ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

新型インフルエンザ: 政府の対策をより柔軟な内容に見直すことも検討 (舛添厚労相)

2009年05月19日 | 新型インフルエンザ

コメント(私見):

関西地域で新型インフルエンザ感染が多く確認されていますが、これは迅速診断キットでA型陽性の検体に対して積極的にPCR検査を実施し始めたからです。今までは迅速診断キットでA型陽性であっても、メキシコ、アメリカ、カナダなどへの渡航歴がなければ、通常の季節性インフルエンザとして扱われてました。今回は、たまたま神戸市内の開業の先生が迅速診断キットでA型陽性となった(海外渡航歴のない患者さんの)検体をPCR検査に提出したことを契機にして、新型インフルエンザが同地域ですでに蔓延していた事実が判明しました。

迅速診断キットでA型陽性の患者さんは、日本全国いたるところに大勢いらっしゃいますから、それらの検体をかたっぱしからPCR検査に提出すれば、もしかしたら、新型インフルエンザが蔓延している地域が関西地域以外でも判明するかもしれません。今後、新型インフルエンザが全国的に蔓延するような事態となった場合には、ウイルスの毒性や患者数などを勘案して、診療体制の変更を検討せざるを得ないかもしれません。

**** NHKニュース、2009年5月18日19時21分

厚労相“政府対策 見直しも”

 舛添厚生労働大臣は18日夕方、記者会見し、新型インフルエンザについて、政府の専門家諮問委員会から季節性のものと変わらないという報告があったことを受けて、政府の対策をより柔軟な内容に見直すことも検討したいという考えを示したうえで、国民に対し冷静に対応するよう呼びかけました。

 この中で、舛添厚生労働大臣は「政府の対策本部で、専門家諮問委員会から『今回の新型インフルエンザは感染力や病原性などからみて、季節性のものと変わらない』という報告があった。ただ、免疫がないため感染が拡大しやすく、糖尿病などの慢性疾患を持っている人は症状が重くなりやすいので、油断なく対策を進めていくことが重要だ」と述べました。そのうえで、舛添大臣は「政府として1週間の臨時休校の期間に専門家諮問委員会の評価を踏まえ対策の切り替えを検討していきたい。新型インフルエンザに即した新しい対処方針を作ることも選択肢の1つだ」と述べ、政府の対策をより柔軟な内容に見直すことも検討したいという考えを示しました。さらに、舛添大臣は「人的資源を検疫態勢に集中することから国内体制にシフトすることが必要だ。今週中に具体策を決めたい」と述べ、これまで重点を置いてきた水際対策を段階的に縮小する考えを示しました。そして、舛添大臣は「国民の生命と健康を守るため、あらゆる方策を尽くす。国民の皆さんは警戒を怠ることなく、冷静に対応してほしい」と呼びかけました。

(NHKニュース、2009年5月18日19時21分)

**** NHKニュース、2009年5月19日6時34分

検疫態勢 段階的縮小を検討

 新型インフルエンザの国内での感染が相次いでいることを受けて厚生労働省は、感染者の入国を防ぐために強化していた検疫態勢を段階的に縮小し、通常の態勢に戻すことを検討しています。

 厚生労働省は、WHO=世界保健機関が警戒レベルをフェーズ4に引き上げた先月28日以降、新型インフルエンザに感染した人の入国を防ぐために通常の2倍以上の態勢で検疫を強化してきました。具体的には、メキシコ・アメリカ本土・カナダからの到着便を対象に「機内検疫」を行う成田・関西・中部の3つの空港の検疫所に防衛省や国立病院機構などからあわせておよそ200人の応援の職員を派遣してきました。しかし、兵庫県や大阪府で海外への最近の渡航歴がない人の感染が相次いだことを受けて、厚生労働省は、国内での感染拡大の防止に重点を移す必要があるとして、検疫態勢を段階的に縮小し、通常の態勢に戻すことを検討しています。厚生労働省は、今週中にも関係省庁と協議して検疫での具体的な対応を決めることにしています。

(NHKニュース、2009年5月19日6時34分)

**** NHKニュース、2009年5月19日0時25分

感染者 国内で163人確認

 国内で確認された新型インフルエンザの感染者は、兵庫県姫路市に住む高校生1人の感染が新たに確認されこれまでに163人になりました。10代の感染者が多い一方で、5歳の幼児や50代や60代の人もいて、幅広い年代に感染が広がっています。

