最近、テレビで新型コロナワクチンを接種する映像がたくさん流れるようになりました。
肩にブスッと深めに刺して、
シュッとワクチン液を注入して、
はいおしまい!
てな感じです。
それを見て、ちょっと違和感がある人、少なからずいるんじゃないでしょうか。
そう、この接種法は「筋肉注射」(略して「筋注」)です。
日本で多く行われている方法は「皮下注射」(略して「皮下注」)で、
腕(上腕)の下の方に斜めに浅く針を刺してワクチン液を注入する方法。
お子さんの予防接種ではお馴染みですね。
「筋肉に深く刺す」なんて痛そうで怖いですよね。
しかし現実はそうでもありません。
当院ではHPVワクチン、B型肝炎ワクチン(10歳以上)などを筋肉注射していますが、実際に筋肉注射したお子さん達は口を揃えて、
「あれ、思ったほど痛くない」
とつぶやきながら帰って行きます。
世界で流通している新型コロナワクチンはすべて筋肉注射です。
「痛そうだから私は皮下注射でお願いします」
と希望しても、
「皮下注射が有効であるデータはありませんからダメです」
と却下されることでしょう。
実は筋肉組織には痛覚点が乏しく、
痛みを感じにくいのです。
気絶するほどの痛みはありませんから、大丈夫ですよ。
「皮下注と筋注」を解説した記事が目に留まりましたので紹介します。
日本のワクチン接種が「皮下注射」中心になったのは、それなりの歴史と理由があります。
1970年代に、某病院で治療を受けた患者さん達に跛行(びっこを引く)方が多数発生し、その原因を検索したら「ふとももに何回も筋肉注射」をしていることが判明しました。
これが「大腿四頭筋拘縮症」として社会問題になりました。
ただし「何回も筋肉注射」した薬は、ワクチンではありません。
解熱鎮痛剤や抗生物質です。
筋肉拘縮の原因は、筋肉注射という手技よりも薬液の問題だったと分析されています。
しかし、一度問題視された筋肉注射は、その後汚名返上できずじまいで今まで約50年も経ってしまいました。
今回の新型コロナワクチン接種を機会に、
小児科医は世界標準の接種方法に戻ることを期待しています。
■ 新型コロナワクチンは筋肉注射に 皮下注射と違いは?
酒井健司(内科医)
近頃はニュースで海外での新型コロナワクチン接種のシーンをよく見ます。みなさまになじみのあるインフルエンザワクチンとは打ち方がちょっと違うのにお気づきでしょうか。
日本ではインフルエンザワクチンは皮下注射です。皮膚をすこしつまんで注射針は斜めに角度をつけて浅く刺します。一方、新型コロナワクチンは筋肉注射といって上腕の筋肉に注射針を直角に深く刺して打っています。筋肉は皮下組織より深いところにあるからです。ニュースでワクチン接種のシーンが流れたときに注意して見てください。
実は、インフルエンザワクチンも海外では皮下注射ではなく筋肉注射です。日本では「ワクチンは原則皮下注射」というローカルルールがあり、インフルエンザワクチンに限らず、海外では筋肉注射されているワクチンの多くが日本では皮下注射されています。
日本で筋肉注射が避けられているのには歴史的な背景があります。不適切な筋肉注射のせいで「大腿四頭筋拘縮症」という副作用が多く起こったことからだそうです。1970年代と言いますから私が子供のころです。抗菌薬や解熱薬を何度も大量に筋肉注射したためであって、ワクチンの筋肉注射ではそのような副作用は起こりません。
ワクチンの種類にもよりますが、皮下注射よりも筋肉注射のほうが免疫がつきやすく局所の副作用も小さいという報告があります。たとえば、B型肝炎ワクチンは皮下注射よりも筋肉注射のほうが抗体が付きやすいという海外のデータがあります。添付文書上では皮下注射でも筋肉注射でもどちらでもいいことになっていますが、日本ではたいていは皮下注射されます。規定通り3回のワクチンを接種しても10%ぐらいは十分な抗体がつかない人がいますが、追加接種を筋肉注射で行ったりします。
「ワクチンは原則皮下注射」というローカルルールにさしたる根拠はありません。見直すよう専門家からの提言もあり、徐々に改善されてきています。新型コロナワクチンも海外の標準通り、筋肉注射でされるでしょう。というか、新型コロナワクチンを皮下注射したときの安全性や有効性のデータはまったくないので、皮下注射という選択肢はありません。
いまのところ、2月下旬に医療従事者に、3月下旬ぐらいから高齢者への接種がはじまる予定です。筋肉注射をはじめて受けるという方もいらっしゃるでしょう。深く刺すので見た目は怖いですが、筋肉注射だからとくに痛いということはありません(薬液にもよります)。海外では標準的な接種方法ですので怖がらなくても大丈夫です。
(追加情報:2021.2.23)
■ 新型コロナワクチンはなぜ筋肉注射なのか?
