かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠233(中国)

2014年07月03日 | 短歌一首鑑賞

  馬場あき子の旅の歌【紺】『葡萄唐草』(1985年刊)
                       参加者:Y・I、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
                       レポーター:渡部慧子
                        司会とまとめ:鹿取 未放

◆昨日173番を飛ばして174番を挙げてしまいました。すみません、今日は戻って173番です。


173 暗き灯の一つを点し民屋は土間に据ゑたり一つのかまど

     (レポート)(2009年10月)
 租界となってより上海には、英国を初めとして各国の建築物が威容を誇り、その様式はヴェランダ植民地様式、アン女王復古スタイル、ネオバロック様式などの大英帝国のものを経て、アールデコ様式のニューヨークの影響を受けることになり、スガイクレイパー(摩天楼)の超高層ビルが林立する時代へ移り変わる。これらの夜間のきらびやかさは、トラベルガイドに必ず掲載されており、繁栄を極める上海の一面をほこっている。
 ここまでは余談だが、「民屋」とは{里弄(リーロン)……租界へ流入定住した民衆のために考案された住居}なのか、それとも古い時代
からの家屋か定かではないが、「暗き灯の一つを点し」ている。その「の」を同格の助詞と解釈したのだが、「暗き灯の一つ」と「一つのかまど」によってひっそり食と住をみたしている上海の暮らしのある一面をやさしく写生している。(慧子)

      (意見)(2009年10月)
★写生のように見えて写生ではない。嘆き・悲しみ。(藤本)
★ミレーなどの民衆を描いた西洋の絵をイメージした。(Y・I)
★「暗き灯の一つ」の「の」は、同格ではなく、「一つ」に掛かっているから連体修飾格ですね。
 結句の「一つ」はまた別のものですね。 (鹿取)     

     (まとめ)(2009年10月)
 「民屋」は、様式は問わず、民衆のすまいくらいの意味だろう。暗いなりに一つの灯火をともして、家族が集い、一つの竈で煮炊きする庶民のある種大地に根を張った生き方を写しているようだ。
もちろん、藤本さんが言うような歎きや悲しみも含まれていよう。
 ただ83年というと観光旅行で自由に路地に入っていくことは出来なかったろうから、どこから眺めた風景なのか気に掛かる。おそらくバスか列車で通った家々をかいま見ての作ではなかろうか。
余談だが、96年に飛行機で北京に降り立った時、空から見た北京の街も暗かったが、飛行場そのものがあまりに暗くて夢の中のできごとのように思えた記憶がある。(鹿取)