ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

愛知・知多市民病院が産科診療休診へ 来年4月から、常勤医実質ゼロに (中日新聞)

2007年09月11日 | 地域周産期医療

****** 中日新聞、2007年9月11日

愛知・知多市民病院が産科診療休診へ 来年4月から、常勤医実質ゼロに

 愛知県知多市民病院(13科、300床)が産婦人科の医師不足を理由に10月から妊婦の受け入れを制限し、来年4月から当面、産科診療を休診することが分かった。名古屋大が派遣医師の引き揚げを決めるなど、常勤医が実質的にゼロになる公算が大きくなったため。各地で相次ぐ医師不足は、地域の公立病院で出産ができなくなる異常事態に発展している。

 常勤医は現在3人。いずれも名大が派遣しているが、このうち2人を来年4月に引き揚げる方針が示されたという。残る1人も9月18日に自身の産休に入り、育休を取る可能性が高いという。

 同病院は「産科が継続できず残念だ。常勤医の確保に向けて名大の医局と交渉を続けたい」としているが既に3度ほど引き揚げの方針変更を求めて断られた経緯があり、見通しは厳しい。非常勤の医師のみの態勢で婦人科診療は継続する方針。

 同市の出生届は2006年度で828人。これに対し、同病院の分娩(ぶんべん)数は06年度が166件。07年度は7月末までに68件と例年より多いペースで推移。産婦人科の外来スペースを7月末に約1・3倍に拡張したばかりだった。

◆愛知では04年度以降10カ所目 産科医不足背景に過酷勤務

 中部6県(愛知、岐阜、三重、滋賀、福井、長野)では、出産の取り扱いを休止する病院施設が、最近6年間で少なくとも63施設(予定を含む)に上ることが、中日新聞の調べで分かった。

 山間地を抱える長野で21施設、岐阜で19施設と多いが、愛知県でも2004年度以降、知多市民病院で10カ所目を数える。このうち公立病院は、稲沢市民病院、尾陽病院、新城市民病院に続き4カ所目。

 今回、知多市民病院から産科医を引き揚げる名大医学部の吉川史隆教授は「他の重要度の高い病院で産科医が足りなくなり、異動させざるを得なくなった。知多半島には小規模病院が乱立しており、統廃合の必要もあった」と説明。04年度から始まった新臨床研修制度の影響にも触れ、「一部の人気病院に研修医が集まってしまい、産科医の絶対数も減り、産科医を補充できない病院が増えた」と明かした。

 背景は産科医不足。愛知県産婦人科医会の成田収会長は「産科医のなり手がいなくなったのは、医療訴訟と過重勤務の影響」と指摘。訴訟リスクを避けようと、中小病院がわずかな危険性しかない出産でも中核病院へ回すケースが増え、特定の病院の勤務環境が一層過酷になったという。

 愛知県は、出産後の後遺症などを国が補償する無過失補償制度の創設を、国に要望。同県医師会はドクターバンク制度を設け、医師の求人や求職の情報を集約しているが、産科医不足の解消には至っていない。

(中日新聞、2007年9月11日)

****** 毎日新聞、2007年9月11日

医療クライシス:がけっぷちの産科救急/5 

増員予算、改善に不可欠

 ◇医師数抑制策、変えぬ国

 奈良県五條市の高崎実香さん(当時32歳)が、19病院に受け入れを断られた末に死亡してから1年。先月には同県橿原市の女性(38)が9病院に断られ、搬送中に死産した。搬送先探しに苦労する例は各地で起きているが、何が原因なのか。

 厚生労働省の研究班が全国の新生児医療施設を対象に行った調査では、「長期入院児の存在が、新生児集中治療室(NICU)の新規入院受け入れに影響している」と考える施設が70%に上った。症状安定後に受け入れる後方支援施設が不足し、NICUに長期入院せざるを得ない子どもが少なくないためだ。研究班の梶原真人・愛媛県立中央病院総合周産期母子医療センター長は「後方支援施設の充実が急務だ」と指摘する。

 代表的な後方支援施設である重症心身障害児施設は04年10月現在、全国に182施設ある。しかし、「旭川荘」(岡山市)の末光茂理事長は「重心施設は重症児患者の診療報酬がNICUの約3分の1。受け入れれば受け入れるほど運営が厳しくなる。せめて2分の1までの引き上げを厚労省に要求しているが、実現しない」と訴える。医療スタッフ集めにも苦労が絶えないという。

