池袋・東京芸術劇場(亞細亜城)。
▼タンロン水上人形劇団+花伝[KADEN]シアターカンパニー 『KAPPA』
構成・演出/岡田圓(花伝[KADEN]シアターカンパニー)
I.伝統演目:竜の踊り、不死鳥(鳳凰)の舞い、カエル釣り
II.共同制作1:奉納相撲と河童
III.共同制作2:Kappa(伝統と革新の狭間で…)
ヴェトナムの水上人形劇というのはずっと見たいと思っていたもので、作り付けの噴水池で無理矢理というシチュエーションではあるもののこういう機会があって良かった。簾の向こう側に、腰まで水に浸かった人形遣いがいて、長い竿で水中の人形を観客の方へ押し出して操作する。構造としては一種の棒操り。なぜ水中でやるのかというと人形の出ハケが一瞬でできるというのが最大の利点なのだろうけど、生活環境ゆえに水にまつわる演目が多かったりするのかも知れない。人形そのものはあまり手の込んだものではなく、大雑把に関節が動く。河童が出てくるあたりからが岡田圓の創作と思われ、ヴェトナム相撲に、河童は相撲が強いという日本の説話モティーフが接続されているようだ。その後、人間が演じる河童が水中から出てきて、さらにスーツ姿の男装の女性二人が現れ、「伝統か革新か」みたいな単純な劇が演じられる。スーツの二人組は「革新のためには古いものを捨てなければならない」と主張するのだが、他方で水中にはエビとカニと魚が現れ、河童はそれらの命を救って、エコロジーというか動物愛護と、文化の上での伝統主義みたいなことが重ね合わされているようだった。表現の素朴さはさておき、この河童(=反省の主体)がすなわち「日本」で、エビ・カニ・魚(=自然)が「アジア」の寓意として表されているように見えてしまって当惑した。花伝[KADEN]シアターカンパニーは鈴木忠志系のナショナリスト劇団のようで、演技はいかにもそういう系統だけど、何らかの表現様式を「伝統的」と標榜すること(文化的に自己同一化すること)への違和感がいとも簡単にスルーされてしまっていると思う。それはヴェトナムの人たちにしたって同様なのかも知れないし、あるいは違うのかも知れず、いずれにしても、歴史に対する不安定な距離感、いいかえれば文化的アイデンティティという観念のアクチュアルな作動ぶりと、その歴史的な差異、さらには複数の文化の間の歴史的な相互作用などといった現実的なイシューについては一切踏み込むまいとする姿勢の硬さが、何とも頼りなく感じられてしまった。