かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞  56

2013年12月03日 | 短歌一首鑑賞
          【からーん】『寒気氾濫』(1997年)38頁
       参加者:崎尾廣子、鈴木良明(紙上参加)曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
        レポーター:渡部慧子
       司会と記録:鹿取 未放


90 ひとを待つあいだは紅葉見あげては皮裏(ひり)のくれない濃くしてゆけり

      (レポート)
 「皮裏のくれない濃くしてゆけり」とは「紅葉」を見ながら「ひとを待」っていたときのことだ。「皮裏」がいかにも身体的なので「くれない」に血液を思い、それから想念を連想する。さらに「紅葉見あげては」の「ては」が一首にふかく機能して、「紅葉」から「皮裏」へ色が移り込む感さえおこさせる。「皮裏」と「ては」によって「ひとを待つあいだ」の身体的ドラマが感じられ味わいに深みが生まれる。


      (記録)
 ★早く会いたいとか、だんだんこころが濃くなっていく感じかな。(曽我)
 ★「皮裏」にすごく作者の思いがあるんでしょう。紅葉の赤い色が待つ心を育てていく。そして
  人を思う思いも熱くなっていく。(崎尾)
 ★この歌の内容そのものは分かりやすい恋の歌ですよね。皮裏は造語かと思っていたが辞書に「皮
  膚の内側、転じて心」と載っています。紅葉を見上げてその色の反映のように皮膚の内側から
  紅くなっていく、はにかんだ男の人の気分というものがよく出ている。心という意味もあると
  いうから、崎尾さんのように待ちながらドキドキしていく純情なイメージ。(鹿取)
 ★私の辞書には載っていなかった。皮裏という言葉を使うことで、恋の想念を極めてドライに詠
  った歌だと思う。(慧子)
 ★この詠い方をドライとは思わないけど。いずれにせよ、詠っているのは頬を染めて恋人を待っ
  ている少年か青年の姿ですよね。(鹿取)