 都道府県別に見ますと、兵庫県が93人で神戸市の県立高校の生徒やその家族をはじめ、姫路市に住む高校生1人の感染が新たに確認され、神戸市以外の高校の生徒や豊岡市の会社員などにも感染が広がっています。また、大阪府では、茨木市にある私立高校の生徒や教員、大阪市や茨木市の高校の生徒など、感染者はあわせて66人となっています。このほか今月上旬に成田空港の検疫で見つかった4人を加えると、国内で確認された新型インフルエンザの感染者はあわせて163人になりました。年代別に見ますと、高校生を中心に10代の感染者が多い一方で、5歳の幼児や50代や60代の人もいて、幅広い年代に感染が広がっています。

(NHKニュース、2009年5月19日0時25分)

**** m3.com医療維新、2009年5月18日

国は水際対策の誤りを認めるべき

-厚労省検疫官・木村盛世氏に聞く

国が取るべき対策はシンプル、

医療機関は通常対応でも問題なし

木村盛世氏 筑波大学医学群卒業。米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了(MPH[;公衆衛生学修士号)。内科医として勤務後、米国CDC多施設研究プロジェクトコーディネーター、財団法人結核予防会、厚労省大臣官房統計情報部を経て、厚労省検疫官。専門は感染症疫学。

聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)

 新型インフルエンザは、国内での2次感染例が相次いだことで、「水際対策」は奏功しなかったことが露呈した。国の対応は、「国内発生早期」に移ったが、この対策にも問題点があるという。現時点で行政および医療機関が取るべき対策について厚生労働省検疫官(東京空港検疫所支所・検疫医療専門職)で、医師の木村盛世氏に聞いた(2009年5月17日にインタビュー。

――国内で2次感染例が相次いだことをどう見ていますか。

 今回はたまたま開業医の先生が、迅速診断キットでA型陽性の患者のPCR検査を依頼して見付かったわけで、それ以外にもたくさん感染者はいると思います。実際、インフルエンザの定点観測では、今回2次感染が見られた中で、患者数がやや多かった地域もあると聞いています。こうした定点観測の動向把握に力を入れるべきだったのに、これまで国は「検疫オンリー」でやっていました。私は繰り返し言っていますが、インフルエンザの場合、水際対策は無理なのです。

 米国でも検査を始めたから、あれだけ患者数が増えているわけです。日本も同様に、検査を実施すれば、もっと新型インフルエンザの患者は見付かるでしょう。

――今までは、渡航歴がある、あるいは渡航歴のある人と濃厚接触した人などに限って、PCR検査を実施していた。それ以外のインフルエンザ様の患者でも、PCR検査を実施していれば、新型インフルエンザであった可能性があるわけですね。では現在、季節性のインフルエンザの流行もある中、今後はどんな体制にすべきなのでしょうか。国の新型インフルエンザ対策の第2段階、「国内発生早期」では、「感染の疑いのある例についてはすべて検査をする」となっています。しかし、迅速診断キットの在庫は十分とは言えません。衛生研究所も対応可能なのでしょうか。

 本来ならすべての疑い患者に検査すべきでしょうが、それは無駄ではないでしょうか。疫学的見地から言えば、本当は新しい疾患が出た場合には、サーベイランスを徹底したいところです。しかし、今の政府のパニック状態を考えるとサーベイランスだけに労力が費やされ実際の医療現場に手が回らないという状況を生むのではないでしょうか。今後はサーベイランスにお金と人をかけると、「感染者を発見したのはいいけれど、そのあとどうしたらよいか分からない」という状況にもなりかねません。

 感染症対策を考える上で基本になるのが結核対策ですが、結核の場合は発見率と治癒率を指標として見ます。両方を向上させることが一番いいのは確かですが、多くの国においては、「ヒトとカネ」がありませんから、実際には両方はできません。優先すべきは明らかで、治癒率の向上です。

 日本は結核患者も多い「感染症の発展途上国」。ですから、サーベイランスに命をかけても仕方がないと思います。物事の優先順位を決めることこそが、政策の役割でしょう。結核とインフルエンザを同じに考えることはできませんが、すべてできないのなら、何らかの対策を「捨てる勇気」が必要です。今回では、そもそも機能していないサーベイランスを徹底するのではなく医療機関対策を第一義とすべきです。

