ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

奈良病院宿直賃金訴訟: 医師側も控訴

2009年05月08日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

奈良県立病院の宿直賃金訴訟で、奈良地裁は、宿日直勤務は時間外割増賃金の支払いを命じましたが、宅直勤務に関しては時間外労働として認めませんでした。

被告の奈良県側は、実際に働いていない時間も時間外割増賃金の対象とする奈良地裁の判決を不服として、大阪高裁に控訴しました。

原告の産婦人科医側も、宅直勤務が時間外労働として認められなかったことを不服として控訴しました。

周産期医療や救急医療などの医療現場では、通常の業務が24時間365日切れ目なく続いていますので、少ないスタッフで業務を遂行していこうとすれば、どうしても長時間・過重労働となってしまいます。

現在稼働している産科施設のほとんどで、労働基準法違反が常態化しています。しかし、過酷な勤務を前提とした今の労働環境のままでは、誰も我々の後を継いではくれないでしょう。今後、すべての産科施設で労働基準法を厳格に遵守しなければならないということになれば、少ないギリギリのスタッフで回している産科医療の基本構造を根本から変えていく必要があります。

奈良県が判決不服で控訴 産科医の時間外手当訴訟

産科業務と労働基準法

医師の当直勤務は「時間外労働」、割増賃金支払い命じる判決

**** m3.com医療維新、2009年5月8日

原告・被告ともに控訴、奈良・時間外手当等請求裁判 時間外の勤務時間の算定方法、オンコールの扱いが争点

橋本佳子(m3.com編集長)

 奈良県立奈良病院の産婦人科医2人が、未払いだった「時間外・休日労働に対する割増賃金」(以下、時間外手当)の支給を求めた4月22日の奈良地裁の一審判決に対し、被告である県は5月1日に、原告は5月2日にそれぞれ控訴した。

 判決では、「宿日直勤務は、実際に診療に従事した時間だけではなく、待機時間を含めてすべて勤務時間」であると判断、A医師に736万8598円、B医師に802万8137円の支払うよう、奈良県に命じた。ただし、宅直(オンコール)については、「病院の指揮命令系統下に置かれているとは認められない」とされ、手当の支払い対象にはならないとされた。

 原告は割増賃金の基礎額拡大とオンコール手当を請求

 原告の控訴理由は主に二つ。(1)時間外手当の割増賃金の計算に当たって、その算定基礎額の対象をより広く取るべき、(2)オンコールに対しても、手当てを支払うべき、という点だ。(1)について、奈良地裁判決では、「給与、調整手当、初任給調整手当、月額特殊勤務手当」を算定基礎額としたが、「期末手当、勤勉手当、住居手当」も加えるべきと主張している。一審判決で請求が認められた分に加えて、産婦人科医2人分の合計で、約2700万円を請求している。

 提訴時は2004年と2005年の2年分の時間外手当の支払いを求めていたが、2004年10月25日以前の分については、消滅時効期間が経過しているとされた。この点については控訴理由としていない。

 県は「待機時間は手当支払いの対象ではない」と主張

 一方、県側が控訴したのは、以下の3つの理由で、宿日直勤務の労働時間や割増賃金の計算方法を問題視している。

 (1)勤務時間中24%の時間を通常業務に従事していたことをもって宿日直勤務時間のすべての割増手金(労働基準法第37条的係)の対象とする判決は適切でなく、実態として通常業務に従事していたか否かにより、宿日直勤務時間を切り分け、それぞれ割増賃金、宿日直手当(労働基準法第41集第3号関係)の対象とすべきである。
 (2)宿日直勤務時間中は、労働から離れることが保障されているとはいえないことをもって宿日直勤務時間のすべてを労働時間(労働基準法第32粂関係)とする判決は適切でなく、診療を行っていない待機時間は実態に即して労働時間からは外すべきである。
 (3)職員給与については、地方自治法、地方公務員法の規定により、条例で定めなければならないとあり、割増賃金の井定基礎については、条例の定めとは異なった判断である。

 奈良県福祉部健康安全局長の武末文男氏は、「今回の判決は、奈良県だけではなく、全国の病院に突きつけられたものではないか。宿日直勤務が労働基準法に抵触するかどうかという課題であり、医療法と労基法の宿日直の整合性も含め、上級審だけではなく、国の判断・教示を仰ぎたい」と語る。

