なんじゃもんじゃ物語 2-18 ヤマタイ国発電所 出発
なんじゃもんじゃ物語192
海賊たちを乗せたバイクは、発電所から遠ざかって行きます。
お頭ブラックの後ろに乗ったベンケーが、馬の尻尾の毛を束ねて作った悪霊祓いの棒と手術用のメスを振り回して、生霊封じと交通安全の呪文を唱えながら踊り始めました。
「 オン、ナカマサァ~。
エイタラヤタァ~リ♪
ウン、ナカマサァ~。
エイトラヤタァ~♪」
“ シュッ、シュッ!”
お頭ブラックの顔の横から、手術用のメスが何度も突き出されます。
「 うおっ、危ない。
こらっ、ベンケー。
わしの耳を切らないようにやってくれ!」
「 分かったでござる。」
一方、花岡実太は、必死に走ってバイクを追いかけていました。
「 こらぁ~、待てぇ~!!
俺のバイクを返せぇ~!!」
リヤカーのエッチソンが、お頭ブラックに言いました。
「 お頭、お頭、オッサン、走って追いかけて来てまっせ。」
「 あはははは、バカめ。
バイクに走って追いつくもんか!」
「 でも、お頭、バイクのスピードが落ちて来てまっせ・・。」
「 ありゃ?
ホントだ。
これは、どうした事だ。
アクセルは、いっぱいだが・・・・?」
花岡実太が、じわりじわりとバイクとの距離を詰めて来ています。
なんじゃもんじゃ物語193
ベンケーが、お頭ブラックに言いました。
「 これは、オッサンの執念でござるよ。」
「 ?」
「 みんなには、見えないだろうけど、オッサンから念の糸がバイクに繋がっているでござる。
この執着心は、生霊となってバイクにしがみ付いているでござる。」
「 どの辺にしがみ付いているのだ?」
「 お頭の左足の辺りでござる。」
「 うわっ、気持ち悪い!
何とかしてくれ。」
「 分かったでござる。
気合いを入れて、封じるでござる。」
ベンケーは、さらに声を振り絞って呪文を唱え始めました。
「 オン、ナカマサァ~。
エイタラヤタァ~リ♪
ウン、ナカマサァ~。
エイトラヤタァ~♪」
“ シュッ、シュッ!”
バイクは、徐々に花岡実太との距離を拡げ始めました。
しかし、花岡実太は、執念で叫びました。
「 待てぇ~~~!!
返せぇ~~~!!
戻せぇ~~~!!
ぬおぉ~~~~~っ!!」
ベンケーが、悪霊祓いの棒と手術用のメスを振り回して驚いて声をあげました。
「 うおぉ~~~!!
引っ張られるぅ~~!!
オン、ナカマサァ~!
エイタラヤタァ~リ!
うおぉ~~~!!
とっとっと!
引きが強いぃ~~!!」
バイクは、再び、スピードを緩め、花岡実太との距離が縮まって来ました。
なんじゃもんじゃ物語194
リヤカーの海賊たちが、顔を見合わせて言いました。
「 あのオッサン、恐ろしい奴あるね。」
「 生霊の執念と言うものは、恐しおまっせ・・。」
「 ブヒッ!」
「 このままじゃ、追い着かれてしまうんじゃない?」
「 らめちゃん、ちょっと怖いがな・・。」
「 H1号モ危険ヲ感ジル。」
「 バイクを止めて、みんなでしばいたらどうかなぁ。」
「 しばいても、ただじゃ済みまへんで。
ベンケーが、苦戦してまんにゃで・・・・。」
「 恨まれたら、えらい事になるあるか?」
「 夜中に、寝てたら、顔を“ペロッ”って舐められたりして・・・。」
「 うう、気持ち悪ぅ~~。」
「 僕、取り憑かれるのはイヤだよォ。」
「 だいぶ、距離が近寄って来ましたで・・・。」
間隔をあけて道に沿って立つ街灯が、花岡実太の走っている姿を、強弱を付けて照らしています。
そして、街灯に明るく照らされる度に、花岡実太が接近していることが分かります。
バイクのスピードが、ますます落ちて来ました。
エッチソンが、イライラして お頭ブラックに言いました。
「 えらいこっちゃがな、もう、そこまで来てますがな・・・。
もうちょっと、スピード上げて、振り切れまへんか・・。」
「 アクセル、いっぱいなんだけど、ダメだ!
