■ 改定された学習指導要領解説
このほど文部科学省が、小学校向けの学習指導要領の解説を改定し、発表しました。
その中で、初めて「各地への空襲、沖縄戦、広島・長崎への原子爆弾の投下など、国民が大きな被害を受けた」という記述が加えられたことが報じられています。
この記述が加えられたことについて、私は率直に評価しますが、しかしこれは126ページに及ぶ「社会編」の僅か一部分に過ぎないことを忘れてはなりません。
■ 執拗に登場する「愛国心」
この解説は元々、06年12月、安倍政権が強行した改定教育基本法、そしてそれに従って改定された学習指導要領についての解説です。
全体を読んでみれば、「戦前回帰」を目指した安倍政権時代の、復古的・国家主義的教育観が色濃く反映されたものとなっています。
例えば、「日本人としての自覚」という記述は11回も登場しますし、実に50回以上も登場する「愛情」「愛する心情」という表現は、「我が国の国土に対する愛情を育てる」「我が国の歴史に対する愛情を育てる」という文脈で使われ、特に6年生に対しては「我が国の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情を育てるようにする」と、しつこいほど露骨な「愛国心教育」が掲げられています。
やはり、ここでも教育基本法改定の際の「内面には踏み込まない」という政府答弁とは全く正反対の内容です。
■ 「天皇」
さて、その「愛国心」「国家主義」を煽る道具の一つは、戦前・戦中の教育と同じ「天皇」です。
具体的には、初期段階で「古事記・日本書紀・風土記」などの「神話・伝承」を使って「天皇=神の末裔」像を刷り込み、聖徳太子や大化改新について「天皇を中心にした新しい国づくり」の意識付けを行い、挙句には、大仏建立まで「「天皇を中心にしてつくられた新しい国家の政治が都だけでなく全国にも及んだ」という極めて一面的な部分のみを強調する内容です。
その後、武家政治の時代を経て、明治維新によって再び「天皇中心の国家」となったことを強調するという、さながら森政権時代の「神の国」を思い出させるような、徹底ぶりです。
■ 「国旗」「国歌」
「愛国心」を煽る「道具」は天皇だけではありません。
やはり、国旗や国歌も忘れてはならない存在です。
解説では、「国旗があることを理解するとともに,それを尊重する態度を育てるよう配慮する」「我が国の国旗と国歌の意義を理解させ,それらを尊重する態度を育てることが大切」と、国旗国歌法制定時に「教育現場で強要しない」としていた政府答弁とは大きくかけ離れた内容です。
ただし、国旗・国家の意義や経緯については、天皇ほどの執拗さはなく、「長年の慣行」という実にお粗末な理由が付されているだけです。
中国や韓国などへの配慮があるのかもしれませんが、所詮その程度でしかないのであれば、わざわざ強調する必要もないはずです。
■ 「領土問題」
「愛国心」を煽るには、やはり「敵」を作るのが効果的です。
それで、与党などが必死に、教育に持ち込もうとしているのが「領土問題」です。
解説では、特に「北方領土の問題」について、「現在ロシア連邦によって不法に占拠されていることや,我が国はその返還を求めていることなどについて触れるように」と念を押しています。
しかし、ここでも中国や韓国などへの配慮が見られ、その帰属をめぐって中国や台湾と論争のある尖閣諸島や、韓国と論争のある竹島は、盛り込まれていません。
そもそも、日本のみならず他の国々も、領土問題を小学生に教えて何になるのでしょうか。領土問題で交渉を行うのはその国の政府です。政府間交渉によって画定した線引きを、子どもたちに教えてあげれば良いのであって、子どもたちに領土問題の争いを教えたところで、何一つ進展などありません。
このように領土問題を教育に持ち込んで「感情的なしこり」を残すだけの教育は愚かです。
■ 中韓米より子どもたちへの「配慮」を
これまで述べてきたように、中国や韓国には配慮がなされています。
また、今回盛り込まれた「空襲」「沖縄戦」「原爆」などを行った「アメリカ合衆国」という国を全く登場させないという、同じような米国への配慮もなされています。