   ■   ■

 76年に日本初の五つ子が誕生した鹿児島市立病院。新生児センターは80床あり、うち36床がNICUで国内最多だ。同病院周産期医療センターの茨聡(いばらさとし)部長は「搬送受け入れを断ることはほとんどない」と話す。しかし、紆余(うよ)曲折もあった。

 新生児センターは78年に40床でスタートした。81年には60床になったが、高齢出産や不妊治療などの影響で未熟児が増加し、慢性的なベッド不足に。スタッフは満足に休みも取れなくなった。

 そんな中、地元の産婦人科開業医らが署名活動を展開。約12万人分の署名を添え、97年に市議会や県議会へ要望した結果、必要な予算が可決された。20床増床され、医師は5-6人から14-15人に、看護師も50-60人から120人に増えた。全国最低レベルだった早期新生児死亡率が、02年には出生1000人に対し0・6人という最高レベルになった。

 茨部長は「周産期医療の充実は、新生児の命を救うだけでなく、将来を担う人材を育てることになる。行政は必要な予算を投じることを真剣に考えるべきだ」と話す。

   ■   ■

 橿原市の女性が死産したケースで、救急隊からの2度の受け入れ要請に対応できなかった奈良県立医大病院産婦人科。同病院によると、産婦人科には当時、2人の医師が当直していたが、1回目の依頼は、陣痛で緊急入院した患者の診療中だった。緊急帝王切開手術を終えたばかりの患者の対応にも追われていた。その後、破水のため患者が緊急入院し、分娩(ぶんべん)後に大量出血した患者の搬送依頼も受けている時に、2回目の依頼が来た。2人は一睡もせず対応を続け、そのまま日中の通常業務に入ったという。

 毎日新聞の全国調査で、各地の周産期母子医療センターが求める対策で最も多かったのは「医師増員」だった。日本の人口10万人当たりの医師数は経済協力開発機構(OECD)加盟国中最低レベル。しかし、国は医師数抑制策は変えず、現場の悲鳴に応える様子はない。

(毎日新聞、2007年9月11日)

****** 共同通信、2007年9月5日

「箱あっても医師不足」 妊婦死産で不備鮮明に 過酷勤務の現場に悲鳴

 奈良県橿原市の妊婦の搬送先が決まらずに死産してから、5日で1週間。昨年に妊婦が約20の病院に転院を断られ死亡したケースに続き、県の周産期医療体制の不備が鮮明になった。

 県は遅れている総合周産期母子医療センターの整備を急ぐが、関係者からは「箱だけつくっても現場にしわ寄せが来るだけ」との声も。産科医不足が医療現場に深刻な影を落としている。

 「産婦人科の当直医は過酷な勤務状況だった」。計3回にわたる妊婦受け入れの要請に応じなかった奈良県立医大病院は8月31日、ホームページ上でこう釈明した。

 要請のあった29日未明は、当直医が2人。破水で緊急入院した女性らの対応に追われ、2人とも一睡もせず、その後も仕事を続けたという。

 県は24時間態勢でハイリスク妊婦らに対応するセンターの整備で問題の解決を図る意向だが、本格的な運用には、あと6人の産婦人科医の確保が必要という。

 他の自治体も例外ではない。岐阜県は本年度中に総合周産期母子医療センターを立ち上げる予定。十分な当直体制には、医師が1人足りない。

 センターに指定されている大分県立病院(大分市)は、産婦人科医6人がそれぞれ月5回の当直を1人きりでこなす。急患が2人運ばれると対応が困難に。ある医師は「せっかくのネットワークも機能しない。奈良のケースは起こるべくして起こった」と憤る。

 厚生労働省の統計では、産婦人科医は1994年に約1万1400人。2004年までに約1万600人に減った。日本産科婦人科学会は「過酷な長時間勤務の解消には、今の2-3倍の数が必要なのに」と嘆く。

 うち女性は、この間に約1500人から約2300人に増えたが、自らの出産などで離職者も多い。同学会「女性医師の継続的就労支援委員会」の桑江千鶴子(くわえ・ちずこ)委員長は、産婦人科医の減少を食い止めるため「女性が現場に長くいられるよう、職場や家族が支援することも必要だ」と訴えている。

