なぜ経済大国・日本で「餓死者」が出るのか 「悲劇」を防ぐ手段はどこにある?
弁護士ドットコム
2014年1月15日(水)
なぜ経済大国・日本で「餓死者」が出るのか 「悲劇」を防ぐ手段はどこにある?結局のところ、食うにも困るような「生活苦」に陥ったら、途方に暮れるしかないのか?
電気、ガス、水道が止められ、冷蔵庫にはマヨネーズなどの空容器のみ……。そんな大阪市の団地の一室で昨年11月中旬、31歳の女性の遺体が発見された。死因は餓死か衰弱死とみられ、死後1~2カ月経っていたという。
報道によると、この女性は約4年前に生活保護の相談で区役所を訪れたものの受給には至らず、最近は「お金がない」と親族に訴えていたという。経済大国といわれる日本だが、餓死や孤立死などの悲惨なニュースは絶えることがない。生活保護に対する風当たりは強まり、行政による窓口対応の問題点も指摘されている。
結局のところ、食うにも困るような「生活苦」に陥ったら、途方に暮れるしかないのか。今回のような悲劇を防ぐには、どうしたらいいのだろうか。貧困問題に取り組む戸舘圭之弁護士に聞いた。
●憲法は「生存権」を保障している
「誰でも、さまざまなきっかけで貧困状態に陥ります。貧困は自己責任ではありません」
戸舘弁護士はこのように切り出した。自己責任ではない、となれば、誰の責任になるのだろうか?
「日本国憲法25条1項は『すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』を保障しています。いわゆる『生存権』です。
これは、貧困は自己責任ではなく、国の政策の失敗の結果であることから、すべての人に対して『人間らしく生きる権利』すなわち『生存権』を国家が責任をもって保障するという規定です。
生活保護は、この憲法25条に基づく国の制度としてあるのです」
努力によって貧困を避けられたケースもあるのでは?
「生活保護は、生活に困っている人ならば誰でも、困窮に陥った原因を問うことなく無差別平等に利用できる制度です。したがって、生活に苦しくなり、毎日の食事にも困るような状態になれば、当然に生活保護を利用し、生活費や住宅費、医療費等の支給を受けることができます。
努力することはいいことですが、誰でも努力できるわけではありませんし、そもそも努力するためにも最低限の経済的な基盤は必要です。現に貧困状態にある人に努力などを要求して保護を拒絶することは、その人に不可能を強いることであり、『努力しない人間は死んでもかまわない』と言っているに等しいと思います」
●「生活保護制度を遠慮せずに利用しましょう」
そういう制度があるのに、現実には餓死や衰弱死が存在するのは、なぜなのだろうか?
「現実には、生活保護を申請しようと役所(福祉事務所)の窓口に行っても、『まだ若いから働きなさい』『親族に扶養してもらいなさい』『ホームレスは生活保護を受けられません』『住所がないからダメです』『他の制度を利用してください』などと告げられ、追い返されるケースが後を絶ちません。
しかし、こういった口実は、生活保護の申請を受け付けない理由にはなりません。このような役所の窓口対応は『水際作戦』と呼ばれ、明らかに違法なのです。
こうした問題は、生活保護に詳しい専門家に相談することにより、解決することが可能です。弁護士、司法書士による無料相談窓口としては首都圏生活保護支援法律家ネットワーク(http://www.seiho-law.info/)などがあります」
たとえば、周囲に裕福な親族がいる場合にも、生活保護は受けられるのだろうか?
「親族の援助、扶養を受けることも、生活保護を受けるための要件ではありません。
昨年、生活保護法が一部改正されましたが、憲法25条に基づく最低限度の生活を国の責任で無差別平等に保障するという基本的な考え方は全く変わっていません。
とにかく生活に困ったら、生活保護制度を遠慮せずに利用しましょう」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
戸舘 圭之(とだて・よしゆき)弁護士
民事事件、刑事事件、労働事件等に取り組みながら、ホームレス、生活保護などの貧困問題や追い出し屋対策などの住まいの問題にも取り組んでいる。
第二東京弁護士会、首都圏追い出し屋対策会議事務局長、ホームレス総合相談ネットワーク、青年法律家協会弁護士学者合同部会副議長、首都圏青年ユニオン顧問弁護団
事務所名:代々木総合法律事務所
事務所URL:http://www.yoyogi-law.gr.jp/
弁護士ドットコム
2014年1月15日(水)
なぜ経済大国・日本で「餓死者」が出るのか 「悲劇」を防ぐ手段はどこにある?結局のところ、食うにも困るような「生活苦」に陥ったら、途方に暮れるしかないのか?