おい、ベンケー、何とかしろ!」
「 オン、ナカマサァ~!
エイタラヤタァ~リ!
オン、ナカマサァ~!
エイタラヤタァ~リ・・・・・。
う~ん、苦しい・・・。」
“ シュッ、シュッ!”
なんじゃもんじゃ物語195
そのとき、街灯に照らされた花岡実太の顔が見えました。
それを見た らめちゃんが叫びました。
「 うわっ!
眼が血走って気持ち悪いがな・・・・。」
花岡実太が、凄まじい形相でスピードの落ちた海賊たちのリヤカーに迫って来ました。
「 ぬおぉ~~~~~っ!!
ぬおぉ~~~~~っ!!
ぬおぉ~~~~~っ!!」
花岡実太の足音も聞こえて来ます。
“ バタ、バタ、バタ、バタ!!”
海賊たちは、叫びました。
「 キタ~~~~~ッ!!」
「 キタ~~~~~ッ!!」
「 キタ~~~~~ッ!!」
「 キタ~~~~~ッ!!」
花岡実太は、リヤカーにもう少しのところまで近付きました。
そして、手をリヤカーの後ろの柵に掛けようとしています。
息遣いが荒く海賊たちに聞こえて来ます。
「 ハァ、ハァ、ハァ、もうちょいで手が届く・・。」
花岡実太の不気味な顔がアップされ、血走った顔がニヤリと笑いました。
それを見た海賊たちは後退りして叫びました。
「 うわぁ~、来るなぁ~!!」
そのとき、なんじゃ殿様が、咄嗟にH1号のモニター画面を花岡実太の眼の前に突き出しました。
H1号は、反射的に花岡実太に言いました。
「 ソレデハ、ココデ問題ダ!」
それを聞いた花岡実太の顔が、一瞬緩みました。
「 えっ、問題?」
なんじゃもんじゃ物語196
「 ・・・・・・・デショウカ?」
「 えっ、何て言った・・・?」
花岡実太の執着心が、聞き逃した問題に逸れました。
その瞬間を見逃さずベンケーが叫びました。
「 念が逸れて弱まった。
チャンス!!
取って置きの呪文!
この念の糸の細くなった所を・・・・。
フンダラヘモナァ~、フンフン、プッチン!」
ベンケーが、お頭ブラックの左足から10cmほど離れた辺りをメスで切りました。
“ プツッ!”
ベンケーが、叫びました。
「 切れた~~~っ!」
バイクとリヤカーはガックンと揺れ、急に早く走り出しました。
海賊たちは、花岡実太から、どんどん離れて行きます。
離れて行く花岡実太に、海賊たちはニコニコして、バイバイと小さく手を振りました。
ベンケーは、お頭ブラックの後ろで大きく両手を挙げV字を作りました。
右手には、悪霊祓いの棒の馬の尻尾の毛が風にはためいています。
左手には、手術用のメスが光っています。
お頭ブラックが子分たちに叫びました。
「 よ~し、調子が出てきたぞぉ~っ!
全速前進、フルパワ~!!
振り落とされないように、しっかり摑まってろぉ~!!」
「 お~っ!!」
そして、バイクはどんどん速度を上げ、花岡実太の視界から、道の彼方へと消えて行きました。
なんじゃもんじゃ物語197
気力が途切れた花岡実太は、バイクが消えて行った道の、遠くの暗闇を眺めながら呟きました。
「 ああ、行ってしまった・・。
わしには、バイクのローンだけが残ってしまった・・。
・・・・・・・・・・・・・。
ハッ!
わしとしたことが、どうしたと言うのだ。
まだ、追いかければ取り返せるのだ。
こんなに弱気になったのは、どうしてなんだろう?
侍の格好をして踊っていた奴の仕業かな?
まあ、いい。
ぼ~っとしている場合ではない。
バイクを取り返すのだ!
この道は、自動車も通っていないようだし・・・・。
そうだ、発電所に行って頼んでみよう。
発電所に戻って、足を確保するんだ!
そして、追いかけねば!」
花岡実太は、発電所に走って行きました。
発電所は、まだ闇の中に眠っていました。
非常用の電灯が寂しくまばらに灯っています。
花岡実太は、辺りを見回して言いました。
「 妙に、静かだな・・・?
