、ドナーになる資格はない
手術から5年がたった今でもその時と変わらない考えです。
kes***** | 1時間前
自分も最近腎臓移植しました。
ドナーは母親です。
正直、自分の落ち度(不摂生)で壊してしまった臓器を母親からとはいえ貰い受ける事に抵抗がありました。
その話を母に告げたら「それで息子が長生き出来るなら1個位持ってっても何も問題ないよ」って言われて涙を流しました。
親子関係だからなのかも知れませんが、夫婦間でも同じ事言って貰えるかわかりません。
多分、旦那さんは同じ歩幅で生きて行きたいと強く思ったので移植を決断したんだと思います。
ですが、レシピエント側は決して忘れてはいけない事があります。
それは、『健常者から臓器を貰う事は究極のエゴ』だと言う事です。
そのエゴをドナーに向ける以上、絶対に頂いた臓器を大切にする事。
これは自分自身に強く抱くドナーへの感謝でもあると思ってます。
これからも旦那さんの臓器を死ぬまで大切に使わせて貰って、感謝を忘れずに頑張って頂きたです。
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返信4
igo***** | 24分前
私は昨年、兄にドナーとして提供しました。
親からの常染色体優性遺伝による腎奇形の家系で私と長兄だけ健康な身体に生まれ、次兄だけが遺伝してしまいました。
この病気は、コイントスのようなもので出るか出ないか、の2択しかないそうです。
私にはなく、また子供2人も検査をし陰性でしたので、もう子供たちが同じ病気の人と出会わない限りはこの遺伝が下の世代に繋がっていくことはないと言われ、満を持して兄へ提供となりました。
次兄はその腎奇形のために離婚しました。
相手方のご両親ももしかしたら孫に出るかもしれないことが受け入れられなかったようです。病気を受け入れた上で一度は一緒になりましたがやはり苦労はして欲しくない、と説得されたようです。
私は結婚も出産も平凡だけど普通に味わうことができました。今度は兄が幸せになってもらいたい。わがままを許してくれたウチの旦那にも感謝です。
stmartin | 2時間前
美談ですし、私は結婚後20年経ちましたし、夫に腎臓あげても良いと思っています。
知り合いで、結婚前から腎臓が悪く、でき婚し、結婚後わりと早く腎臓をくださいと言ったら、それが目的だったのか?といわれ離婚された人がいます。私は相手の人が悪いとは思えないです。知り合いも否定できなかったとのこと。
それが目的での結婚なら怖いです。
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返信5
kumamamon |1時間前
毎日透析患者と接していますが、夫婦間の生体腎移植をされるケースに当たったことは1名だけです。
高齢者がほとんどで配偶者にもドナーとしての適性がないことも多いですが、配偶者に提供してもらうことが当たり前のような風潮になってはいけないと思います。
もしかしたら移植によって夫婦共倒れの可能性だってある。
残った子供は誰が見るのか?など、社会背景を総合的に判断しなければならない。
移植することで愛情を測るものではない。
人工透析をする配偶者の生活を支えることも愛情だと思います。
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igo***** |21分前
私は兄へのドナー経験者ですが、どんな病気でも確率的には一緒ですよ。
日頃から気をつけているのか、自堕落な生活を送っているのか。
腎臓が二つあっても後者なら長生きできないと思いますし。
日本の医療を見くびってはいけません。
私は単腎になったからこそなお、健康には留意するようになりましたしね。
交通事故の可能性だって単腎の人も健康体の人も同じです。
なんでも用心しながらほどほどに生きる。
当たり前ですがあげたんだから、と見返りなんて一切求める気もありません。
逆に今の日本は長生きすればするほど生きにくい世界であることを自覚もしています。
なのでほどほどでいいです(^^)
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@_@ |1時間前
否定できなかったということは、それが目的というのもあった、という事なのでしょうか?