――では治療のあり方ですが、「国内発生早期」では、「発熱や咳などのインフルエンザ様症状が見られた場合には、まず発熱相談センターに相談の上、発熱外来を受診する」となっています。

 発熱外来で対応できるのでしょうか。それだけの予算が付いているわけでもありません。

 今、国がやることは、「新型インフルエンザ対策行動計画は間違っている」、少なくても今回の新型インフルエンザA(H1N1)には適用すべきではなかったと認めることではないでしょうか。また、H5N1型であっても、インフルエンザの「封じ込め」については難しいのではないでしょうか。

 咳エチケットを徹底して、発熱や咳がひどい時には学校や会社を休む、具合が悪かったら自宅で静養する、それでもどうしても具合が悪かったら、「ここの病院に行ってください」、こうしたことを国は繰り返し国民に訴えればいいだけです。今やるべき対策は非常にシンプルです。 

 また発熱外来も、3次救急、あるいは高次の医療を手がける地域の中核医療機関の場合、抗がん剤で治療中だったり、白血病など、免疫力が低下した患者さんが多いですから、こうした医療機関に設置を求めるのはやめた方がいいと思います。「発熱外来」は、地域と地元の医師会が話し合い、どこに設置すべきかを決めてほしいと思います。

――季節性インフルエンザと同じ対応では、問題があるのでしょうか。

 本来は同じで構わないと思います。ただ、社会的な問題になっている現状を踏まえると、「発熱外来」の設置は、国民の安心の意味でも必要なのだと思います。ですから、国は「何かあったら、発熱相談センター、発熱外来」へと、柔らかい口調で言えばいいだけのことだと思います。 

――発熱外来を持たない医療機関が対応しても問題はないと。

 問題はないと思います。これまで季節性のインフルエンザの診療を行ってきたわけです。しかも、今のH1N1型の場合、SARSのように重篤な肺炎を来す患者が続出するわけではありません。

 本当に、今回は弱毒型のH1N1型での模擬訓練だったと思います。検疫には意味がなかった、では国内対策として何をすればいいのか、ワクチンが完成した場合にどのように流通させ、誰に優先的に接種するのか、副反応の問題はいかに周知徹底するのか、発熱を来した場合にはどう対応すれば、いいのかなどを考えるいい機会にはなったのではないでしょうか。サーベイランスの機能も十分でないのでこれに関しても第二波までに十分議論すべき問題ですが。

(m3.com医療維新、2009年5月18日)

**** m3.com医療維新、2009年5月18日

疫学的リンクが切れたら通常の診療体制に

「地域別の対応が基本」を強調

:5月17日感染研会見

橋本佳子(m3.com編集長)

 国立感染症研究所感染症情報センター長の岡部信彦氏は、5月17日午後6時から開かれた会見(メディア情報交換会)で、5月16日に政府の新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会がまとめた「基本的対策方針」について説明した。16日に神戸・大阪で国内での2次感染が確認されたことから、国の対策が「第2段階(国内発生早期)」に移行したのを踏まえ、「ゼロには抑えることはできないが、当面として感染拡大をさらに防ぐことが必要」と強調。

 その上で、「医療機関の対応としては、軽症・重症を問わず、すべて検査を行い、感染が強く疑われた場合には措置入院とする、となっている。ただし、どんな患者を措置入院の患者の対象とするかは地域によって異なり、全国一律の実施はできない。バラバラと関係ない地域で発生している場合、隔離入院は意味がない。一方、初めてある地域で発生した場合には、軽症か重症かを問わず、隔離入院の対象になるだろう。さらに、隔離入院のためのベッド数は限られており、現実には入院できない場合もある」と述べた。

 さらに「第3段階(まん延期)」の医療体制については、「すべての医療機関が、新型インフルエンザの治療に対応することになる。ただし、多くの患者が一般の医療機関に殺到した場合、それ以外の一般の患者が感染する可能性が高まる。地域の医療システムや人口などを勘案して、例えば医師会の休日診療センターが外来患者、軽症者を扱い、病院が重症者を診るなどの体制を考えてほしい」と説明、地域の実情に応じて体制を取る必要性を強調した。つまり、第3段階では患者数などを勘案して、新型インフルエンザの患者を重点的に診る拠点は作る必要があるものの、基本的には季節性インフルエンザの診療体制を取ることになる。

