徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

「ワクチン接種後アナフィラキシーが○○人発生!」 〜新型コロナワクチンは危険なのか?

2021年01月24日 07時17分25秒 | 小児科診療
新型コロナワクチン接種が世界各国ではじまりました。

そこでまず話題になっているのが、副反応の「アナフィラキシー」です。
「○○社ワクチン接種後、アナフィラキシーが〇人に発生した」
などと報道されていますが、多いのか少ないのか、今ひとつピンとこない人が多いと思います。
皆さんの関心事になっていることと思いますので、まとめてみました。

ちなみに、毎年接種が勧奨されているインフルエンザワクチンの副反応としてのアナフィラキシーの頻度は、約76万人に1人(0.00013%)と報告されています。

さて、新型コロナワクチンによるアナフィラキシーの頻度は多いのでしょうか、それとも少ないのでしょうか?

ファイザー・ビオンテック社ワクチン:9万人に一人(0.001%)
モデルナ社ワクチン:40万人に一人(0.00025%)

インフルエンザワクチンと比べると少し多いといえば多いような・・・でも%にするとあまりにも低く、ピンときませんね。
アメリカのデータベースによるとワクチン全体での頻度は、

ワクチン接種(アメリカ):100万回あたり1.31回(0.00013%)

なので、従来のワクチンより新型コロナワクチンは少し多いという数字です。
ただ、今回は世界中が注目する中で、厳重に副反応が監視され拾い上げられたデータなので、今までの調査法より多い数字が出てもおかしくないとも解説されています。

さて、他の医薬品による副作用としてのアナフィラキシーの頻度と比較してみましょう。

セフェム系抗菌薬:100万人に1人〜1000人(0.0001〜0.1%)
解熱鎮痛剤:100万人に20〜500人(0.002〜0.05%)

ワクチン以外の医薬品は病気の人に投与するのが前提なので、単純比較に意義を唱える人もいるかも知れませんが・・・
いずれにしても、新型コロナワクチンによる副反応としてのアナフィラキシーの頻度は従来のワクチン、薬品と大きな差は無く、中止する判断には至らない、と解説されています。

これらの数字は、以下の記事から抜き出しました;


(ナショナル・ジオグラフィック:2021/1/18)より
・・・
ファイザー・ビオンテック製ワクチンの接種で重篤なアナフィラキシーが起きた21人のうち、19人は女性で、半数は41~60歳(残りの半数は27~40歳)だった。17人は、食品、薬や他の種類のワクチンのほか、ミツバチやスズメバチの刺傷により過去にアレルギー反応を起こしたことがあった。7人にはアナフィラキシーの既往歴があった。
21人のうち18人は、接種後30分以内にアナフィラキシーの症状が現れた。そのほぼ全員が、ただちにエピネフリン(アナフィラキシーの一般的な治療薬であるエピペンの有効成分)の投与を受けた。入院が必要になったのは4人だけだった。21人のうち少なくとも20人は、20年12月23日までに完全に回復したか、退院していた。
これらの症例に地理的な集中は見られず、ワクチンのロットもばらばらであったため、ワクチンの汚染が問題だったという証拠はない。症例の研究はまだ初期段階にある。女性の症例が多いのは、実際に生物学的原因があるせいなのかもしれないし、調査期間中に接種を受けた189万人のうち62%が女性だったという事実を反映しているのかもしれない。
・・・
「1回目の接種で即時反応があった人は、2回目を受けるべきではありません。また、このワクチンの成分や、よく似た化合物に対してアレルギーがあることがわかっている人は、最初からワクチン接種を受けないことをお勧めします」。ワクチンの成分にアレルギーがあるかどうか不明な人は、接種を受ける前に医師に相談するとよい。
ファイザー・ビオンテック製とモデルナ製の新型コロナワクチンはどちらもメッセンジャーRNA(mRNA)とそれを保護するポリエチレングリコールを含んでいる。CDCは、ポリエチレングリコールにアレルギーのある人は、このタイプのワクチン接種は受けるべきではないとしている。ポリエチレングリコールに化学的に似ているポリソルベート(乳化剤として食品や化粧品などに使われる)にアレルギーのある人も同様だ。