電気、ガス、水道が止められ、冷蔵庫にはマヨネーズなどの空容器のみ……。そんな大阪市の団地の一室で昨年11月中旬、31歳の女性の遺体が発見された。死因は餓死か衰弱死とみられ、死後1~2カ月経っていたという。
報道によると、この女性は約4年前に生活保護の相談で区役所を訪れたものの受給には至らず、最近は「お金がない」と親族に訴えていたという。経済大国といわれる日本だが、餓死や孤立死などの悲惨なニュースは絶えることがない。生活保護に対する風当たりは強まり、行政による窓口対応の問題点も指摘されている。
結局のところ、食うにも困るような「生活苦」に陥ったら、途方に暮れるしかないのか。今回のような悲劇を防ぐには、どうしたらいいのだろうか。貧困問題に取り組む戸舘圭之弁護士に聞いた。
●憲法は「生存権」を保障している
「誰でも、さまざまなきっかけで貧困状態に陥ります。貧困は自己責任ではありません」
戸舘弁護士はこのように切り出した。自己責任ではない、となれば、誰の責任になるのだろうか?
「日本国憲法25条1項は『すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』を保障しています。いわゆる『生存権』です。
これは、貧困は自己責任ではなく、国の政策の失敗の結果であることから、すべての人に対して『人間らしく生きる権利』すなわち『生存権』を国家が責任をもって保障するという規定です。
生活保護は、この憲法25条に基づく国の制度としてあるのです」
努力によって貧困を避けられたケースもあるのでは?
「生活保護は、生活に困っている人ならば誰でも、困窮に陥った原因を問うことなく無差別平等に利用できる制度です。したがって、生活に苦しくなり、毎日の食事にも困るような状態になれば、当然に生活保護を利用し、生活費や住宅費、医療費等の支給を受けることができます。
努力することはいいことですが、誰でも努力できるわけではありませんし、そもそも努力するためにも最低限の経済的な基盤は必要です。現に貧困状態にある人に努力などを要求して保護を拒絶することは、その人に不可能を強いることであり、『努力しない人間は死んでもかまわない』と言っているに等しいと思います」
●「生活保護制度を遠慮せずに利用しましょう」
そういう制度があるのに、現実には餓死や衰弱死が存在するのは、なぜなのだろうか?
「現実には、生活保護を申請しようと役所(福祉事務所)の窓口に行っても、『まだ若いから働きなさい』『親族に扶養してもらいなさい』『ホームレスは生活保護を受けられません』『住所がないからダメです』『他の制度を利用してください』などと告げられ、追い返されるケースが後を絶ちません。
しかし、こういった口実は、生活保護の申請を受け付けない理由にはなりません。このような役所の窓口対応は『水際作戦』と呼ばれ、明らかに違法なのです。
こうした問題は、生活保護に詳しい専門家に相談することにより、解決することが可能です。弁護士、司法書士による無料相談窓口としては首都圏生活保護支援法律家ネットワーク(http://www.seiho-law.info/)などがあります」
たとえば、周囲に裕福な親族がいる場合にも、生活保護は受けられるのだろうか?
