シューベルト:交響曲第8番「未完成」/第5番
指揮:ゲオルグ・ショルティ
管弦楽:ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
CD:英DECCA 430 439-2
このCDに収められた、ゲオルグ・ショルティが指揮したウィーンフィルによるシューベルトの2つの交響曲は、すべての人に薦められる普遍性を持った実に堂々とした演奏となっている。これまでどのくらいの名指揮者がこれらの2曲、中でもクラシック音楽の代名詞ともなっている「未完成」を演奏し、録音してきたかは数知れない。そんな中で私は、ショルティとウィーンフィルによるこのCDの演奏が一歩抜きん出ている存在であると確信している。
オーケストラを指揮するということは、指揮者が楽譜から読み取った音楽をオーケストラにトランスファーし、それを楽団員が表現するわけであるが、指揮者の持つオーラが強すぎると主観的演奏になってしまうし、逆に抑えすぎると客観的演奏に終わってしまう。異論もあろうが、フルトベングラーなどは前者の典型的なものだし、後者は例えばカラヤンが挙げられるのではないか。長年にわたって指揮界はこの二つの間を行きつ戻りつしていたような感じがする。
これに対してショルティの指揮するこのCDに収められた2曲は、雄大なスケールをベースとして歌うべきところは歌い、抑えるべきとこは抑える。実に中庸を射た演奏ではあるが、それでいて聴いていて飽きさせない何物かが秘められている。つまり、ショルティは主観と客観を足して2で割っているのではなく、一歩前に進んだところに焦点を合わせた、実に次元の高いところで勝負をしていると感じさせる演奏をする大指揮者であったと思う。
ハンガリーのブタペストに生まれたユダヤ系指揮者・ゲオルグ・ショルティ(1912年10月ー1997年9月)はバイエルン国立劇場音楽監督、フランクフルト市立歌劇場音楽監督、コヴェントガーデン王立歌劇場音楽監督などを経て、1969年シカゴ交響楽団音楽監督に就任、以後同楽団の建て直しを見事果たし、桂冠指揮者となる。1972年には英国市民権を得て、ナイトの称号を授与されている。ショルティはその経歴の割には、指揮者界での地位はそう高くないように感じられる。特に日本においてはそうであった。この理由は、クラシック音楽の愛好者には主観的演奏(ノスタルジー)を好む傾向があるためである、と私は今思っている。ショルティは時代を先取りしていた。これからショルティの演奏がさらに輝きを増す時代が必ず来ると確信している。(蔵 志津久)