(NHK、2021年1月23日)より
 アメリカCDC=疾病対策センターは22日、アメリカの製薬会社モデルナが開発した新型コロナウイルスのワクチンを接種したおよそ400万人のうち、アナフィラキシーと呼ばれる激しいアレルギー反応を示した人は10人だったとする報告書を公表しました。追跡できた人は全員すでに回復したということです。
報告書によりますと、アメリカの製薬会社モデルナが開発したワクチンを接種した人は先月21日から今月10日までに全米でおよそ404万人で、性別は61%が女性、36%が男性で、残りは不明だとしています。
 このうち健康に関する報告は、ワクチンと関係があるかわからないものも含めて、1266件、0.03%だったということです。
 また、激しいアレルギー反応であるアナフィラキシーの症状を示した人は10人、100万人当たり2.5人で、このうち9人は、過去に薬や食べ物などでアレルギー反応が出たことがあったということです。
 症状を示した10人はすべてが女性で、9人は接種後15分以内で症状が出たということです。
 10人のうち、その後の経過が追跡できた8人は全員すでに回復しているということです。
 CDCは「モデルナのワクチン接種後のアナフィラキシー症状はまれな出来事とみられる」としたうえで、念のため激しいアレルギー反応に備えて接種を行うよう求めるとともに、健康への影響を注意深く検証していくとしています。


ちなみに、すでにアメリカ人の1000人に一人以上が、今回の新型コロナウイルス感染で死亡しています。
ワクチンの有効性が十分であれば、自然感染とワクチン接種を秤にかけると、ワクチンの方が安全、という判断になりますね。

もう一つ、アレルギー専門医の堀向先生の意見を紹介します。


(堀向健太 | 日本アレルギー学会専門医・指導医。日本小児科学会指導医。2020/12/21)より
セフェム系抗菌薬(=抗生物質)によるアナフィラキシー:100万人に一人(〜報告により1000人)
解熱鎮痛剤によるアナフィラキシー:100万人に20〜500人
ワクチン接種(アメリカのデータベースより):100満開あたり1.31回
→ 『新型コロナのワクチンは、ややアナフィラキシーの頻度が他のワクチンより高い可能性があるかもしれないけれども、中止するような確率ではないだろう』
・・・
むしろ、発熱や接種部位が腫脹したりする率が高いことが少し心配です。
たとえば新型コロナのワクチンは、接種後に発熱(38度以上)が若年者で16%、高齢者では11%にあったとされています(※4)。
これらの副反応は、『重篤でない副反応』にあたりますが、予防接種に対して慎重な姿勢の方が多い日本では敬遠される理由にならないかを懸念しています。
事前に、その頻度を心得ておく必要がありそうです。
(※4) N Engl J Med. 2020 Dec 10. doi: 10.1056/NEJMoa2034577. Epub ahead of print. PMID: 33301246.


堀向先生は、アナフィラキシーは従来のワクチン・医薬品と差が大きくないので対策を十分に取れば問題ない、むしろ軽度の副反応に分類される局所反応を日本人は気にするのではないか、と心配されていますね。

さて、ワクチンの副反応はアナフィラキシーだけではありません。
それに言及した記事を紹介します。

私が注目しているのは、ADE(抗体依存性感染増強)です。
これはワクチンで獲得した抗体が、その後の自然感染を予防するのではなく、なんと自然感染を重症化させかねないというありがたくない副反応です。
記事のポイントを抜粋すると・・・


現在使用されている新型コロナワクチンの種類
・mRNAワクチン:ファイザー社(アメリカ)、モデルナ社(アメリカ)
・ウイルスベクター:アストラゼネカ社(英国)

