徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の副反応について

2013年04月06日 06時51分17秒 | 小児科診療
 先日から話題になっているHPVワクチンによる副反応。
 風疹流行~先天性風疹症候群が社会問題化した際には沈黙していたワクチン反対派が一気に活気づいている印象があります。

 正しい判断には感情論に走らない正しい情報が必要です。
 私が「信用できる」と感じた情報をピックアップしておきます;

女子中学生、子宮頸がん予防接種で副作用
(2013年3月11日 読売新聞)
 東京都杉並区が無料で行っている子宮頸がん予防ワクチンの接種で、区内の女子中学生が2011年10月に接種後、手足のしびれなどの症状が出ていたことがわかった。1年以上通学できないほど重い副作用の症状だったことから、区はワクチン接種が原因として医療費などの費用を支給する。
 生徒の母親によると、生徒は中学1年の時に、子宮頸がん予防ワクチン「サーバリックス」を区内の診療所で接種。直後に、発熱や嘔吐のほか、腕、肩、背中のしびれの症状が出て、翌日から10日間入院した。
 退院後も足のしびれで車いすを使う状態が続き、今年1月までほとんど通学できない状態だったという。その後、症状が快方に向かっているため、通学を再開したが、関節痛と頭痛は続いているという。
 厚生労働省によると、同ワクチンは2009年12月から使用が始まった。12年8月末までの間に、失神や発熱など956件の副作用が医療機関から報告されており、死亡例も1件あるという。
 区の担当者は「任意の予防接種とはいえ、区も国も勧めている予防接種で副作用があった。お見舞いを申し上げ、誠心誠意対応したい」としている。


 私は小児科医なので今までには予防接種を万の単位で行ってきましたが、このような事例に出会ったことも耳にしたこともありませんでした(だから否定するわけではありません)。
 今回のHPVワクチンの接種上の特徴として「筋肉内注射」と「思春期以降の女児対象」が挙げられると思います。
 そこに副反応を解析するヒントが隠されているのかもしれません。

 誤解されている方がいらっしゃいますので、「皮下注射」と「筋肉内注射」について簡単に説明しておきます。
※ 参考:ワクチンの種類と投与経路(Vaccipedia)
 従来の日本の予防接種のほとんどは「皮下注射」でしたが、HPVワクチンは世界標準にならって「筋肉内注射」が採用されました。
 皆さん、何となく「筋肉内注射の方が痛い」と思い込んでいませんか?
 実は、しっかり深く針を刺して筋肉内に注射すると、皮下注射より痛みが少ないことが報告されています。
 もし痛みが強い場合は、勘違いした医師が「可哀想だから」と手加減して浅めに注射し、筋肉に達していない場合かもしれません。
 誤った知識による気遣いが「あだ」になってしまうのですね。

質問なるほドリ:子宮頸がんのワクチン、重い副反応が出るの?
◇予防接種との関係は不明 国に被害者救済拡充と説明責任
(毎日新聞 2013年03月31日)

 なるほドリ 子宮頸(けい)がんのワクチンを予防接種した中学生や高校生に、重い副反応(ふくはんのう)が出たというニュースを聞いたよ。お母さんたちが被害者連絡会をつくったそうだけど、何だか心配だなあ。
 記者 気持ちはよく分かるけれど、まずは事実を冷静に見ることが大事です。
  どういうこと?
  中学生たちに出た副反応は、複合性局所疼痛症候群(ふくごうせいきょくしょとうつうしょうこうぐん)といいます。手足や肩などに痛みが生じ、歩けなくなるのが特徴です。
  ふーん。
  こうした副反応が出たら、医療機関や製薬会社は国に事実を報告します。これを「有害事象報告(ゆうがいじしょうほうこく)」と呼びますが、すべてが薬との因果関係があるとは限りません。偶発的に生じた症状も含まれます。
  どれくらい報告があるの?
  日本で現在受けられる子宮頸がんのワクチンは「サーバリックス」「ガーダシル」の2種類です。サーバリックスは09年12月の発売から昨年末まで約684万回接種され、88例(0・0013%)の重い副反応が、ガーダシルは11年8月の発売から約145万回接種され、13例(0・0009%)の重い副反応が報告されました。この中には因果関係が分からないものも含まれています。
  歩けなくなったこととワクチン接種は因果関係があるの?
  分かっていません。厚生労働省安全対策課によると、この症候群はインフルエンザのワクチン接種の後や、献血、ペースメーカーの施術などでも起きています。発生率は100万~150万人に1人くらいだそうです。自治医科大学付属さいたま医療センターの今野良教授のように「ワクチン成分との因果関係はない」と強く主張する声も多く、解明は難しいのが実情です。
  他の国では?
  英国や米国など他の先進国でも、同じくらいの副反応報告があります。ただ、どの国も接種を中止してはいません
  そうは言っても、被害者の救済は必要じゃない?
  国による救済制度はありますが、因果関係がはっきりしないと、申請しても認められない例が多いようです。
  子宮頸がんワクチンの予防接種は、国の定期接種になるんだよね。大丈夫?
  今国会で関連法が成立し、定期接種になって無料で接種を受けられるようになります。被害者を救済する仕組みをどう拡充するかが今後の課題。国は被害者の症状をよく調べ、国民に詳しく説明する必要があります。被害者の中にはワクチンの効果を疑問視する声もあるので、こうした疑問にもしっかり答えることが必要です。


