しのぶれど こひしきときは あしひきの やまよりつきの いでてこそくれ
しのぶれど 恋しき時は あしひきの 山より月の 出でてこそ来れ
紀貫之
思いは心に秘めているけれども、恋しい思いが募るときには、山から月が出て来るように家を出てあなたを訪れてしまうのですよ。
「あしひきの」は「山」にかかる枕詞ですね。抑えてもほとばしり出てしまう思いを山の端から出て来る月に準えた作者不詳の歌が万葉集にあります。あるいはこれを踏まえた詠歌なのでしょうか。
あしひきの やまよりいづる つきまつと ひとにはいひて いもまつわれを
あしひきの 山より出づる 月待つと 人には言ひて 妹待つ我を
(万葉集 巻第十二 第3002番)