かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠417(ドイツ)

2015年03月17日 | 短歌一首鑑賞

 馬場あき子旅の歌58(12年11月)【ラインのビール】『世紀』(2001年刊)P214
           参加者:K・I、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子(紙上参加)、T・H、渡部慧子、鹿取未放
           レポーター:渡部 慧子
           司会とまとめ:鹿取 未放
  

417 一生を陽灼けしてきたアメリカの年寄ツアー飲まずうたへり

     (レポート)
 漱石の「それから」の主人公が一日をふり返って何色がふさわしかろうと考える一節があるが、掲出歌「一生を陽灼けしてきた」に、広大な「アメリカ」で漁業よりは農に携わっている人々の「年寄ツアー」と想像する。陽焼けの様子はビールの琥珀色だったかもしれない。そして「飲まずうたへり」とは、「一生」の「陽焼け」のほどの思いの丈をうたうことによせているのだろう。一生を色でとらえられた「アメリカの年寄ツアー」の人々の陽気なさまが浮かぶ。(慧子)


          (紙上参加意見)
 白人のアメリカ人、肌が白い故によけいに日に焼ける。顔は赤く日焼けしているのだろう。そのアメリカ人の年寄りである人たちは、ビールを飲まずに賑やかに唄っている。日本人とは違う旅の人たちの様子である。(藤本)


      (当日意見)
★色でとらえた渡部さんのひらめきをすばらしいと思う。一生を日灼けしてきたアメリカの老人達が
 ドイツへやってきて心底楽しんでいる様子が「飲まずうたへり」でよく出ている。この人たちの旅
 への思いの深さを先生は想像しながら詠っている。農の大変さも先生は思われているのだろう。(崎尾)
★なぜこの人たちは飲まないでうたうの?(鹿取)
★飲む楽しみ方と飲まない楽しみ方と二つある。甲乙つけがたいが、飲まないでもこんなに楽しめ
 るという、飲まない方が心底楽しめると思う。(崎尾)
★何の歌を歌っているのでしょうね。(鹿取)
★ドイツの歌ではなく、フォークナーとかじゃない。(崎尾)
★この人たちは一生一箇所で働いてきて、やっと違う土地に来たから、飲む時間がもったいないの
 ではないか。(曽我)
★もったいないのは時間であって、お金ではないのね。私はやっと旅費をこしらえて来たから、飲
 むお金はもったいないのかと思ったけど。(鹿取)
★飲むよりも陽気に騒ぎたいという気持ちが先行している。(T・H)
★でも、飲んだ方が陽気になれると思うけど。またレポーターのいう色で捉えるというのはよく分
 からない。単純に日灼けしていることを言っていると思うけど。この人たちは長年働き続けて、
 せめて一生に一度くらいは海外旅行に行きたいと思ってやってきたのかもしれない。(鹿取)


     (まとめ)
 アメリカの年寄ツアーの一団はホワイトカラーではない、年寄りになるまで戸外で働いてきた労働者である。だからそんなにお金持ちでもないのだろう。416番歌と同じ場面だとすると昼下がりだろうか。夜はビールを飲むとしても昼間は節約して飲まないのかもしれない。けれども根が陽気な人たちなのだろう、外国に来て大いに楽しくなってみんなで唄っているのだ。(鹿取)