Year In, Year Out ~ 魚花日記

ロッドビルドや釣りに関する話題を中心に。クラシック音楽や本、美術館巡りに日本酒も。

ジュリアン・バーンズ/The Sense of an Ending

2012年06月25日 | 

最近ややこの「本」のカテゴリーがご無沙汰でしたが、それは決して本を読んでいなかったからではなく、実はこのところ読んでいた長編が何とも中途半端な内容で、その割には読むのに時間が掛かってしまったからです。

で、先週の出張の間にようやくそれを読み終わり、帰りの飛行機のなかで読み始めたのが掲題の本。

(因みに冒頭の本は、飛行機のなかでラスト数十頁辺りを読んでいた時に隣のオッサンが「それはとてもいい本だ!俺は3回(5回だったっけな?)も読んだよ。」と言うので期待して最後まで読み終えたのですが、結果は何とも・・・。まぁ、あくまでも個人的な感想ですが・・・。)

さて、掲題のジュリアン・バーンズは英国、イングランドの作家。この作品で昨年(2011年)のブッカー賞(The Man Booker Prize 2011)を受賞しています。(因みに以前ご紹介したカズオ・イシグロの「日の名残り」は1989年のブッカー賞受賞作です。)

ストーリーは、初老の男性の一人称で語られます。

若かりし頃の交友、恋愛。そしてそれに続く一連の人生がそろそろ終わりに近づく頃、彼は自分の来し方に思いを馳せます。

それは偶然でもあり、必然でもあり。

タイトルにある "an Ending" という言葉が示唆するものは、色々あります。それは誰の、そして誰から見た時の?

それは決して一言で片づけることの出来ない、かけがえのない、そして動かしようのない事実。

途中でこんな一文が出てきます。

Sometimes I think the purpose of life is to reconcile us to its eventual loss by wearing us down, by proving, however long it takes, that life isn't all it's cracked up to be.

その人生を振り返った時、誰もが必ず悲観的になる訳ではないけれど、思い出したくないことは無意識に思い出さず、自分が肯定出来るもの、認めることが出来るものをしか思い出さない。そういうものなのかも知れません。

恐らく何年か後、この主人公と同じ年代により近くなった時、もう一度読んでみるでしょう。その時自分がどんな風に感じるのか、楽しみでもあり恐ろしくもあり。そんな本です。

邦訳は出ていないようですが、ペーパーバックで150頁。帰りの飛行機のなかで寝なければと思いつつなかなか本を置くことが出来ず、成田に着く頃には残り20頁。それをこの日曜日の午後、一気に読んでしまいました。

極めて無駄のない、洗練された文体。読むことの心地よさ、文字を目で追うことの心地よさ、そしてそれと同時に頭と心が回転する心地よさを存分に味わえます。

Julian Barnes,
The Sense of an Ending
(Vintage Books)

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