現在使用されている新型コロナワクチンの有効性
・ファイザー社:95%
・モデルナ社:90%以上
・アストラゼネカ社:90%以上

副反応は3種類に分けられる
① 接種後数日以内に出現するもの:アナフィラキシーなど
→ 上記
② 接種後2-4週間後に出現するもの:脳炎、Guillain-Barre症候群など
→ 今回のワクチンでは報告はない
③ ワクチン接種者が自然感染した場合に出現するもの:ADE(抗体依存性感染増強)
→ ワクチン接種後に抗体ができ、その抗体のために新型コロナ感染症が悪化する現象。せっかく獲得した抗体が、再び感染した際に悪く作用して重症化につながる効果とは真逆の現象。まだデータが無い・・・。

宮坂昌之・大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授インタビュー
(ダイヤモンド編集部、2021.1.11)


ADE(抗体依存性感染増強)、あるいはワクチン関連疾患増悪(VDE, Vaccine associated diesase enhancemento syndrome)の過去の事例は次の通り;
SARS-MERSワクチン
RSワクチン:1960年代に開発された不活化RSVワクチン試験で、接種後に自然感染した場合80%が入院を要し、子どもの死亡例2例が報告された。
デング熱ワクチン

これらのワクチンは危険と判断され中止に追い込まれています。

もう一つ記事を紹介します。ちょっと専門用語が多くて難しいのですが、比較的詳しく書かれています;


(紙谷 聡:医学書院、2020.10.19)
・・・
 現在COVID-19ワクチンで最も懸念される副反応は,ワクチンによって逆に感染が悪化してしまう病態であるVaccine-enhanced diseaseであり,抗体依存性感染増強現象(Antibody-dependent enhancement:ADE)およびワクチン関連増強呼吸器疾患(Vaccine-associated enhanced respiratory disease:VAERD)の2つに分けられます。
 ADEは,ワクチンによって産生された抗体がウイルスの感染を防ぐのではなく,逆にFc受容体を介してウイルスが人間の細胞に侵入するのを助長し,ウイルス感染を悪化させてしまう現象です。これは,ウイルスに対する中和作用の低い抗体が多く産生される場合に生じる現象で,デング熱に対するワクチンなどで報告されています。
 一方,VAERDは1960年代にRSウイルスや麻疹に対する不活化ワクチンで認めた現象ですが,やはりワクチンによって中和作用の低い抗体が産生され,その抗体がウイルスとの免疫複合体を形成し,補体活性化を惹起して気道の炎症を引き起こすものです。さらに,この不完全な抗体はTh 2細胞優位の免疫反応も惹起して気道内にアレルギー性の炎症を引き起こします。これらの病態によって,より重症なRSウイルス感染をワクチン接種者に認めたのです。
 ADEやVAERDを防ぐには,高い中和作用を有する抗体を産生させ,かつTh 1細胞優位の免疫反応を惹起するワクチンの開発が必要だと考えられています。
 そのためには立体構造的に正しくかつ安定した,質の高いスパイク糖たんぱく質(抗原)をワクチンによって作りあげることが重要です。現時点で学術誌に報告されているワクチン(mRNA-1273, ChAdOx 1, Ad 5 vectored vaccine, BNT 162 b 1など)は,いずれも高い中和抗体反応を認め,一部はT細胞性免疫反応も確認できており(mRNA-1273はTh 1細胞優位の反応も確認),この基準を満たしている可能性があります。
 また,9月上旬までに医学誌に発表された報告では,接種部位の痛みや倦怠感,発熱などの反応はあるものの,深刻な有害事象は認めておらず,安全性に一定の期待が持てる結果となっています。しかし,ADEやVAERDの可能性を正しく評価するためには,ワクチン接種者が実際に新型コロナウイルスに感染したときにどのような反応が起きるかを対照群と比較する必要があり,今後の第III相試験を含めた安全性評価および後述するワクチン認可後の安全性モニタリングが鍵となります。
・・・


この副反応の検証が不十分なまま、新型コロナ感染症の勢いが強いため、見切り発車的に始まったという印象が、私には拭いきれません。
今後の情報発信にアンテナを張り続け得たいと思います。


<参考>
(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所、2020年11月13日)
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