 この第3段階への移行は、「疫学的リンク」が切れた場合、つまり感染源の特定が不可能になり、地域で感染が拡大した場合に行う。この移行も、全国一律ではなく、都道府県単位が基本だ。「北海道から沖縄まですべて同一に、第3段階にスイッチするわけではない。したがって、地域の方にも、その地域の情報は自治体に聞いてほしい、ということを徹底する必要がある」(岡部氏)。

 また抗インフルエンザウイルス薬については、第2段階では濃厚接触者などに対して予防的に投与するものの、第3段階では治療薬としての使用を優先するため、予防投薬は基本的には行わないとした。

 【記者団からの質問と岡部氏の回答】

◆診療体制について

質問:第3段階の医療体制は、季節性インフルエンザの場合と基本的には同じだと考えていいのか。
回答:基本的には同じ。ただ患者が多数出た場合に、患者がバラバラに各病院を受診したのでは、スタッフが外来に取られてしまい、病棟の入院患者を診ることができなくなる。だから専門外来を設けるほか、例えば休日診療所などで患者をまとめて診る体制にし、地域の医師が交代で診療することなども考えられる。しかし、これは一つのアイデアであって、地域によっては体制は異なってくるだろう。

質問:第3段階への移行は、どんなタイミングで行うのか。
回答:地域によって異なる。一つは、疫学的リンクが切れた場合。また物理的な問題があり、軽症・重症患者すべてを措置入院させた場合、地域によって対応可能なベッド数が異なる。したがって、数で第3段階に移行する基準を「措置入院患者が20人以上、あるいは100人以上になった場合」などと一律に区切ることはできず、自治体の判断になる。

質問:神戸で最初に生徒を診察した医師に、厚労省は休診するように言ったそうだが。
回答:私は聞いていない。ただ、こうした場合の考え方についてはお話できる。休診する必要は全くないと思う。SARSの時は初期の段階では、休んだ方がいいだろうとなっていた。それは病気の状況も分からず、致死率(約10%)は高いと考えられたため。しかし、今回の場合は、その時の接触の程度にもよるが、通常の季節性インフルエンザとほぼ同じなのだから、休診するメリットは少ない。
 仮に患者を診察した先生から問い合わせがあれば、「休診する必要はない。ただし、まだ感染早期の段階なので、心配であれば予防投与を」と言う可能性はある。ただ、もう少し感染が拡大した場合には、「咳や発熱のある患者を診察する場合には、マスクなどで予防をする。マスクを付け忘れ、具合が悪くなったら早めに薬の服用を」とアドバイスする(予防投与は不要)。

◆診断・治療について

質問:第2段階では「軽症・重症を問わず、すべて検査を行い感染が強く疑われた例はすべて措置入院」とあるが、「検査」を行う対象は何か。「強く疑われた場合」の意味は。
回答:幸い、わが国では迅速診断キットが流通しているので、検査をしやすい状況にある。しかし、多数の検査が必要な事態、感染が拡大した段階では、もう検査はやらなくてもよく、ある程度、症状で判断することになる。つまり、すべての人にキットで検査をやる必要はない。これは季節性インフルエンザの場合と変わらない。
 しかし、今、感染がまだ拡大していない時期であれば、症状、それから疫学的リンク。今までは海外渡航暦だったが、今は「神戸で、大阪で」というのがキーワードになる。したがって、「すべての患者に検査をし」というのが、何らかの疑いがあったらPCR検査をするということ。しかし、衛生研究所や体制のキャパシティーの問題もあるのも事実。