▽奈良の妊婦死産

 奈良の妊婦死産 奈良県橿原市の妊婦が8月29日午前2時45分ごろ、買い物中に腹痛を訴えて知人が119番。救急車が出動したが、県立医大病院など奈良県や大阪府の9施設が受け入れなかった。搬送中の午前5時ごろに車内で破水。救急車は大阪府高槻市で事故に遭った。その後も最終的に受け入れた高槻病院を含め3施設が対応せず、病院到着まで約3時間かかり、胎児の死亡が確認された。

(共同通信、2007年9月5日)

****** 信濃毎日新聞、2007年9月6日

須坂病院のお産継続求め「望む会」 母親らが設立

 県立須坂病院(須坂市)が産科医不足で来年4月からお産の受け入れを休止する方針を示したのを受け、須高地区の母親らが5日、「地域で安心して子供を産み育てることができることを望む会」を設立した。「遠くの病院へ行くのは肉体的、精神的に大変な負担」といった訴えが相次ぎ、受け入れ継続を求める署名集めや勉強会開催に取り組むことを確認した。

 須坂市の旧上高井郡役所で開いた設立総会には子育てサークル代表や助産師、住民ら約70人が出席し、意見交換した。

 未熟児を出産した経験がある須坂市内の女性は「異常分娩(ぶんべん)で出産せざるを得ない場合もある。地元の総合病院に産科があることが大切だ」と強調。妊娠中毒症の経験があるという別の女性は「救える命を救うために須坂病院に産科は必要だ」と訴えた。

 望む会の代表委員で妊娠9カ月の主婦、長井千恵美さん(36)=上高井郡小布施町東町=は「受け入れ休止で、子どもがほしいと思っている夫婦の考えにも影響が出る。少子化対策や子育て支援には、安心して産める環境が必要だという声を上げたい」と話していた。

 同病院では、産婦人科常勤医2人のうち1人が交通事故で右肩を痛め、出産に対応できない状況。残る1人の負担が重く、新たな医師を確保できるめどが立たないため、8月27日にお産の受け入れ休止を発表した。

(信濃毎日新聞、2007年9月6日)

****** 長野日報、2007年9月6日

昭和伊南総合病院の産科休止問題 駒ケ根で勉強会

 駒ケ根市の昭和伊南総合病院が来年4月から産科の休止を余儀なくされている問題で5日、市子育てサークル連絡会が同市駅前ビルアルパで勉強会を聞いた。会員や市民ら約150人が出席。同病院の千葉茂俊院長と、上伊那助産師会副地区長の武村博美さんから病院の状況や今後の対応、助産事業などについて聞き、市民としてできることについて考えた。

 8月初旬に開いた連絡会で、関係者を招いて勉強会を行うことや、市議会に同病院の産科医師確保などを求める要望を行うことを決め、これを受けて開いた。市議会への請願は4日に採択されている。

 千葉院長は産科の医師が全国的に不足している背景について国や県の方針、医者側の事情なども踏まえて説明。出産難民が出現するのは避けられない―とした上で、「来年4月以降、昭和伊南に助産師外来を設けたい」と述べた。また産科の休止は永久的なものではなく、休止の間は伊那中央、飯田市立と一部カルテの共有なども行いながら対応したい―とした。

 武村さんは、伊那中央で長年助産師をした経験を基に語った。この中で、上伊那地方には50人余の助産師がいること、3カ所の助産所で年40例(上伊那全体では年1600例余)の出産が行われているとし、「1人の助産師が見られるのは月3―4人。母子センターなども必要かもしれない」と提案した。

 出席者からは、「3人の子どもをみな助産院で産んだ。自然分娩(ぶんべん)できる人は積極的に利用し、産科医の負担を減らす協力を」との声があった。伊那中央と昭和伊南の連携について「昭和から引き揚げる2人のうち1人は伊那中央に配置し、連携強化を」との意見に千葉院長は、「要望はしていくが、伊那中央へ1人増員され5人になると決まったわけではない」と説明。伊那中央もぎりぎりの産科診療を行っている―とした。

 会場には、娘の里帰り出産を心配して訪れたとみられる年配の女性たちの姿も目立った。同連絡会のメンバーで、ファミリーサポートぐりとぐら代表の須田秀枝さんは、「誰かやどこかを責めるのではなく、私たちにできることに前向きに取り組まなければ」と話していた。

(長野日報、2007年9月6日)