 ここで登場した「複合性局所疼痛症候群」という病名。
 私は初耳です。
 どんな病気? ・・・ネット上で参考になったHP;

採血後の痛み…「複合性局所疼痛症候群」(All About:西園寺 克先生)
「複合性局所疼痛症候群」って何?(ドクター・ざーさんの雑学メモ)
複合性局所疼痛症候群 Complex regional pain syndrome: CRPS(立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」)
CRPS(複合性局所疼痛症候群)の基礎知識(行政書士のHP)

 これらを読むと「複合性局所疼痛症候群」の原因はHPVワクチン液ではなく「注射という痛みを伴う処置」であることが容易に想像できます。
 つまり、HPVワクチンにとってはこの騒ぎは「濡れ衣」ということになり気の毒です。
 また「発生率は女子のほうが高く、特に小児では女児のほうが多い」との記載もあります。
 採血・注射の処置をする際には事前に「50~150万人に一人の頻度で複合性局所疼痛症候群が発症するリスクがあります」と説明し、疑わしい症状が出たらペインクリニックを紹介することが正しい方針ですね。

子宮頸がんなど3ワクチン、4月から定期接種の対象に
(朝日新聞:2013.3.30)
 子宮頸(けい)がんなど3ワクチンを定期接種に加える予防接種法改正案が29日、参院本会議で可決、成立した。4月1日に施行される。公的な接種になることで、重い副作用が起きた場合に手厚い補償が受けられるようになる。
 ほかに追加されるのは、乳幼児の細菌性髄膜炎の原因になるインフルエンザ菌b型(ヒブ)と小児用肺炎球菌のワクチン。3ワクチンは2010年度から暫定的に公費助成されてきた。子宮頸がんは小学6年~高校1年、ヒブと小児用肺炎球菌は生後2~60カ月が定期接種の対象となる。
 子宮頸がんのワクチンを巡っては、ほかのワクチンに比べて副作用報告が多いと懸念する声がある。失神やけいれんが目立つことから、厚生労働省は「注射針を刺すことが影響している可能性がある。中止するほどの重大な懸念はない」としている。予防接種法で国の救済制度が適用されれば、針を刺すことによる健康被害も医療費や障害年金の支給対象になる。
 今回の法改正で、副作用情報を早く集めるため、医療機関に副作用の情報提供を義務づけた。


 と厚労省はスルーしていますが、このままでは終わりそうにありません。

はた ともこ議員の厚生労働委員会での子宮頸がんの有効性に関する質疑

痛みに苦しむ少女多数…子宮頸がんワクチン被害者連絡会が発足
(産経新聞 2013年3月26日)
 子宮頸(けい)がんワクチンの予防接種を受けた女子中高生らの一部に重い副反応が出ている問題で、東京都杉並区内の被害者家族5人や医師らが25日、千代田区永田町の星陵会館で記者会見し「全国子宮頸癌(がん)ワクチン被害者連絡会」(約50人、池田利恵事務局長)を結成を発表した。
 連絡会は同日発足。設立趣意書によると、情報の収集、共有、広報を通じて、被害拡大を防ぐ活動に取り組む。
 会見で杉並区内の母親は、一時登校できなくなり、いったんは回復に向かった中学生の娘が再び歩行困難になった近況を報告。「激しい痛みが体のあちこちに移動する症状に苦しむ少女が多数いる現実を直視してほしい。積極的な調査をすれば、共通する症状が見えるはず」と訴えた。
 別の母親も「接種部と痛む部位が異なるとして救済されない壁に直面している。定期接種化でさらに多くの子供に接種するなら、情報提供、専門家による治療など支援態勢を充実してほしい」と述べた。
 同会には北海道をのぞく26都府県から相談が寄せられている。近く町田、多摩両市議会が接種に関する意見書提出を検討している。


 今回発表されたHPVワクチンの副反応は、この複合性局所疼痛症候群だけではありません。ただし、因果関係があるのか疑問を持たざるを得ない報告もあります。
 ワクチンの安全性に不安を抱く国民に対して、納得のいく説明していただきたいと思います。
 接種を受ける国民も「ワクチンは医薬品であり100%安全なものはあり得ない、病気に罹ったときの重症度とワクチンの副反応のリスクを秤にかけて接種すべきかどうか判断する」習慣を持つべきです。

 また、マスコミはいらぬ不安を煽るような報道は控えていただきたい。
 日本以外の国々ではどのように扱われているのか、平行して報道していただきたいと思います。

 予防接種を行う医師は、その副反応に対応できることが資格条件と考えます。
 この「複合性局所疼痛症候群」は小児科医の私にとって不慣れな疾患ですので、当面の間、HPVワクチンの取り扱いを停止しました。
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