質問:厚労省は今は渡航歴等を前提とする「症例定義」は変えないとしている。今の時点で、神戸、大阪以外で新型インフルエンザの発生をどう捉えるかが課題。季節性と同じ扱いとして考え、クラスターを捕まえ、アウトブレークサーベイランスで捉えていく。どこかの時点で症例定義を変えることはないのか。
回答:今のサーベイランスのシステムで神戸の発生は検知できず、そこから漏れた形になる。別の枠組み、臨床医あるいは衛生研究所の判断でPCR法を行い、陽性になった。今後、ほかの地域でも、今回のようなことはあり得ること。
 では今の症例定義を変えるかということになるが、今の段階で全国一律に、「発熱、呼吸障害を伴う患者で、すべて新型インフルエンザを疑うか」となるが、そこまでは行かないだろう。対象が広がりすぎることになり、実際上こうした患者にすべて検査を行うことは無理だろう。ただ、症例定義の変更は国とのやり取りになるが、このままというわけにはいかないだろう。
 問診の実際上としては、「まん延した国だけではく、まん延した地域(神戸、大阪)」に行ったかどうかを聞き、疑うことになるだろう。

質問:第3期になると、タミフルは予防投与をやめるなど、診療体制は大きく変わることになる。
回答:これは従来から決めていたこと。新型インフルエンザが季節性に近く、抗インフルエンザウイルス薬で治ると分かった場合、治療のために確保しておくことが必要。また第2段階では、濃厚接触者が特定でき、予防投与に意味があるから行うわけであり、(第3段階で)予防投薬を行うのであれば、感染が終息するまで投与することになる。
 なお、国が備蓄している抗インフルエンザウイルス薬は、指定感染医療機関など特定の施設に配布することになる。

◆流行状況について

質問:感染者が高校生ばかりなのはなぜか。その家族は発生していないのか。
回答:家族については確認中で何とも言えない。「高校生でなぜ多いのか」だが、個々人の免疫力などの問題ではなく、社会的に活動しており、集団生活もしている。感染のチャンスの問題ではないか、と思うが、あくまで推測であり、科学的なデータはない。

質問:子供などでは、感染者に対するいじめも起きかねない。どういう段階になった患者では、ウイルスを排出しないと言えるのか。
回答:ウイルス分離が確実な方法だが、数日あるいは数週間かかる。またPCR法ではすぐに結果が分かるが、これはウイルスではなく、遺伝子を見る検査である。幸い、成田で隔離された患者はPCR法で陰性になったからいいが、PCR法で陽性であること、その患者に感染力があることとは別の問題。
 これは私の個人的な意見で全体のコンセンサスが得られているわけではないが、季節性インフルエンザでの経験から言えば、熱を中心とした症状が出て2日くらい経ってくれば、ほとんどの場合、感染力がなくなってくる。ある程度、症状が消失していれば、常識的に考えてうつらないと言える。例えば、エボラ出血熱など致死率が高い疾患では厳密に感染力の有無を見極める必要があるが、今回の新型インフルエンザのような場合は臨床症状を優先して考えていいのではないか。

(m3.com医療維新、2009年5月18日)

**** 読売新聞、2009年5月19日3時9分

機内検疫を週内にも終了

…政府、感染拡大防止に重点

 政府は新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)の国内感染の広がりを受け、これまで重視してきた水際対策から感染拡大防止に重点を移す方針だ。

 旅客便の機内検疫を週内にも終え、医療体制充実などを図ることにしている。同時に、弱毒性と見られることを踏まえ、高齢者や乳幼児、基礎疾患のある患者以外に自宅療養を認めることなどを盛り込んだ、より柔軟な対応策を新たにまとめる考えだ。

 舛添厚生労働相は18日、厚労省で緊急に記者会見し、「検疫に人的資源を集中することから、国内対策にシフトすることは必要だ」と述べた。現在はメキシコ、米本土、カナダからの旅客便で実施している機内検疫を週内にもやめる方針だ。

 厚労相はまた、「政府の専門家諮問委員会から『感染力、病原性等の性質から見て、(新型は)季節性インフルエンザと変わらないという評価が可能』と報告を受けた」と述べた。その上で、「新たなH1N1(新型インフルエンザ)を前提とした新しい対処方針に切り替えた方がいいのではないか」と語った。

 政府の行動計画は、国内発生早期の場合、感染者はすべて指定医療機関に入院すると定めている。新たな対応策には、こうしたケースでの自宅療養も認めるなど柔軟な対応を盛り込む予定で、今後1週間程度をめどにまとめる。

 政府のこうした対応は、地方自治体や企業が強く要請したためだ。政府はすでに強毒性の鳥インフルエンザを想定した行動計画を弾力的に運用し、「外出の自粛要請」「企業への業務縮小要請」などは見送っている。それでも、18日に厚労相を訪ねた大阪府の橋下徹知事が「国が方針を出してくれると自治体はやりやすい」と訴えるなど、政府により柔軟で具体的な対応を示すよう求める声が強い。

