なんじゃもんじゃ物語 2-9 原子力発電所侵入
なんじゃもんじゃ物語105
海賊たちを乗せたトラックは原子力発電所の近くまでやって来ました。
月明かりに照らされた大きな建物は、長い塀に囲まれていました。
塀の手前で、ブラック芸者がトラックのおっちゃんに言いました。
「 お~い、おっちゃん、ここで良いよ。」
「 門の所まで行ってやるよ。」
「 いや、ここで降りるよ。」
「 そうかい。
じゃ、止めるよ。」
トラックは、発電所の塀の手前に止まりました。
海賊たちは、ぞろぞろトラックを降りました。
「 ありがとよ!」
「 営業、しっかりやれよ!
じゃあな。」
トラックは、行ってしまいました。
ブラック芸者は言いました。
「 門まで行って目立つとまずいからな。
えっと、エッチソン、敷地や建物の構造図は?」
「 はいはい、これでんがな。」
エッチソンは、ポケットからしわくちゃの紙を取り出してブラック芸者に渡しました。
「 ええと、暗くて見えないな。
あそこの街灯の下で見よう。」
海賊たちは、ぞろぞろと塀際にある街灯の下に移動しました。
そして、ブラック芸者はしわくちゃの紙の皺を伸ばして街灯の明かりの下で広げました。
手下の海賊たちは、ブラック芸者の周りに集まって紙を覗き込みました。
ブラック芸者が言いました。
「 これは、敷地の見取り図だな。
親切に行き方が道に矢印で書いてあるぞ。
エッチソン、気が利くではないか。」
「 あたりまえでんがな。」
「 ええと、ここをこう行って、角を曲がって、300メートル進んで、コンビニの向かいを左に行って、魚屋を通り過ぎ・・・・・・・。」
「 魚屋があるのでござるか?」
「 海の近くだからあるか?」
「 おかしいな?
この発電所の中は、町になっているのか?」
なんじゃもんじゃ物語106
ブラック芸者が、紙を裏返して見ました。
「 うわっ!
新装大開店、ラーメン来来軒、本日開店!
このチラシ持参の人に、餃子一人前サービス!!
エッチソン、違ってるぞ!」
「 ほんまでんな。
ちょっと探して見ま・・・。」
エッチソンは、ポケットをごそごそ探しました。
「 ありまへんなあ。
船に忘れてきたのか?
さっきのブタ落下騒ぎの時、落としてしもたのか?
たびたび、すんまへんなあ。」
「 あ~、参ったな。
中が分からないと敷地に入れないな、困った。
んん~ん・・・・。
そうだ、ノゾーキに聞いて見よう。」
ブラック芸者は、船に残してきたノゾーキに携帯電話を入れました。
直ぐにノゾーキが出てきました。
「 はいはい、こちらノゾーキ。
どうしました?」
「 発電所の構内地図を無くした。
そちらに忘れていないか探せ。
地図が無いときは、コンピュータから地図を呼び出して透視望遠鏡で我等を誘導するんだ。」
「 あの、お頭・・・・・。」
「 ああ、分かってる、分かってる。
帰りに、イチゴ大福買ってやるからな。」
「 ああ、良かった。
さすがお頭、覚えていてくれてますね。
それじゃ、ちょっとお待ちを・・・。
うふふふ、るんるん。」
「 これで良しと・・。
ええと、ノゾーキが調べ終わるまで時間があるな。
それでは、みんな生垣と塀の間に一列に並べ!」
「 なんでござるか?」
六人の海賊は、生垣を前に塀を背にして、一列に道路の方を向いて並びました。
なんじゃもんじゃ物語107
ブラック芸者は、厳かに手下に言いました。
「 さあ、みんなでウンコをする。」
「 えっ、ここでするあるか?」
「 ほんまでっか?」
「 拙者、丁度したかったでござる。」
「 胴着を汚さないようにしなきゃ。」
「 僕、出来るかな?」
「 お頭、これは作戦あるか?」
「 そうだ、作戦だ。
郷に入っては郷に従え。」
「 なんでっか、それ?」
「 ヤマタイ国の諺だ。
わしは、ヤマタイ国を船の中で研究した。
これは、ヤマタイ国の作法である。
物を盗みに建物に入る時の精神統一の手法なのだ。
ヤマタイ国は精神論の国である。
これからの海賊は、いろんな現地に順応しないといけない。
世界に通用するグローバルな海賊になるのだ。」
「 何か分からへんけど、建物に侵入してから、したくなったら困りますな。
これは、案外、合理的でっせ。」
「 おい、手下ども、それでは一斉にいくぞ!」
「 拙者、もう、頑張っているでござる。」