紙谷聡 | 小児感染症科医師、ワクチン研究者
(2021/2/21:Yahooニュース)より抜粋
今回はワクチンの打ち方について、特に筋肉注射と皮下注射の違いについて解説して、新型コロナワクチン(特に今回導入されたmRNAワクチンを例に)はなぜ筋肉注射をする必要があるのかを考えていきます。
皮下注射と筋肉注射のやり方の違い
それでは、まず皮下注射と筋肉注射の実際の打ち方の違いについてです。皮下注射とは、その字のごとく皮膚の下、すなわち皮下脂肪があるところに斜め45度から注射します。一方で、筋肉注射とは、皮膚や皮下脂肪のさらに奥にある筋肉に注射を垂直に注射します。
皮下注射は日本では慣習的に古くからおこなわれており、インフルエンザの予防接種などでも馴染みが深いかと思いますが、筋肉注射はどうでしょうか。今、筋肉注射は話題になっていますが、やはり日本では一般的でなく馴染みが薄いでしょう。しかし日本の常識とは裏腹に、実は海外の多くの国々では不活化ワクチンの予防接種の打ち方として筋肉注射が一般的なのです(※生ワクチンは皮下注射です)。
なぜ多くの国で筋肉注射が一般的なのか?皮下注射と比べて何が違うのか?
そのなぞを紐解いていくために、まずその違いについて主に効果や安全性を中心に解説します。
まず一番気になる安全性についてですが、結論から言いますと、多くのワクチンにおいて筋肉注射の方が皮下注射と比べて実は局所の反応(痛み、腫れなど)が少なくなることが知られています。
「え?筋肉注射の方が痛みや腫れが少ないのは想像していたこととちがう!?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは実は考えてみると自然な体のしくみなのかもしれません。身近な体験として例えば、皮膚を思いっきりつねられるとするどい痛みを感じて、イタタっと叫びたくなるくらい痛いですよね。
一方で、いわゆる運動のしすぎなどで起こる「筋肉痛」ってもっとにぶい痛みではないでしょうか?もっと、じわっとくるにぶいもので、筋肉痛で叫びたくなるほどの痛みというのはあまり聞かないです。実は、筋肉という組織は、表面の皮膚に近いところよりも「鈍感」であり、筋肉は痛みを感じる神経が少ないともいわれています。
・・・さらに詳しく安全性について考えていきます。実は、安全面において皮下注射の方がよりリスクが高いワクチンもあります。特にアジュバントといったワクチンの効果を高める成分が入ったワクチン(4種混合ワクチン、13価肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンなど)は、局所の反応がでやすいため、皮下注射をするとより多く痛みや腫れ、そして強い炎症や肉芽を生じる可能性があることが知られています。そのため、このようなワクチンでは、こうした不快な局所の反応を「軽減」するために皮下注射ではなく「筋肉注射」で投与することが世界では推奨されています。
今回日本に導入されたmRNAワクチンはなぜ筋肉注射なのか?
さて、今回導入されたファイザー・ビオンテック社製や導入予定のモデルナ社製のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは特に、この筋肉注射での接種が極めて重要となります。これは、筋肉の中は血流が豊富で免疫細胞も多く分布するため、筋肉に注射されたワクチンの成分を免疫細胞が見つけやすく、その分その後のワクチンによる免疫の活性化が起きやすくなると考えられているからです。
一方で、皮下の脂肪組織の部位は、血流は多くなく免疫細胞の分布も少ないため、ワクチンの成分が免疫細胞に発見されづらくなります。さらに、脂肪組織の部位は吸収が遅いためワクチンの成分をその場に留めて停滞させてしまいやすく、ただでさえ壊れやすいmRNAワクチンは、免疫細胞を活性化するという仕事を全うすることなく分解されてしまうリスクがあります。
また、mRNAワクチンは効果が抜群な分、局所の反応も起きやすいため、なおのこと局所の反応を抑えやすい筋肉注射をすることが重要になります。
筋肉注射をする際に注意しなければならない方は?
主に病気やお薬の影響で出血をしやすい方です。すなわち、ワーファリンなどの血をさらさらにするお薬を飲んでいらっしゃる方や、もともと血が止まりにくい病気をお持ちの方は、新型コロナワクチンの筋肉注射をする前に必ず医師や看護師に伝えて、通常より細めの針を使用したり、接種後に少なくとも2分ほど接種部位を圧迫するなどの処置が血種の予防として重要となります。新型コロナウイルスワクチンの予診票にも、血が止まりにくい病気があるかどうかなどの質問項目があるので安心ですね。他に、進行性骨化性線維異形成症を持つ児に筋肉注射は打てません。
シリンジを引く逆血の確認は必要か?
ちなみに、これは医療者向けの知識ですが、ワクチン接種をする三角筋などの筋肉注射では通常大きな血管はないため、海外では逆血確認のシリンジを引く必要はないとされています(※あくまで予防接種についてのみ)。予防接種において、筋肉注射でも皮下注射でもシリンジを引くと「痛い」ので不利益の方が多く、有名なプロトキン先生のワクチンの教科書にも、米国疾病予防管理センター(CDC)の予防接種ガイドラインにも逆血確認は必要ないとしています。
・・・
こうした知見から、世界の多くの国々では、生ワクチン以外のワクチンはこの筋肉注射での予防接種が広く一般的に行われています。痛みも少なめですし、ワクチンによっては効果もより高いのであれば、それを選ばない理由が見つかりません。
ただ、昔から慣習的に行っていることを急に変えるという事に躊躇する気持ちや不安になる気持ちもよくわかります。しかし、ワクチン接種が多い小児科の分野では、実はこうした筋肉注射への理解や知識を深めようとする動きはすでに以前から行われており、日本小児科学会では小児に対するワクチンの筋肉内接種法の詳細について医師向けに解説をしています。