 また、医師の宿日直に関しては、2002年に「通常業務の延長であれば、時間外の割増賃金の支払い対象になる」という通知が出ている(厚生労働省労働基準局長通達基発第0319007号)。この通知が今回の判決の根拠になっているが、「通知と現実とのかい離を、どう埋めるべきか、幅広い議論が必要であり、本県としても国などに働きかけていく」(武末氏)。 

 なお、二人の産婦人科医は、2006年と2007年の分についても、未払いの時間外手当の支払いを求めて、別途提訴している。本件はまだ一審判決に至っていないため、奈良地裁と大阪高裁で並行して裁判が続けられることになる。

(m3.com医療維新、2009年5月8日)

****** 毎日新聞、2009年5月8日

奈良病院宿直賃金訴訟:医師側も控訴

 奈良県立奈良病院(奈良市)の産婦人科医2人の宿日直勤務に対し、奈良県に時間外割増賃金など約1540万円の支払いを命じた先月22日の奈良地裁判決について、原告の産婦人科医側が大阪高裁に控訴した。

 控訴は2日付。原告側弁護士は、自宅待機する「宅直」が時間外労働と認められなかったためとしている。県側は既に控訴している。【高瀬浩平】

(毎日新聞、2009年5月8日)

****** 共同通信、2009年5月8日

時間外訴訟、産科医も控訴

 県立奈良病院(奈良市)の産科医2人が当直勤務の時間外割増賃金などの支払いを県に求めた訴訟で、一部勝訴した産科医側が2日付で大阪高裁に控訴したことが7日、分かった。県は1日に控訴している。

 原告の代理人弁護士によると、4月22日の奈良地裁判決では認められなかった、休日も自宅で呼び出しに備える「宅直勤務」を労働時間扱いにするよう求める。

(共同通信、2009年5月8日)


感染確認 26か国2400人超

2009年05月08日 | 新型インフルエンザ

新型インフルエンザに関する Q and A

4/29 豚インフルエンザ関連のニュース

4/30 WHO、警戒水準をフェーズ5へ引き上げ 新型(豚)インフルエンザ

5/1 横浜の高校生、新型インフルエンザには感染してなかったことが判明 (厚労省の会見)

5/2 新型インフルエンザ アジアで初の感染確認例についての報道

5/4 感染確認 20か国1000人超

5/5 感染確認 21か国1400人超

5/6 感染確認 22か国1600人超

**** NHKニュース、2009年5月8日19時46分

感染確認 26か国2490人

 新型インフルエンザは、南米のブラジルとアルゼンチンで新たに感染が確認されたほか、アメリカで感染した人が254人増え、これまでに感染が確認された人は、26の国と地域であわせて2490人に上っています。

 ブラジルのテンポラン保健相は7日に記者会見し、メキシコやアメリカから帰国したあわせて4人の感染が初めて確認されたと発表したほか、アルゼンチンでもメキシコから帰国した男性1人の感染が初めて確認されました。また、アメリカのCDC=疾病対策センターは、アメリカ国内で新たに254人の感染が確認され、これまでに感染した人は41の州であわせて896人に上っています。これで、新型インフルエンザの感染が確認された人は、26の国と地域で、あわせて2490人、死亡した人はメキシコとアメリカであわせて46人となっています。感染が確認された人を国や地域ごとにみますと、▽メキシコで1204人▽アメリカで896人▽カナダで214人▽スペインで81人▽イギリスで34人▽ドイツで11人▽フランスで10人▽イスラエルで7人▽ニュージーランドとイタリアで5人▽ブラジルで4人▽韓国で3人▽エルサルバドルとオランダで2人▽香港、オーストリア、スイス、デンマーク、アイルランド、ポルトガル、スウェーデン、ポーランド、コスタリカ、コロンビア、グアテマラ、アルゼンチンでそれぞれ1人となっています。

(NHKニュース、2009年5月8日19時46分)

