さて、次は耐性問題。
リレンザが「はじめての抗インフルエンザ薬」として登場し話題になった1999年、「ノイラミニダーゼ阻害薬は耐性化しにくく、耐性化したウイルスは感染力が弱くなるので問題にならない」と喧伝されたことを記憶しています。
しかし、その通りには行かず、一時期タミフルの耐性化が話題になりました。
その経緯を辿ってみましょう。
厚労省の資料中に次の表を見つけました;
2008-2009シーズン、流行株であるA(H1N1)ソ連型のタミフル耐性は98.8%!
この報道に現場の医師はびっくり仰天。
でも実際に処方していても、薬が効かなくて大変だったという例は多くありませんでした。
なんでかなあ・・・。
そして怖々迎えた次の2009-2010シーズンは新型インフルエンザ・パンデミックが発生し別次元へ。と同時にA(H1N1)ソ連型は淘汰され、薬剤耐性ウイルス問題も一旦自然消滅しました。
次の2010-2011シーズンを迎えても、耐性ウイルスは影を潜めたまま。
その後の経過は・・・
■ H1N1pdm09のタミフル・ラピアクタ耐性株検出率、2012/13シーズンも上昇
(2013/7/5:日経メディカル)
わが国では近年、A/H1N1pdm09でタミフル・ラピアクタ耐性株の検出率が上昇する傾向が認められているが、2012/13年シーズンにおいてもわずかながら上昇傾向が見られたことが分かった。2012/13年シーズンの耐性株は、すべて抗インフルエンザ薬未投与例から検出されたものだった。国立感染症研究所(以下、感染研)と全国地方衛生研究所が共同で行っている、抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスの最近5シーズンのデータ解析より明らかになった。感染研インフルエンザウイルス研究センターの高下恵美氏らが、第54回日本臨床ウイルス学会(6月8~9日、開催地:倉敷市)で報告した。
高下氏らは今回、サーベイランスで得られた2008/09年~2012/13年の5シーズンにおけるインフルエンザウイルス流行状況、NA阻害薬耐性菌の検出状況を検討した。
まず、ウイルス流行状況を見ると、2008/09年シーズンより認めれられたH1N1pdm09の検出報告数が、パンデミックを起こした2009/10年シーズンにピークを迎えた。翌2010/11年シーズンには著しく減少し、2011/12年以降の2シーズンではほとんど認められなくなった。2010/11年以降のシーズンではA/H3N2が流行している。B型の流行も少ないながら、ここ3シーズン認められている。
次に、NA阻害薬耐性ウイルスの検出率を調べると、H1N1pdm09で、タミフル・ラピアクタ耐性株の検出率が、2008/09年シーズン0.5%、2009/10年シーズン1.1%、2010/11年シーズン2.0%と年ごとに増加する傾向が認められた。2011/12年シーズンは、H1N1pdm09の流行がほとんど見られず、解析株は約10株に留まり、耐性株も認められなかった。しかし、2012/13年シーズンでは、やはり解析株が73株と少なかったものの、タミフル・ラピアクタ耐性株が2株(2.7%)認められ、検出率は2010/11年シーズンに比べ、わずかながら上昇した。各シーズンで検出された耐性株はすべて、NA蛋白にH275Y耐性変異を有していた。一方、H1N1pdm09のリレンザ・イナビル耐性株は、5シーズンいずれにおいてもまったく認められなかった。
H3N2では、タミフル・ラピアクタ耐性株が2010/11年シーズン、2011/12年シーズンにおいて各1株(0.7%、0.3%)検出された。検出された2株はともにNA蛋白にR292K耐性変異を有していた。そのほかのシーズンでは、2012/13年シーズンを含め、H3N2のタミフル・ラピアクタ耐性株は認められていない。リレンザ・イナビル耐性株は、H3N2においても5シーズンまったく認められなかった。
B型では、5シーズンすべてで、タミフル・ラピアクタ耐性株、リレンザ・イナビル耐性株のいずれも検出されていない。
高下氏は「検出された耐性株はいずれも地域への流行につながっていないが、今後も引き続き耐性株の発生状況を注意深く監視していく必要がある」と述べた。
単純化すると、
・A/H1N1pdm09では数%ながらタミフル/ラピアクタ耐性ウイルスが増加傾向、でもリレンザ/イナビルには認めず。
・H3N2ではタミフル/ラピアクタ耐性はあっても1%未満、リレンザ/イナビル耐性はゼロ。
・B型では薬剤耐性がゼロ。
ここで気づいたのですが、耐性化を議論する場合、同じノイラミニダーゼ阻害薬というメカニズムでありながら「タミフル/ラピアクタ」と「リレンザ/イナビル」の2つに分けるのですね。この二組は「交差感受性/交叉耐性」があるので一緒くたに考えてよいことになっているそうです。
先シーズン(2013-2014)はどうだったのか?
