あふことの なぎさにしよる なみなれば うらみてのみぞ たちかへりける
あふことの なぎさにし寄る 波なれば うらみてのみぞ 立ち帰りける
在原元方
渚に寄せては浦を見ただけで帰って行く波のように、私もあなたに逢うことなく、ただ恨みを残して帰って行くのですよ。
「なぎさ」に「渚」と「無き」、「うらみて」に「浦見て」と「恨みて」を掛け、また「立ち返り」に波が引くことと男が女のもとから帰ることの両義を持たせて、波の様子とむなしく女のもとから帰る男の姿を巧みに一体化しています。0610 にも同じようなコメントを記しましたが、「どうしてたった三十一文字でこんなにうまく詠めるんだろう」と思わせられる歌のひとつですね。