スパニッシュ・オデッセイ

スペイン語のトリビア
コスタリカ、メキシコ、ペルーのエピソード
パプア・ニューギニア、シンガポールのエピソード等

「月と六ペンス」のトリビア(2)

2023-10-07 20:39:08 | トリビア
 フランスの画家、ポール・ゴーギャンをモデルとしてサマセット・モームが書いたベストセラー小説は「月と六ペンス」というタイトルがつけられたが、それについて岩波文庫「月と六ペンス」の解説には次のように書かれている。

 「月」は夢や理想を、「六ペンス」は現実を表す。(中略)「月と六ペンス」では主人公は美の理想を追求し続け、そのために、世俗的な喜び、富、名声などを完全に無視し、投げ出す。(以下省略)

 確かにそのとおりだが、イギリスでは、結婚式へと向かう花嫁の左靴の中に6ペンスを入れておくことで「経済的にも精神的にも満たされ、豊かで幸せな人生をもたらす」と考えられていて、現在もその習慣が続いていることから、「六ペンス」は豊かで幸せな結婚生活を表しているとも考えられる。
 ところで、「月と六ペンス」の中での夫婦またはそれに準じる関係は3組である。
 1.画家ストリックランドとその妻
  ストリックランドは証券関係の仕事につき、平々凡々たる生活を送っていたが、突然、画家になるべく家族を捨てて、パリに行く。
  この場合、「月」は芸術、「六ペンス」は平凡だが幸せな結婚生活を表していると言える。
 2.語り手の友人、オランダ人のダーク・ストローブとその妻 Blanche(翻訳書では「ブランチ」と読まれている)。
  ローマのある公爵家で住み込みの家庭教師をしていたところ、そこの息子にたらしこまれ、妊娠するが、結局、追い出され、自殺を図る。だが、ストローブに見そめられ、結婚する。 
 公爵の息子は Blanche とは身分が違い、Blanche にとっては手の届かない「月」のような存在であろう。そんな公爵の息子と結婚するという夢が「六ペンス」といったところか。
 3.画家ストリックランドと Blanche
 Blanche は夫を捨てて、ストリックランドのもとへ走るが、ストリックランドはまるで狂気に取り憑かれたかのように絵のことしか考えず、Blanche は結局、捨てられ、自殺する。
 「月」(スペイン語 luna)は人の気を狂わせると考えられていた。その luna から派生したスペイン語 lunático(英 lunatic)は「精神異常の、気違いじみた」という意味である。
  この場合には、ストリックランドが「月」で表され、男を家庭に縛り付けておきたい Blanche が「六ペンス」で表されていると言えるだろう。 

 
【こちらもよろしく
 


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「月と六ペンス」のトリビア | トップ | 「月と六ペンス」のトリビア... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

トリビア」カテゴリの最新記事