だとしたら怖すぎますが。。
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ait***** |1時間前
最後は自分が一番大切だからね
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***** |49分前
透析患者ですが配偶者に腎臓くれなんて冗談でも言えません。
2つあって正常に機能してる臓器です。
一つになったら絶対負担がかかると思います。
大切な人に腎臓くださいとは言えません。
tan***** | 1時間前
臓器移植は簡単な話ではありません。
死亡した人から移植されるならともかく、生きている人からもらうとなると、双方にリスクが伴います。
臓器を提供する側も手術をしたら終わりではなく、その後もずっと定期検診と薬を飲み続ける必要があります。
私の友人は、息子さんより肝臓の提供を受け成功しましたが、息子さんは一年後睡眠中に突然死、友人は5年後に亡くなりました。
臓器移植は手術の成功の話ばかりが注目され、その後の話はほとんど話題になりません。
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pyo***** |6分前
身内に生体腎移植した者もおり
友人にも4人生体腎移植した者が
居ますが腎移植によって
ドナーが薬を飲み続けている人は一人も居ませんが。
元々服用していた降圧剤を引き続き飲んでいる人は居ますがドナーになったからと言って飲む薬は聞いた事無いですよ。
ちなみにドナーの定期検診も通常年に一回
受ける一般の健康診断と全く一緒で
尿と血液検査程度を手術した病院で
年に一度受けるだけ。
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izu***** |30分前
提供側が薬を飲み続けるとはどのような薬ですか?
nat***** | 1時間前
移植ですか。ぼくは血液透析20年目ですが今も移植する気になれません。
夫婦間の移植もここ10年くらいですか、増えてきましたね。
移植して定着して必ず長く持つならいいですけど、親からもらったけど半年で再透析とかいう話も知ってます。
2回移植してる方も知ってます。
でもねぇ、ぼくには移植は考えられないのです。よほどのことがない限り…
cho***** | 2時間前
移植腎は永久にもたないので、どこかの段階で透析をしなければならなくなる。でも、嫌いになる事はないと思う。
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yog***** | 1時間前
自分は49歳で透析になり2年半過ぎました。
生活において制限拘束ありますが、障害年金が支給されるんで、透析中の拘束時間は年金というお給料いただくためのバイトやと思って辛抱してます。体調もすぐれない日が多いですが、もっと辛い思いされてる方は世の中たくさんいますし、日一日一日を前向きに生きるように心がけてますね。移植でなく、近い将来再生医療が解決してくれると信じてます。
kmm***** | 25分前
俺は片方の腎臓が萎縮していて、それが元で腎高血圧症になった。治療中やけど。
正常の方が長さにしたら11.5cmで萎縮している方は7.5cm。医師が言うには萎縮している方は機能していないと考えて片方の腎臓を大事にして下さいとの事。だから毎日、朝晩に血圧測って薬服用して食事とかにも気を使っている。
40年近く吸ってたタバコも止めた。
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nnc***** | 1時間前
私の腎臓あげるよ!って妻が泣きながら言ってました。でも、私は透析を選びました。
妻は18歳下で若いです。私に何かあった場合にやり直せます。
色々悩みました。
愛してるからこそ断る事も、当事者になって強く思いました。
dan***** | 36分前
腎移植は手術自体は簡単だけど、その後どうやって移植腎(機能)を維持するか、腎毒性がある免疫抑制剤とどうやって付き合っていくか(使いすぎたら、薬毒性で腎機能を喪失するし、拒絶反応は怖い)だから難しい。
何方にしろ、彼女は夫と別れることはないでしょうね。
rab***** | 2時間前
父親から腎臓貰いました。大事にしているけど、繋がっているとは思いませんね。親子だからかな?
旦那はHLA検査したら危ないレベルで拒絶反応出ました(笑)出産していると、旦那の遺伝子に拒絶反応起こす女性がいるそうです。
最初から旦那の腎臓は子ども達に取っておきたかったから、「子ども達に何かあったら腎臓あげてね。」って言っておきました。
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