**** 共同通信、2009年5月8日2時47分

米国で感染急拡大 欧州の増加が焦点

 【ジュネーブ7日共同】米疾病対策センター(CDC)は7日、米国内で新型インフルエンザに感染した人の数が41州の計896人に上ったと発表した。5日時点の403人から2倍以上に急拡大した。

 英国やフランスでは7日も感染者が増加。世界保健機関(WHO)は世界的大流行(パンデミック)の正式認定となる警戒水準(フェーズ)の「6」への引き上げの是非をめぐり、感染状況の分析を精力的に続けた。焦点は感染者が急増中の英国とスペイン。「引き上げは時間の問題」と話す関係者もおり、緊迫した状況が続いている。

 WHOでインフルエンザ対策全般を統括するフクダ事務局長補代理は7日の定例記者会見で、警戒水準を現時点では「5」に据え置く考えを示した。一方、WHO事務局内には「内部の評価としては既に『6』だ」との認識が出ているほか、引き上げの是非を事務局長に勧告する緊急委員会のメンバーに、委員会開催に備えて待機要請が出されている。

 各国の保健当局がインフルエンザ対策に忙殺される中、WHOは同日、最重要会議である総会の会期を当初予定の今月18-27日から18-22日に大幅短縮することで基本合意した。

 一部のWHO関係者によると、感染疑いの人に対する米欧間の検査基準に違いがあるほか、欧州連合(EU)内の調整が難航。パンデミック認定に予想以上の時間がかかっているもようだ。

 英国とスペインの感染確認数はそれぞれ34人と81人で、メキシコや米国、カナダに次ぐ感染数。欧州で、感染源の特定が不可能な地域社会レベルの感染拡大が確認されれば、パンデミックが認定される。

 英、スペイン両国で既に「人-人-人」の感染報告が出ているとの情報もあるが、フクダ氏は6日、一部記者団に対し、感染は学校内など閉鎖的な空間に限られており「感染源が特定できないような地域社会レベルの流行に至ったとの証拠はない」と警戒水準維持の理由を説明した。

(共同通信、2009年5月8日2時47分)

****** 産経新聞、2009年5月7日

「Xデー」は11日!? 新型インフル“日本上陸説”

GW中に海外で感染、知らぬまに…

 ゴールデンウイークで海外に出かけた人の帰国ラッシュが続くなか、日本国内での新型インフルエンザ疑い例も続出している。いまのところ感染確認者は出ておらず、オオカミ少年のような騒ぎの連続に国民の緊張感はゆるみつつあるが、そんな油断をつくのが新型インフルエンザの怖いところだ。「新型インフルはすでに上陸している」という指摘もある。連休が明け、人の流れが戻ったところで新型インフルが牙をむく可能性は高い。

 新型インフルエンザは、深刻な感染国であるメキシコと米国で死者や感染者が増え、世界全体での感染確認は7日までに死者44人を含めて2000人を超えた。米国ではテキサス州の30代の米国人女性が今週初めに死亡し、メキシコ人以外で初の死者となった。米疾病対策センター(CDC)は6日、感染者が221人増えて642人に達したと発表した。メキシコでは同日、死者が13人増えて42人になり、死者を含む感染者は1122人となった。

 スウェーデンとポーランドでも、米国から帰国したそれぞれ50代と58歳の女性の感染が6日までに確認された。東欧での感染は初。これにより感染者は24カ国・地域に拡大した。

 世界的に感染が広がるなか、日本は水際作戦が功を奏しているように見えるが、「すでに国内へ侵入している可能性がある」と専門家は指摘する。その理由は、新型インフルの威力が通常のインフルエンザ並みとみられるからだ。病原性が弱いゆえに発熱もなく、海外で感染してもほとんど症状が出ないまま帰国している人が大勢いるはず、というのだ。

【発熱など症状出ないまま】

 とくに気になるのは、日本人に人気の観光地であるハワイ・オアフ島で3人の感染者が初めて確認されたこと。米国内の感染者も41州に拡大しており、日本でいつ感染者が出てもおかしくない状況だ。

 「病原性が低いほど、ウイルスの伝播効率はむしろ高い。新型インフルエンザは誰も抗体を持っていないので、病原性そのものは強くなくても広範な健康被害が出てくることは考えられる」と、国立感染症研究所新型インフルエンザウイルスセンターの田代眞人センター長は語る。