という疑問に答える記事をどうぞ;
■ タミフル・ラピアクタ耐性A(H1N1)pdm09ウイルス、解析対象の19%に
(2014/1/9:日経メディカル)
全国地方衛生研究所と国立感染症研究所が共同で実施している抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスによると、1月6日現在、タミフル・ラピアクタ耐性A(H1N1)pdm09ウイルスが、解析対象の19%に見つかっていることが分かった。リレンザあるいはイナビルの耐性A(H1N1)pdm09ウイルスは、検出されていない。
うわっ、2013-2014シーズンはそれまで数%であったものが急に二ケタに増えてます。イヤな予感・・・。
現在はどうなのか?
国立感染症研究所のHPに現状報告がありました。
■ 抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス
これを見ると、A(H1N1)pdm09 のタミフル耐性が4.2%とシーズン中の報告より減っています。
抗菌薬では一旦耐性株が出現すると年々増加するのが一般的ですが、ウイルスにはこのルールは当てはまらない様子。当初言われていたように、耐性ウイルスは感染性が弱く問題にならないと考えてよいのでしょうか。
来たる2014-2015シーズンも耐性ウイルス情報をチェックする必要がありそうです。
いずれにしても、耐性ウイルスという視点からすると抗インフルエンザ薬の選択は全身投与のタミフル/ラピアクタより吸入のリレンザ/イナビルが有利であることがわかりました。
リレンザが「はじめての抗インフルエンザ薬」として登場し話題になった1999年、「ノイラミニダーゼ阻害薬は耐性化しにくく、耐性化したウイルスは感染力が弱くなるので問題にならない」と喧伝されたことを記憶しています。
しかし、その通りには行かず、一時期タミフルの耐性化が話題になりました。
その経緯を辿ってみましょう。
厚労省の資料中に次の表を見つけました;
2008-2009シーズン、流行株であるA(H1N1)ソ連型のタミフル耐性は98.8%!
この報道に現場の医師はびっくり仰天。
でも実際に処方していても、薬が効かなくて大変だったという例は多くありませんでした。
なんでかなあ・・・。
そして怖々迎えた次の2009-2010シーズンは新型インフルエンザ・パンデミックが発生し別次元へ。と同時にA(H1N1)ソ連型は淘汰され、薬剤耐性ウイルス問題も一旦自然消滅しました。
次の2010-2011シーズンを迎えても、耐性ウイルスは影を潜めたまま。
その後の経過は・・・
■ H1N1pdm09のタミフル・ラピアクタ耐性株検出率、2012/13シーズンも上昇
(2013/7/5:日経メディカル)
わが国では近年、A/H1N1pdm09でタミフル・ラピアクタ耐性株の検出率が上昇する傾向が認められているが、2012/13年シーズンにおいてもわずかながら上昇傾向が見られたことが分かった。2012/13年シーズンの耐性株は、すべて抗インフルエンザ薬未投与例から検出されたものだった。国立感染症研究所(以下、感染研)と全国地方衛生研究所が共同で行っている、抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスの最近5シーズンのデータ解析より明らかになった。感染研インフルエンザウイルス研究センターの高下恵美氏らが、第54回日本臨床ウイルス学会(6月8~9日、開催地:倉敷市)で報告した。
高下氏らは今回、サーベイランスで得られた2008/09年~2012/13年の5シーズンにおけるインフルエンザウイルス流行状況、NA阻害薬耐性菌の検出状況を検討した。
まず、ウイルス流行状況を見ると、2008/09年シーズンより認めれられたH1N1pdm09の検出報告数が、パンデミックを起こした2009/10年シーズンにピークを迎えた。翌2010/11年シーズンには著しく減少し、2011/12年以降の2シーズンではほとんど認められなくなった。2010/11年以降のシーズンではA/H3N2が流行している。B型の流行も少ないながら、ここ3シーズン認められている。