海賊たちは、生垣の上から顔を出して、道路に向かって一斉にしゃがみました。
“ ぶるる、ぷす、ぷす、ぶるる、ぷす、ぷす。”
「 お頭、絶好調あるね。」
「 違う、俺じゃない。
あれは、バイクの音だ。」
遠くの方からバイクの音が近付いてきました。
ブラック芸者が眼をこらしてバイクを見ました。
「 何だ、あれは?」
バイクに跨った花岡実太が、ブタを一匹背中に背負って現れました。
ブラック芸者は、手下に言いました。
「 まずい、人が来た、オブジェの真似をしろ!」
「 オブジェって、何なの?」
「 イースター島のモアイみたいなもんだ。」
六人の海賊たちは、生垣から顔だけ出しモアイの真似をしました。
なんじゃもんじゃ物語108
“ ぶるる、ぷす、ぷす、ぶるる、ぷす、ぷす、キーッ、プスン。”
花岡実太のバイクは、六個のモアイを通り過ぎ、海賊たちから見える道の端に停止しました。
“ スタッ、サッ、サッ、サッ、ピタッ。”
「 ふふふ、愚か者め。
人の目は誤魔化せても、この名探偵花岡実太の眼は誤魔化せない!
今にこいつ等は何かをやり始める。
名探偵には、お見通しだ。
それでは、華麗なる尾行術を披露するか!」
「 ブヒッ。」
花岡実太は、ブタを担いだままバイクから飛び降り、原子力発電所の塀にピタッとへばり付いて、海賊たちをじっと見ていました。
エッチソンが言いました。
「 あれは、何でっか?
丸見えでんがな。
こっちを見てまっせ。
ブタも担いでまっせ。」
空手家たまちゃんが花岡実太を見ながら、相手をしたそうな顔をしてお頭に言いました。
「 お頭、からかってやりましょうよ。
面白そうな奴ですよ。」
「 いや、待て。
これから重要な仕事がある。
大事の前は慎重に事を進めるのだ。
相手になるな。
それに、あの眼はひょっとして奇病かも知れない。」
「 その奇病と言うのは何ですか?」
「 わしが御幼少の頃、住んでいた町内に、早朝、日の出と共に裸になって町内を走り回る奴がおったんだ。
そいつの眼つきに似ている。
そして、そいつをからかった奴は、日の入りと共に裸になって走り回った。
その後、段々と裸で走り回る奴が増えてきて、一日中ウロウロと複数の裸が町内を走り回っておった。
人々はこれを伝染性の奇病と呼んだんだ。
一種の集団催眠かな。」
「 それで、お頭も裸で走ったんでっか?」
「 わしの場合は趣味で走った。」
「 やっぱり走ってまんがな。」
「 また、それが気持ちが良いんだ。
朝日に向かって海岸通りを走るんだ。
ああ、青春の美しき日々よ!
わしも若かったなぁ。」
なんじゃもんじゃ物語109
「 拙者も海岸を走ったでござるよ。
それに、奇病は得意分野でござる。」
「 おお、ベンケーお前もか。」
「 拙者は裸ではござらん。
黒頭巾で白衣を着て、朝から晩まで走っていたのでござる。」
「 黒頭巾で白衣?」
「 奇病を治すには、まず、呪術で悪霊を追い払ってから手術でござる。
ミンブカ村の悪霊祓いの歌と踊りを利用しながら、黒イモリと蝙蝠の粉で悪霊に止めを刺す。
そして、アーネッカ製のレーザーメスで手術に入るのでござる。
歌と踊りに黒頭巾、手術に白衣が必要でござる。
海岸沿いを村から村へ奇病を治しに走っていた頃は若かったなぁ。
それでは、ここで一つ悪霊祓いの歌と踊りを披露するでござる。
ウンナカマ、サライアァ、ドメキサナァ~。」
ベンケーが懐から、馬の尻尾の毛を束ねて作った悪霊祓いの棒と手術用のメスを取り出し、生垣を乗り越え、道路に出て踊ろうとしました。
「 お頭、お頭、あの歌と踊り止めた方が良いのでは・・・・・。」
「 分かった、たまちゃん、今、ベンケーを止める。
おい、ベンケー、ベンケー、後、何分で歌と踊りが終わる?」
「 前半が、1時間13分でござる。」
「 折角の所、悪いが、続きは船に帰ってからにしてくれ。」
「 えっ、今から調子が出ようとしていたのに残念でござるよ。
それに、途中で止めると悪霊がいっぱいやって来るでござる。」
「 船に帰ってから、みんなを集めて見てやるから。
それに、今は、ウランが先だ。」
「 仕方ないでござるな。
船に帰ったら、ヤマノミ族の精霊落としの踊りも追加してやるでござる。」
「 ああ、やって良い、やって良い。」
「 おい、子分ども!
