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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇シャイー/ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団のバッハ:マタイ受難曲

2010-08-24 09:24:55 | 宗教曲

バッハ:マタイ受難曲

指揮:リッカルド・シャイー

管弦楽:ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団

独唱:テノール ヨハネス・チャム
    バス ハンノ・ミュラー=ブラッハマン
    ソプラノ クリスティーナ・ランズハマー
    アルト マリー=クロード・シャピュイ
    テノール マクシミリアン・シュミット
    バス トーマス・クヴァストフ
    バス クラウス・ヘーガー

合唱:ライプツィヒ聖トーマス教会聖歌隊(合唱指揮:ゲオルグ・クリストフ・ビラー)
    テルツ少年合唱団(合唱指揮:ゲルハルト・シュミット=ガーデン)

CD:DECCA UCCD-1260/1

 バッハは、1724年にヨハネ受難曲を作曲したのに続き、1727年のマタイ受難曲を完成させている。その後ヨハネ受難曲は3回改定され、現在演奏されるのは1749年に改定されたもの。一方、マタイ受難曲は、1736年に改定され、現在ではこの版が演奏されている。マタイ受難曲は、新約聖書「マタイによる福音書」の26-27章のキリストの受難を題材にした受難曲で、バッハの死後、長く忘れられていたが、1829年にメンデルスゾーンによって復活演奏され、その真価が広く知られることとなった。一方、ヨハネ受難曲は、新約聖書「ヨハネによる福音書」の18-19章のイエスの受難を題材にした受難曲。

 受難曲とは、新約聖書のマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4つの福音書に基づくイエス・キリストの受難を描いた音楽作品を言う。バッハが作曲したヨハネ受難曲とマタイ受難曲の2つの受難曲については、一般に、マタイ受難曲の方が完成度が高く、西洋音楽の最高峰に位置する曲とする評価が定着しており、ヨハネ受難曲については、劇的要素に優れているといった見方がなされているようだ。このCDの解説書で礒山 雅氏は、他の福音書に比較したマタイ福音書の特色について「①受難を旧約聖書における預言の成就とする②イエスを人間的姿で描く③イエスの死後起こった天変地異を劇的な筆致で強調し、そこにクライマックスを置く」と書いているが、このCDを聴くと正にこのことが実感できる。

 このCDは、2009年4月2-3日にライプツィヒ、ゲバントハウスで行われた演奏会のライブ録音盤である。このような種類の長時間の演奏を聴くにはCDは、もって付けのメディアであることを実感できる。ドイツ語で歌われる、バスによるイエスをはじめ、福音書記者、司祭長、ユダ、ペトロ、ピトラなどの言葉、そしてコラール(賛美歌)などを、解説書に付けられた日本語訳を眺めながら聴いていると、その内容がよく把握できるからだ。最近ではオペラの公演は、舞台の前に日本語表示されるので、劇の進展がよく把握できるのと同じことだ。もし、日本語訳なしの実演を聴かされたら、私みたいな不信心ものには、到底理解不能となることは明らかだ。日本語訳を眺めながら聴くと、礒山 雅氏が言うように、マタイ福音書が、イエスを人間的姿で描いていることと、イエスの死後起こった天変地異を劇的な筆致で強調し、そこにクライマックスを置いている―ということが実感きるのである。

 このCDのリッカルド・シャイー指揮およびライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団のコンビの演奏は、スピーディーで実に躍動感のある劇的な表現をしており、現代人である我々の感覚にピタリと合うことがなんとも素晴らしい。独唱、合唱陣もシャイー/ゲバントハウスに完全に一体化し名唱を聴かせる。このバッハのマタイ受難曲の録音は、西洋音楽屈指の名曲だけあって、昔からの名盤にはこと欠かない。しかし、演奏に長時間を要する曲だけに、リスナーを如何に曲にのめり込ませるかは、無視できない要素となってくる。この点、このシャイー盤は、イエスが十字架を背負いながらゴルゴタの丘を上らされる前後の風景描写など、キリスト教徒でなくても、手に汗握るような緊迫感を受ける。私はマタイ受難曲の名盤がまた1枚(CD2枚組だが)生まれたなと思つている。1953年ミラノ生まれのイタリアの指揮者のリッカルド・シャイーは、2005年ー2008年ライプツィヒ歌劇場音楽総監督を務めた後、2005年からライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団の楽長を務めている。今後、大指揮者へと上り詰めることが期待できる指揮者の一人だ。(蔵 志津久)


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