しかし、本当に配慮しなければならないのは、「教育の権利主体」である子どもたちです。
執拗な「愛国心教育」を振りかざして、子どもたちの内面や感情に踏み込むというのは、子どもたちの権利・自由の侵害ですし、その後の人生を狂わせかねません。
■ 「戦争の悲惨さ」を語り継ぐことの意味
そうした弊害は、中国の「愛国」教育や、北朝鮮の「権力者崇拝」教育を見れば、よく分かります。また、日本でも、教育勅語から敗戦までの約55年間、歪んだ国家主義教育が、どれほど多くの人々を不幸に陥れ、死に追いやったかを思い出す必要があるでしょう。
いま同じ方向へ、同じような手口で、今の日本の教育が蝕まれようとしています。
「空襲」「沖縄戦」「原爆」の記述は、所詮そのことへの批判をかわそうとする「目くらまし」に使われたと言っても過言ではありませんが、この記述は子どもたちにとっては重要です。
戦争によって結局、不幸や死を背負わされるのは、国民です。戦争がいかに悲惨な結果をもたらすかを語り継いでいくことは、子どもたちが将来、過ちをおかさないようにするために大切なことです。
■ 取り戻したい「子どもたちのための教育」
こうした記述を引き出したのは、国民の声でした。
戦前への逆行を命じる進軍ラッパを吹き鳴らした安倍政権は、国民から強い批判を浴びて昨年の参院選後に崩壊し、今や参議院では「憲法9条は変えるべきではない」という議員が過半数に達しています。
その後、高校の教科書から、沖縄戦での集団自決に関して日本軍が「強制」したという記述を削除させる検定意見に、沖縄県を中心に怒りの声が沸きあがりました。
「関与した」という記述を認めるなど小手先のごまかしで、今も検定意見を撤回しない文部科学省に対して、私も憤りを禁じ得ませんが、こうした政治的・社会的な動きがあったからこそ、今回ようやく解説に「空襲」「沖縄戦」「原爆」などが盛り込まれたのです。
安倍政権の「亡霊」によって歪められようとする教育に対し、声を上げ続け、政府や権力者のためではなく、真に子どもたちのための教育を取り戻したいと、私は思います。
このほど文部科学省が、小学校向けの学習指導要領の解説を改定し、発表しました。
その中で、初めて「各地への空襲、沖縄戦、広島・長崎への原子爆弾の投下など、国民が大きな被害を受けた」という記述が加えられたことが報じられています。
この記述が加えられたことについて、私は率直に評価しますが、しかしこれは126ページに及ぶ「社会編」の僅か一部分に過ぎないことを忘れてはなりません。
■ 執拗に登場する「愛国心」
この解説は元々、06年12月、安倍政権が強行した改定教育基本法、そしてそれに従って改定された学習指導要領についての解説です。
全体を読んでみれば、「戦前回帰」を目指した安倍政権時代の、復古的・国家主義的教育観が色濃く反映されたものとなっています。
例えば、「日本人としての自覚」という記述は11回も登場しますし、実に50回以上も登場する「愛情」「愛する心情」という表現は、「我が国の国土に対する愛情を育てる」「我が国の歴史に対する愛情を育てる」という文脈で使われ、特に6年生に対しては「我が国の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情を育てるようにする」と、しつこいほど露骨な「愛国心教育」が掲げられています。
やはり、ここでも教育基本法改定の際の「内面には踏み込まない」という政府答弁とは全く正反対の内容です。
■ 「天皇」
さて、その「愛国心」「国家主義」を煽る道具の一つは、戦前・戦中の教育と同じ「天皇」です。
具体的には、初期段階で「古事記・日本書紀・風土記」などの「神話・伝承」を使って「天皇=神の末裔」像を刷り込み、聖徳太子や大化改新について「天皇を中心にした新しい国づくり」の意識付けを行い、挙句には、大仏建立まで「「天皇を中心にしてつくられた新しい国家の政治が都だけでなく全国にも及んだ」という極めて一面的な部分のみを強調する内容です。
その後、武家政治の時代を経て、明治維新によって再び「天皇中心の国家」となったことを強調するという、さながら森政権時代の「神の国」を思い出させるような、徹底ぶりです。