 すでに日本国内に侵入していると仮定すると、新型インフルの“餌食”となりやすいのは、ゴールデンウイーク明けの疲労満載の人々だ。実際、今回の新型インフルでは、糖尿病などの慢性疾患を抱えた人の感染や死亡が目立つ。メタボで疲労たっぷりな人は、新型インフルの病原性が弱くても、症状は重くなりやすいので注意が必要だ。

 そうなると、ことは海外帰国者だけの問題ではなくなる。渡航歴のない人でも、疲労が蓄積した状態ならたやすく感染し、それらの人たちが会社や学校内の“感染源”となる恐れは十分ある。慣れて忘れたころに大流行-これこそが、新型インフルの恐怖であり、そのXデーは、ゴールデンウイークが明けた11日以降と予想される。

【ワクチン完成まで数カ月】

 もちろん、専門家はそうした事態も織り込み済み。現在の水際作戦は、「国内への侵入を遅らせ、ワクチン開発やタミフルの備蓄など、流行に少しでも備える」(専門家)ことを目的に展開されている。

 すでに新型インフルのウイルスは日本に到着し、ワクチン開発に着手できる段階。ただし、ワクチンができあがるまでには数カ月かかる。新型のワクチンと通常の季節性インフルエンザワクチン製造のどちらを優先するかという問題もあり、時間はまだかかる。ゴールデンウイーク明け、ついに日本でも感染が始まるのか、それともオオカミ少年のままで終わるのか…。

(産経新聞、2009年5月7日)

****** 朝日新聞、2009年5月5日

発症7日以内に治療すれば大半回復 メキシコの専門医

 【サンパウロ=平山亜理】新型の豚インフルエンザが最初に発生したメキシコで、治療の最前線にいる国立呼吸器系疾患研究所付属病院(メキシコ市)の専門医、アンハラ・イゲラ感染症部長が3日、朝日新聞の電話インタビューに答え、発症後7日以内に治療を受けた人のほとんどは回復していると明らかにした。

 イゲラ部長によると、死亡例の大半は、今回の新型インフルエンザの知識がないまま、症状が重くなるまで、ただの風邪だと思い、高額の負担につながる医療機関で受診せず、市販薬で治そうとした人たち。発症後15日間を過ぎるまで治療を受けなかった人の96%が死亡している。

 今回の新型インフルエンザでは、メキシコにほとんどの死者が集中していることが最大のなぞとされてきた。専門医によるこうした証言は、低所得者層の医療へのアクセスの悪さが、特に流行初期の段階で高い死亡率につながった可能性を裏づけるものだ。

 この病院は、転院も含めて新型インフル症例を国内最多規模で扱っている。これまでに新型インフルの疑いの濃い重症者が136人入院し、うち21人が死亡した。世界保健機関(WHO)の検査で、21人のうち5人はすでに新型インフルと確認された。

 手遅れになってから受診したことによる死亡例は、メキシコ政府もまだ事態を認識していなかった3月下旬から4月上旬までが多かった。現在はインフルエンザに関する知識が広まった結果、初期症状が出てすぐ通院する人が増えたこともあり、ここ数日は死者は出ていないという。

 入院した重症者136人でみると男性が74%、女性が26%と男性が多く、年齢は15歳以上64歳未満に集中していた。タクシー運転手や美容院従業員、医師や看護師ら、人と接する機会の多い職業の人が多い。また、公共交通機関を利用する傾向も高かった。

 潜伏期間は個人差があるが、家族間などで感染時期が特定できるケースから推定すると、感染後3~7日たって発症する。39度程度の高熱とともにせきや鼻水が出て、頭痛や筋肉痛、腹痛や下痢症状を訴える。緑か黄色のたん、場合によっては血の混ざったたんが出る。発症後72時間後ごろから、肺炎を併発して重症化、特に重い場合は多臓器不全を起こして死亡に至る例が多いという。

 イゲラ部長は、発症して7日以内の抗ウイルス剤タミフル投与などの治療は明らかに有効だとした。ただし、心臓病や糖尿病など他の病気を患っている場合はタミフルが効かない例もみられたという。