次に、NA阻害薬耐性ウイルスの検出率を調べると、H1N1pdm09で、タミフル・ラピアクタ耐性株の検出率が、2008/09年シーズン0.5%、2009/10年シーズン1.1%、2010/11年シーズン2.0%と年ごとに増加する傾向が認められた。2011/12年シーズンは、H1N1pdm09の流行がほとんど見られず、解析株は約10株に留まり、耐性株も認められなかった。しかし、2012/13年シーズンでは、やはり解析株が73株と少なかったものの、タミフル・ラピアクタ耐性株が2株(2.7%)認められ、検出率は2010/11年シーズンに比べ、わずかながら上昇した。各シーズンで検出された耐性株はすべて、NA蛋白にH275Y耐性変異を有していた。一方、H1N1pdm09のリレンザ・イナビル耐性株は、5シーズンいずれにおいてもまったく認められなかった。
H3N2では、タミフル・ラピアクタ耐性株が2010/11年シーズン、2011/12年シーズンにおいて各1株(0.7%、0.3%)検出された。検出された2株はともにNA蛋白にR292K耐性変異を有していた。そのほかのシーズンでは、2012/13年シーズンを含め、H3N2のタミフル・ラピアクタ耐性株は認められていない。リレンザ・イナビル耐性株は、H3N2においても5シーズンまったく認められなかった。
B型では、5シーズンすべてで、タミフル・ラピアクタ耐性株、リレンザ・イナビル耐性株のいずれも検出されていない。
高下氏は「検出された耐性株はいずれも地域への流行につながっていないが、今後も引き続き耐性株の発生状況を注意深く監視していく必要がある」と述べた。
単純化すると、
・A/H1N1pdm09では数%ながらタミフル/ラピアクタ耐性ウイルスが増加傾向、でもリレンザ/イナビルには認めず。
・H3N2ではタミフル/ラピアクタ耐性はあっても1%未満、リレンザ/イナビル耐性はゼロ。
・B型では薬剤耐性がゼロ。
ここで気づいたのですが、耐性化を議論する場合、同じノイラミニダーゼ阻害薬というメカニズムでありながら「タミフル/ラピアクタ」と「リレンザ/イナビル」の2つに分けるのですね。この二組は「交差感受性/交叉耐性」があるので一緒くたに考えてよいことになっているそうです。
先シーズン(2013-2014)はどうだったのか?
という疑問に答える記事をどうぞ;
■ タミフル・ラピアクタ耐性A(H1N1)pdm09ウイルス、解析対象の19%に
(2014/1/9:日経メディカル)
全国地方衛生研究所と国立感染症研究所が共同で実施している抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスによると、1月6日現在、タミフル・ラピアクタ耐性A(H1N1)pdm09ウイルスが、解析対象の19%に見つかっていることが分かった。リレンザあるいはイナビルの耐性A(H1N1)pdm09ウイルスは、検出されていない。
うわっ、2013-2014シーズンはそれまで数%であったものが急に二ケタに増えてます。イヤな予感・・・。
現在はどうなのか?
国立感染症研究所のHPに現状報告がありました。
■ 抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス
これを見ると、A(H1N1)pdm09 のタミフル耐性が4.2%とシーズン中の報告より減っています。
抗菌薬では一旦耐性株が出現すると年々増加するのが一般的ですが、ウイルスにはこのルールは当てはまらない様子。当初言われていたように、耐性ウイルスは感染性が弱く問題にならないと考えてよいのでしょうか。
来たる2014-2015シーズンも耐性ウイルス情報をチェックする必要がありそうです。
いずれにしても、耐性ウイルスという視点からすると抗インフルエンザ薬の選択は全身投与のタミフル/ラピアクタより吸入のリレンザ/イナビルが有利であることがわかりました。