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ダンスとか。

スバエク・トム――カンボジアの大型影絵芝居

2009-11-26 | ダンスとか
浅草・アサヒ・アートスクエア。
出演/ティー・チアン一座。
珍しいカンボジアの影絵芝居。タイの「ナン・ヤイ」とほぼ同じなので、ナン・ヤイの原型でもあるのだろう(スバエク=ナン=皮、トム=ヤイ=大きな)。本国でもなかなか見るのが難しいと聞いた。室内だし光源が篝火ではなくてライトなので、揺らめきはないのだけど、大きな牛皮の人形がスクリーンに現れた瞬間はもう目が眩むくらい美しかった。インドネシアのワヤンのような彩色がほとんどされていないため、光が透けてセピア色になり、しかも光源との遠近の具合でその明暗が変わる。黒く塗ってある所だけ黒い影になり、くり抜いてあるところからはくっきり光がもれて、モノクロームというか黒と茶と光源のアンバーの鮮やかなコントラスト。アジアに広く見られる影絵というのは、映画が発明されるよりはるか以前から存在してきた「映像文化」なのだということを思う。そしてその一方で、影絵は二次元ではなくて、三次元性をも備えていて、とりわけこのスバエク・トムはスクリーンの前も後も使い分けるし、人形遣いはステップで完全にダンスしている上、さらに人形遣い同志で役柄になりかわって格闘(?)を演じたりもする。この人形と人形遣いの関係は本当に独特で、人形より人形遣いばかり見てしまったりすることも多い(スクリーンは床まで張られているため人形遣いの姿は常に見える)。基本的に人形には可動部がないから人形遣いの方が複雑な動きをする。操り棒は固定、肩も当然ながらほぼ固定だが、腕は動かすので、「井桁」が変形するような具合になり、そのまま胴は固定で、後足を跳ね上げたり、前足を引っ張り上げて止めたりする。ところがそれは人形の動きにはほとんど反映されないから、あくまでも人形遣いのパフォーマンスなのだ。人物が誰かの話を聞いていたり、ただ何かを待っているという状態を表す時に、時折りかすかに人形をピクン、ピクンと動かすところも面白い。物語はリアムケー(=ラーマキエン≒ラーマーヤナ)なのでわかりやすく、勇壮なシーンと滑稽なシーンがほどよくブレンドしたエピソードが二つピックアップされていた。音楽は大きな太鼓がバスンバスンと鳴るのが大陸っぽくて印象的。専門の歌い手によって筋が語られ、演じられるが、ごくたまに人形遣いがセリフを言ったり、一斉に掛け声をあげたりもしていた。道具立ては素朴なのに構造はすごく複雑になっている。
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