「親族の援助、扶養を受けることも、生活保護を受けるための要件ではありません。
昨年、生活保護法が一部改正されましたが、憲法25条に基づく最低限度の生活を国の責任で無差別平等に保障するという基本的な考え方は全く変わっていません。
とにかく生活に困ったら、生活保護制度を遠慮せずに利用しましょう」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
戸舘 圭之(とだて・よしゆき)弁護士
民事事件、刑事事件、労働事件等に取り組みながら、ホームレス、生活保護などの貧困問題や追い出し屋対策などの住まいの問題にも取り組んでいる。
第二東京弁護士会、首都圏追い出し屋対策会議事務局長、ホームレス総合相談ネットワーク、青年法律家協会弁護士学者合同部会副議長、首都圏青年ユニオン顧問弁護団
事務所名:代々木総合法律事務所
事務所URL:http://www.yoyogi-law.gr.jp/
12・6を忘れない
東京新聞
2013年12月8日 朝刊
◆政治部長 金井辰樹
反対の声が議事堂を包む中、耳をふさぐように採決に突入し、特定秘密保護法案は「法」になった。
国会の責任は、政府と与野党の論争を国民に提供して知る権利に応えること。そして民意を吸い上げながら法律をつくること。ところが、その責任を放棄し、知る権利をおびやかす法律を成立させてしまった。
法案の修正協議で先頭に立った自民党の中谷元・副幹事長は採決を前に「サイレントマジョリティー(声なき多数派)」の理解を得たと言った。声を上げない人は理解者と解釈し、反対の声は「大音量」の雑音だと思っているのだろうか。だから健全な民主主義の表現であるデモをテロに例えた石破茂自民党幹事長のことも、党内ではさほど問題視されなかったのだろう。
成立したばかりの条文を読み返してみた。三十カ所以上にちりばめられた「その他」の文字が、秘密の範囲を無限に広げ、知る権利を脇に追いやる構成になっている。
似た文章を思い出した。昨年、自民党がつくった憲法草案だ。随所にある「公益」や「公の秩序」が基本的人権を縛りつけている。二つの文をみて、この政権は、民より上に国家が君臨する社会をつくろうとしているのだと感じる。
責任は自民党だけでない。平和の党を自任する与党・公明党は「戦争する国」に道を開くとも指摘される政府案を、わずかな修正で了承してしまった。官僚支配の打破を訴えてきた日本維新の会やみんなの党は、官僚が秘密を意のままに操る懸念が強く残るまま与党と修正合意。これを機に巨大な安倍自民党との関係を深めようという党利党略が先行していた。反対姿勢を鮮明にするのが遅れた民主党も含め「国民の権利をどう守るか」という意識は希薄だった。
法律は成立した。しかし、終わりではない。国会でできた法律は、国会で改正も廃止もできる。反対論の全国的な広がりは、今回は法成立を阻止できなかったが、政権側は相当追い詰められていたのも事実だ。揺るぎなく声を上げ続けることで、政治を動かすことはできる。
そして、有権者にとって最も効果のある手段が選挙だ。私たちの一票で選んだ国会議員が、どんな発言をしたか。賛成したか。反対したか。きちんと胸に刻んでおく必要がある。政治家は「国民はしばらくしたら忘れる」と、たかをくくっているかもしれないが、そうはいかない。次の選挙まで十二月六日のことを、しっかりと記憶にとどめたい。
東京新聞
2013年12月8日 朝刊
◆政治部長 金井辰樹
反対の声が議事堂を包む中、耳をふさぐように採決に突入し、特定秘密保護法案は「法」になった。
国会の責任は、政府と与野党の論争を国民に提供して知る権利に応えること。そして民意を吸い上げながら法律をつくること。ところが、その責任を放棄し、知る権利をおびやかす法律を成立させてしまった。
法案の修正協議で先頭に立った自民党の中谷元・副幹事長は採決を前に「サイレントマジョリティー(声なき多数派)」の理解を得たと言った。声を上げない人は理解者と解釈し、反対の声は「大音量」の雑音だと思っているのだろうか。だから健全な民主主義の表現であるデモをテロに例えた石破茂自民党幹事長のことも、党内ではさほど問題視されなかったのだろう。
成立したばかりの条文を読み返してみた。三十カ所以上にちりばめられた「その他」の文字が、秘密の範囲を無限に広げ、知る権利を脇に追いやる構成になっている。
似た文章を思い出した。昨年、自民党がつくった憲法草案だ。随所にある「公益」や「公の秩序」が基本的人権を縛りつけている。二つの文をみて、この政権は、民より上に国家が君臨する社会をつくろうとしているのだと感じる。
責任は自民党だけでない。平和の党を自任する与党・公明党は「戦争する国」に道を開くとも指摘される政府案を、わずかな修正で了承してしまった。官僚支配の打破を訴えてきた日本維新の会やみんなの党は、官僚が秘密を意のままに操る懸念が強く残るまま与党と修正合意。これを機に巨大な安倍自民党との関係を深めようという党利党略が先行していた。反対姿勢を鮮明にするのが遅れた民主党も含め「国民の権利をどう守るか」という意識は希薄だった。
法律は成立した。しかし、終わりではない。国会でできた法律は、国会で改正も廃止もできる。反対論の全国的な広がりは、今回は法成立を阻止できなかったが、政権側は相当追い詰められていたのも事実だ。揺るぎなく声を上げ続けることで、政治を動かすことはできる。
そして、有権者にとって最も効果のある手段が選挙だ。私たちの一票で選んだ国会議員が、どんな発言をしたか。賛成したか。反対したか。きちんと胸に刻んでおく必要がある。政治家は「国民はしばらくしたら忘れる」と、たかをくくっているかもしれないが、そうはいかない。次の選挙まで十二月六日のことを、しっかりと記憶にとどめたい。