とにかく、あの塀にへばり付いている奴の相手をするな。
それが一番だ。
それより、みんな、出る物は全員出たか?」
なんじゃもんじゃ物語110
「 お頭、チンギスチンがまだです。」
「 どうした、チンギスチン、まだか?」
「 うう、もうちょいあるよ。
うっ、うっ、うっ。」
“ ぼわあ~。”
「 出たあ~。
ついでに、屁も出たあるよ。」
「 うお~、これは強烈でんがな。」
「 拙者、臭くて倒れそうでござる。」
「 昨日の、ニンニクとニラが主成分あるね。」
イタチにもスカンクにも負けないチンギスチン製の屁は、辺り一面に迅速かつ着実に広がって行きました。
“ ドサッ。”
「 ブヒッ!」
「 ありゃ、お頭。
塀にへばり付いていた奴、倒れましたがな。」
「 毒ガスでやられたでござる。」
強烈な臭いにやられた花岡実太は、ブタを背中に気を失って前のめりに生垣に倒れこんでいました。
ブラック芸者が言いました。
「 なるほど、我々はブタのフンに囲まれて臭いに免疫が出来ておるな。
あいつが倒れてしまったのは好都合。
よし、それじゃ、そろそろ発電所の中に入るか。
それにしても、ノゾーキの連絡が遅いな・・・。」
その時、お頭ブラックの携帯が鳴りました。
ノゾーキからの連絡です。
“ たらった、らった、らった、ウサギのダンスぅ~♪”
なんじゃもんじゃ物語111
「 たらった、らった、らった、らった、らった、らった、らったらぁ~♪
ん・・・・、思わず歌ってしまった・・・・・。
ノゾーキ、何だ、この音楽は?」
「 ハーイ、お頭。
お待たせ、お待たせ。」
「 遅いじゃないか、ノゾーキ。
地図はなかなか見つからなかったのか?」
「 いや、原子力発電所の地図は直ぐに見つかったのですが、そっちの携帯の着メロの音楽をこっちから設定するのに時間がかかってしまって。
コンピュータを操作してました。
気に入って貰えましたかぁ?」
「 ああ、気に入ったぞ。
思わず歌ってしまった。」
「 良かった、選曲には苦労したんですよ。
お頭の性格に生年月日に星占いに四柱推命に好きな食べ物とか、エッチソンが言っていた芸者の扮装が大好きとか、一杯コンピュータに打ち込んで曲目のコンピュータ解析をしました。
ベータエグゼ関数を使うと処理し易いですね。
その結果がこの曲です。」
エッチソンがお頭ブラックの耳元で囁きました。
「 お頭、お頭、着メロよりウランの在り処を聞いておくれやっしゃ。」
「 おお、そうそう、忘れる所だった。
着メロは、ノゾーキに任せるから、地図だ、地図。
地図を見ろ。
警備の手薄な所は何処だ?
建物の地図と透視望遠鏡で職員の配置を見ながら誘導してくれ。」
「 分かりました。
ところで・・・・。」
「 イチゴ大福は大丈夫だから。」
「 あはは、良かった。
そうですね・・・・・・。
それじゃ、そこに倒れている奴を乗り越えて正面の門に行ってください。」
海賊たちは、お頭ブラックを先頭に六人一列で花岡実太と背中のブタを順に乗り越え、塀に沿って正門の方へ歩いて行きました。
☆なんじゃもんじゃ物語目次に戻る。
なんじゃもんじゃ物語目次
☆HOMEページに戻る。
HOMEページ