 麻生首相は18日、首相官邸で記者団に、「病気をお持ちの方は重篤化する確率は否定されていない。今の状況をきちんと見極めた上で柔軟に、適切に対応していく」と述べた。

(読売新聞、2009年5月19日3時9分)

**** 読売新聞、2009年5月19日3時8分

新型インフル国内感染者数163人に、休校4千校超す

 厚生労働省などによると、国内で確認された新型インフルエンザの感染者数は、大阪、兵庫両府県で増え続け、19日午前1時現在、成田空港の検疫で判明した4人を合わせ計163人となった。

 日本の感染者数は米国、メキシコ、カナダに次ぐ規模にふくれあがったが大半が軽症で回復に向かっている人も多いという。

 大阪府などによると、新たな感染者には、同府八尾市立南山本小の児童4人が含まれている。うち3人は、17日に感染がわかった6年女児と同じクラスで、同府が感染経路などを調べている。

 18日午前に感染が確認された神戸市の5歳男児は、兵庫県芦屋市の私立幼稚園に通っており、16日に発症。4~8日に男児の家族がグアム島旅行をし、家族が一時、体調を崩したという。

 大阪府教委は18日、感染拡大の推移を把握するため、府内の政令市を除く41市町村の全公立小・中学校と府立高校の児童・生徒、教職員の健康調査に乗り出した。中・高校の臨時休校期間が終わる24日まで毎日、各学校で発熱などの症状が出た人数を集約する。

 文部科学省によると、18日夕現在、大阪、兵庫両府県内の小中高校、幼稚園、大学などの休校は、要請中の私立を合わせ、計4043校に上った。

(読売新聞、2009年5月19日3時8分)

**** 読売新聞・社説、2009年5月19日

インフル拡大 過剰に恐れる必要はない

 新型インフルエンザの国内感染者が初めて確認されてわずか3日のうちに、大阪府と兵庫県で100人を超えた。

 先にウイルスが上陸した欧州での感染拡大を上回る勢いだ。すでに1000人規模で国内感染が広がっているのではないかと見る専門家もいる。

 世界保健機関(WHO)は日本の状況を踏まえ、国際的な警戒レベルを最高度の「フェーズ6」に引き上げる可能性がある。

 だが、あまり過剰に恐れることはやめよう。

 これほど短期間に多くの感染者を把握できたことは、日本の診断能力が高いことの反映でもある。そして、感染者の大多数は軽症にとどまっている。

 仮に、感染者の数が桁(けた)違いに増えていけば、肺炎を併発するなどして亡くなる人が出ることも、残念ながら避けられまい。

 しかし、従来の季節性インフルエンザも日本だけで毎年約1000万人が感染し、合併症などで約1万人が死亡している。これに対して、日本の社会は冷静に対処してきた。

 今のところ、「新型」の危険性は「季節性」とあまり変わらないというのが、専門家の一致した見解である。

 危険度の高いウイルスに変異する可能性に警戒を怠ってはならないが、現時点で脅威を過大視する必要はない。社会生活や経済機能への影響は、最小限にとどめるべきだろう。

 厚生労働省は、大阪府と兵庫県に中学、高校を休校とするよう要請した。感染者が高校生を中心に見つかっていることや、学校自体、感染が広がりやすい場所であることを考えれば必要な措置だ。

 ただ、休校対象に小学校や幼稚園・保育所を含めるかどうかは、自治体によって対応が分かれた。親の仕事が制約され、経済活動に影響することをどう評価するか判断が難しかったのだろう。

 どこまでの措置が妥当かについては、感染状況を見極めながら、柔軟に決めることが大切だ。

 大阪、兵庫では、感染者の急増によって医療体制がパンク寸前になっている。同様の状況が他の地域でも起こりうる。

 新型インフルエンザの感染が急拡大した地域では、全員を医療機関で治療することは難しい。軽症の人は自宅療養を原則とするというように、早い段階から治療ルールの転換を図る必要があろう。

 今後は国民一人ひとりの協力が不可欠となる。

(読売新聞・社説、2009年5月19日)