■ 「国旗」「国歌」
「愛国心」を煽る「道具」は天皇だけではありません。
やはり、国旗や国歌も忘れてはならない存在です。
解説では、「国旗があることを理解するとともに,それを尊重する態度を育てるよう配慮する」「我が国の国旗と国歌の意義を理解させ,それらを尊重する態度を育てることが大切」と、国旗国歌法制定時に「教育現場で強要しない」としていた政府答弁とは大きくかけ離れた内容です。
ただし、国旗・国家の意義や経緯については、天皇ほどの執拗さはなく、「長年の慣行」という実にお粗末な理由が付されているだけです。
中国や韓国などへの配慮があるのかもしれませんが、所詮その程度でしかないのであれば、わざわざ強調する必要もないはずです。
■ 「領土問題」
「愛国心」を煽るには、やはり「敵」を作るのが効果的です。
それで、与党などが必死に、教育に持ち込もうとしているのが「領土問題」です。
解説では、特に「北方領土の問題」について、「現在ロシア連邦によって不法に占拠されていることや,我が国はその返還を求めていることなどについて触れるように」と念を押しています。
しかし、ここでも中国や韓国などへの配慮が見られ、その帰属をめぐって中国や台湾と論争のある尖閣諸島や、韓国と論争のある竹島は、盛り込まれていません。
そもそも、日本のみならず他の国々も、領土問題を小学生に教えて何になるのでしょうか。領土問題で交渉を行うのはその国の政府です。政府間交渉によって画定した線引きを、子どもたちに教えてあげれば良いのであって、子どもたちに領土問題の争いを教えたところで、何一つ進展などありません。
このように領土問題を教育に持ち込んで「感情的なしこり」を残すだけの教育は愚かです。
■ 中韓米より子どもたちへの「配慮」を
これまで述べてきたように、中国や韓国には配慮がなされています。
また、今回盛り込まれた「空襲」「沖縄戦」「原爆」などを行った「アメリカ合衆国」という国を全く登場させないという、同じような米国への配慮もなされています。
しかし、本当に配慮しなければならないのは、「教育の権利主体」である子どもたちです。
執拗な「愛国心教育」を振りかざして、子どもたちの内面や感情に踏み込むというのは、子どもたちの権利・自由の侵害ですし、その後の人生を狂わせかねません。
■ 「戦争の悲惨さ」を語り継ぐことの意味
そうした弊害は、中国の「愛国」教育や、北朝鮮の「権力者崇拝」教育を見れば、よく分かります。また、日本でも、教育勅語から敗戦までの約55年間、歪んだ国家主義教育が、どれほど多くの人々を不幸に陥れ、死に追いやったかを思い出す必要があるでしょう。
いま同じ方向へ、同じような手口で、今の日本の教育が蝕まれようとしています。
「空襲」「沖縄戦」「原爆」の記述は、所詮そのことへの批判をかわそうとする「目くらまし」に使われたと言っても過言ではありませんが、この記述は子どもたちにとっては重要です。
戦争によって結局、不幸や死を背負わされるのは、国民です。戦争がいかに悲惨な結果をもたらすかを語り継いでいくことは、子どもたちが将来、過ちをおかさないようにするために大切なことです。
■ 取り戻したい「子どもたちのための教育」
こうした記述を引き出したのは、国民の声でした。
戦前への逆行を命じる進軍ラッパを吹き鳴らした安倍政権は、国民から強い批判を浴びて昨年の参院選後に崩壊し、今や参議院では「憲法9条は変えるべきではない」という議員が過半数に達しています。
その後、高校の教科書から、沖縄戦での集団自決に関して日本軍が「強制」したという記述を削除させる検定意見に、沖縄県を中心に怒りの声が沸きあがりました。
「関与した」という記述を認めるなど小手先のごまかしで、今も検定意見を撤回しない文部科学省に対して、私も憤りを禁じ得ませんが、こうした政治的・社会的な動きがあったからこそ、今回ようやく解説に「空襲」「沖縄戦」「原爆」などが盛り込まれたのです。
安倍政権の「亡霊」によって歪められようとする教育に対し、声を上げ続け、政府や権力者のためではなく、真に子どもたちのための教育を取り戻したいと、私は思います。