とりあえず、門衛さんに聞いてみよう。」
門から入って、受付の窓口を見ると、窓口は開いてはいるのですが、電気が消えて中は暗く様子が分かりません。
「 寝てしまっているのかな?
ちょっと、中に入ってみよう。」
発電所に戻った花岡実太は、門衛さんの建物に入って行きました。
なんじゃもんじゃ物語198
建物の中に入った花岡実太は、手探りで部屋の奥を探っていました。
「 えっと、門衛さんは、何処でしょうか?
奥の部屋で寝てるんですかぁ~?」
“ ムギュ。”
花岡実太は、床に倒れていた門衛さんを踏み付けてしまいました。
「 ん、何か、踏んだようだが・・・・。」
「 う~ん、うっ?」
踏みつけられた門衛さんは、突っ立ている花岡実太を見上げました。
「 えっ、お前は誰だ?
こんなところで、何をしている?」
「 電気が消えていたので・・。」
門衛さんは、床から立ち上がって受付の窓口から発電所を覗き込みました。
「 あっ、電気が消えている。
それも、非常灯だ・・・。」
門衛さんは、ジロッと花岡実太を見ると、突然、非常ベルを押しました。
“ ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ!!”
けたたましいベルの音が、発電所に鳴り響きました。
花岡実太は、驚いて門衛さんに叫びました。
「 うわっ、何をするんだ!」
「 うるさい、お前だな!」
なんじゃもんじゃ物語199
「 違う、違う!」
「 何が違うのだ。
もう、あきらめろ。
このベルは警察にダイレクトに繋がっているんだ。」
「 えっ。」
「 あっと言う間に、警察がやって来るんだ。」
「 わしじゃ無いって言ってるだろ!」
「 往生際の悪い奴だ。
神妙にお縄を受けろ!」
「 うわっ、止めろ!」
「 こらっ、何処へ行く!」
花岡実太は、門衛さんの手を振り解き、建物から発電所の方に逃げ出しました。
そこに非常ベルに叩き起こされた四人の警備員たちが、発電所から飛び出して来ました。
それを見た門衛さんが叫びました。
「 そいつが犯人だ!」
「 うわっ、マズイ!」
花岡実太は、クルッと向きを変え、門に向かって走り出しました。
門衛さんは、大きく手を広げて門に仁王立ちになりました。
「 もう、逃げられないぞ!」
花岡実太は、サイドステップで門衛さんの横をすり抜けようとしました。
「 よし、抜けた!」
しかし、門衛さんは横っ飛びに花岡実太のズボンを掴みました。
「 おっとっとっと!」
“ ズサッ。”
花岡実太と門衛さんがもつれ合って、門の中央で倒れました。
「 なんの!」
花岡実太は、すばやく立ち上がると摑まれたズボンを脱ぎ捨て、門から飛び出して行きました。
「 待て~!!」
なんじゃもんじゃ物語200
発電所の前の道を、門衛さんと四人の警備員たちが、パンツ姿の花岡実太を追っていました。
門衛さんが、前を逃げる花岡実太を見ながら言いました。
「 逃げ足の速い奴だ。
でも、逃がさんぞ!
ハア、ハア、ハア。」
しばらく走って、花岡実太は徐々に息が切れてきました。
「 ハア、ハア、ハア、ハア。
どうして、わしが逃げなければいけないのだ。
ハア、ハア。
わしは、犯人じゃない。
ハア、ハア、ハア、ハア。
もう、疲れて来た。
ハア、ハア。
そうだ、何も取った物は持って無いし、犯人を見ているんだから、説明したら分かってくれるんじゃないかな・・・。
ハア、ハア、ハア、ハア。
もう、逃げるのは止めだ。」
花岡実太は逃げるのを止め、立ち止まりました。
門衛さんと四人の警備員たちは、直ぐに花岡実太を捕まえました。
「 あきらめたな。
ハア、ハア、ハア。」
「 ハア、ハア、ハア。
わしじゃ無いって言ってるだろ!」
「 ハア、ハア。
怪しくないなら、何故、逃げるんだ!」
「 ハア、ハア。
わしは、何も取った物は持って無いぞ!」
花岡実太は、服を脱いで取った物が何も無いことを見せようとしました。
「 ほらほらほら!」
「 お前の不細工な裸など見たくない。
事情は、発電所に帰ってからゆっくり聞かせてもらおう。」
遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきます。
花岡実太は、門衛さんと四人の警備員たちに捕まって、発電所に連行されて行きました。
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