 一方、こうした情報のメキシコ政府による集約は後手に回った可能性もある。米疾病対策センター(CDC)の調査報告によると、メキシコ初の発症例は3月17日。保健省の担当部局が全国の病院に警告を出し、通常見られないような重症の肺炎例の報告を求めたのは、1カ月後の4月17日のことだった。

(朝日新聞、2009年5月5日)

****** 共同通信、2009年5月3日

長期戦、確実な情勢に アジアの拡大、特に警戒

 新型インフルエンザは、アジア初の患者が1日に香港で、2日は韓国でも確認され、日本上陸もいよいよ切迫した事態になってきた。世界的な流行規模やウイルスの病原性は今後どうなるのか。流行の拡大が収まる気配はなく、長期戦となるのはほぼ確実な情勢だが、専門家は、これから冬に向かう南半球や、既に鳥インフルエンザの人への感染があり、医療態勢も不十分なアジアの発展途上国での拡大を特に警戒している。

 ▽南半球が心配

 流行の端緒となったメキシコ、米国をはじめ、これまでに感染者が確認された国のほとんどは北半球。しかし国内の専門家は、北半球とは季節が逆で、今月以降、本格的なインフルエンザ流行期を迎えるニュージーランドなど、南半球での拡大を心配している。

 「流行期には温度や湿度をはじめ、インフルエンザウイルスが拡大しやすい環境がより整っている」(西村秀一(にしむら・ひでかず)国立病院機構仙台医療センターウイルスセンター長)とみられるためだ。国立感染症研究所感染症情報センターの谷口清州(たにぐち・きよす)室長も「ウイルスの感染力が強い場合、冬の間に患者が一気に増える恐れがある。そうなると、通常のインフルエンザと見分けるのは難しいだろう」と話し、対策が取りにくくなる事態を懸念する。

 ▽繰り返す流行

 感染者数の増加にブレーキがかかる様子は今のところ全くみられない。仮に今後、感染者数が減少に転じたとしても「終息と考えるのは早計」と専門家は口をそろえる。

 20世紀に発生した新型インフルエンザのスペイン風邪(1918年)、アジア風邪(57年)、香港風邪(68年)の世界的大流行では、いずれも最初の流行が起きた後、数カ月から1年程度の間隔を置いて「第2波」が押し寄せた。

 例えば日本でのスペイン風邪流行の場合、18年11月ごろに第1波の死者のピークがあり、20年1月ごろに第2波のピークがあったが、死亡率は第2波の方が高かったとされる。極めて変異しやすいことで知られるインフルエンザウイルスが、人への感染を繰り返すうち、病原性が強まる方向に変異した可能性も指摘されている。今回の新型インフルエンザウイルスも、現状では重症例は少ないとされるが、今後変異して病原性が強まることはないのか、予断を許さない。

 ▽途上国に打撃

 岡部信彦(おかべ・のぶひこ)・国立感染症研究所感染症情報センター長は「途上国に新型インフルエンザが入った場合、被害拡大の恐れは大きい」と話す。医療態勢が不十分なうえエイズや結核など別の感染症のまん延もあるため、深刻な健康被害が出る恐れがある。特に、鳥インフルエンザ(H5N1型)との重複流行の恐れもあるアジアの情勢は気になる。

 H5N1型による死亡者が4月までに25人に上る中国では、2003年に大流行し、国内で約350人が死亡した新型肺炎(SARS)を教訓に、新型インフルエンザを「法定伝染病」に指定、通報制度を創設するなど、政府の迅速な対応ぶりが目立つ。

 「新型を制圧する自信と能力はある」と、陳竺(ちん・じく)衛生相。だが13億の人口を抱える中国に新型インフルエンザが上陸すれば、感染者数はけた違いに増え、死者も相当な数に及ぶ可能性がある。

 世界保健機関西太平洋地域事務局(マニラ)の葛西健(かさい・けん)感染症対策官は「鳥インフルエンザ問題を抱え、新型発生を念頭に準備してきたアジア各国の対応能力はこの数年で大きく向上した。H5N1以前と現在では、相当な違いがある」と指摘するのだが。

(共同通信、2009年5月7日)