ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

奈良県の産科医療の最近の状況

2007年09月05日 | 地域周産期医療

****** 共同通信、2007年9月5日

「箱あっても医師不足」 妊婦死産で不備鮮明に 過酷勤務の現場に悲鳴

 奈良県橿原市の妊婦の搬送先が決まらずに死産してから、5日で1週間。昨年に妊婦が約20の病院に転院を断られ死亡したケースに続き、県の周産期医療体制の不備が鮮明になった。

 県は遅れている総合周産期母子医療センターの整備を急ぐが、関係者からは「箱だけつくっても現場にしわ寄せが来るだけ」との声も。産科医不足が医療現場に深刻な影を落としている。

 「産婦人科の当直医は過酷な勤務状況だった」。計3回にわたる妊婦受け入れの要請に応じなかった奈良県立医大病院は8月31日、ホームページ上でこう釈明した。

 要請のあった29日未明は、当直医が2人。破水で緊急入院した女性らの対応に追われ、2人とも一睡もせず、その後も仕事を続けたという。

 県は24時間態勢でハイリスク妊婦らに対応するセンターの整備で問題の解決を図る意向だが、本格的な運用には、あと6人の産婦人科医の確保が必要という。

 他の自治体も例外ではない。岐阜県は本年度中に総合周産期母子医療センターを立ち上げる予定。十分な当直体制には、医師が1人足りない。

 センターに指定されている大分県立病院(大分市)は、産婦人科医6人がそれぞれ月5回の当直を1人きりでこなす。急患が2人運ばれると対応が困難に。ある医師は「せっかくのネットワークも機能しない。奈良のケースは起こるべくして起こった」と憤る。

 厚生労働省の統計では、産婦人科医は1994年に約1万1400人。2004年までに約1万600人に減った。日本産科婦人科学会は「過酷な長時間勤務の解消には、今の2-3倍の数が必要なのに」と嘆く。

 うち女性は、この間に約1500人から約2300人に増えたが、自らの出産などで離職者も多い。同学会「女性医師の継続的就労支援委員会」の桑江千鶴子(くわえ・ちずこ)委員長は、産婦人科医の減少を食い止めるため「女性が現場に長くいられるよう、職場や家族が支援することも必要だ」と訴えている。

▽奈良の妊婦死産

 奈良の妊婦死産 奈良県橿原市の妊婦が8月29日午前2時45分ごろ、買い物中に腹痛を訴えて知人が119番。救急車が出動したが、県立医大病院など奈良県や大阪府の9施設が受け入れなかった。搬送中の午前5時ごろに車内で破水。救急車は大阪府高槻市で事故に遭った。その後も最終的に受け入れた高槻病院を含め3施設が対応せず、病院到着まで約3時間かかり、胎児の死亡が確認された。

(共同通信、2007年9月5日)

****** 産経新聞、2007年8月31日

妊婦たらい回し死産 悲劇生む産科医不足

 体調不良を訴えた奈良県橿原市の妊婦(38)の受け入れ先が見つからず死産となった問題は、救急隊が12の病院に延べ16回の要請を余儀なくされるなど、産科医不足という産科医療体制のもろさを改めて浮き彫りにした。少子化問題が国の将来を脅かす一方、産科医の確保には難題も多く「安心して産める体制」をどう築くかが改めて問われている。

 奈良県では昨年8月にも、分娩(ぶんべん)中に意識不明となった女性が19病院から転院を断られて死亡しており、“2度目の失態”となった。

 今回は11病院が受け入れを断り、最終的な搬送先となった高槻病院(大阪府)も1度は固辞した。「ほかに分娩が連続していた」「とても責任を持てる状況ではなかった」などが理由だった。

 奈良県立医大付属病院(橿原市)は3度の要請を断った。当直医2人が当時、他の患者の対応に追われていたからだ。県の担当者は「産科医が多ければ事態を防げたかもしれない」。

 奈良県の産科医療のセーフティーネットは、とりわけ低い。厚生労働省はハイリスクの重症妊婦を受け入れる「母体・胎児集中治療管理室」を今年度中に整備するよう都道府県に指示しているが、奈良を含む6県は未整備。奈良では来年1月の開設が間に合わず5月にずれ込む見通しだ。

 さらに、同県中南部では今年4月以降、休診などが相次ぎ、大規模病院の産科がゼロの状態。同県では昨年4月現在、産科医が75人しかおらず、県医務課は「人口に比べて、あまりの少なさにショックを受けた」。

 産科医不足は奈良に限ったことではない。厚労省の統計によると、医療施設に従事する産婦人科医は、複数の診療科を受け持つ医師を含めても16年末現在、1万555人で、医師全体の4・1%に過ぎない。「深夜呼び出しがあり、医療訴訟も多い産科は、荷重な労働やストレスが多く嫌われる」という。

 与謝野馨官房長官はこの日の会見で「日本の医療制度として欠けているところがある」、舛添要一厚労相も「省を挙げて全力で取り組むべき課題」と述べた。しかし、産科医不足の背景には産科が敬遠されるという根本的で深刻な問題もあり、万全の体制を築くまでの道のりは険しそうだ。

(産経新聞、2007年8月31日)


産科医不足 役割分担を急がねば

2007年09月05日 | 飯田下伊那地域の産科問題

最近は、産科病棟閉鎖のニュースがよく報道され、非常に大きな問題となっていますが、今はまだまだほんの事の始まりでしかないと多くの人が考えています。

残り少なくなってきた産婦人科医が、援軍もなく、補給路も絶たれ、少人数づつに分散したままで、各自の持ち場を死守している現在の状況が続けば、どの病院の産科も人手不足で継続困難となっていき、力尽きた病院から順番に産科閉鎖に追い込まれていって、結局は県内総崩れとなってしまうのかもしれません。

一面焼け野原になってしまって、ゼロから再出発して復興への道を模索するのも大変なことです。

県内総崩れへの道を、このまま、まっしぐらに突き進んでしまっても本当にいいのでしょうか?

****** 信濃毎日新聞、2007年9月3日

産科医不足 役割分担を急がねば

(略)

 全国的に産科医不足は深刻で、大学の医局に派遣を求めても、募集をしても医師はなかなか集まらない。国は医学部定員を増員する方針を打ち出したが、効果が見えるのは随分先の話になる。

 これ以上産科を減らさないためには、医師の負担を軽減するよう、役割分担を急がねばならない。

 一つは医療機関の連携だ。飯田・下伊那地区ではお産を主に飯田市立病院で、妊婦健診を他の病院や診療所で分担するシステムを行っている。妊婦にとって複数の病院にかかる負担はあるが、やむを得ない措置だ。地域の実情に合わせて、医療機関のネットワークを整えたい。

 二つ目は助産師がお産にかかわる場を広げることだ。正常産は助産師だけでも対応できる。医師に代わって妊娠の経過を診る助産師外来も広がってきた。

 県は助産師支援検討会を開き、本年度中に助産師対象の研修会を開く予定だ。超音波診断など助産技術の向上を図り、いずれは県内の病院でも助産師の介助で出産できる院内助産所を開設できるようにしたい。数は少ないが、開業助産所と医療機関の連携も大事になる。

 産科医は女性の割合が高くなっている。妊娠、出産をはさんでも働き続けられるよう、時短勤務やワークシェアといった工夫も必要だ。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2007年9月3日)