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脳内にあった「腹時計」=JST柳沢プロジェクト

2006年08月01日 | 脳、神経
 JST(独立行政法人 科学技術振興機構=理事長 沖村憲樹)の研究チームは、動物を1日のうち一定の時刻でのみ摂食が可能な環境(時間制限給餌)におくと、これまで特定されていなかった脳内の部位で時計遺伝子が新たに概日周期注1を刻み始め、生存に必須な食行動を食餌の得られる時刻に合わせるように制御すること(食餌同期性)を明らかにしました。
 全ての哺乳動物は、様々な行動パターンを24時間周期で制御する体内時計(サーカディアン・ペースメーカー)注2を持っています。例えばマウスなど夜行性の動物の場合、いつでも餌がある状態では、視神経に直結した脳内の分子時計(「光同期性クロック」)によって、夜は行動・摂食し、昼は眠るように支配されています。しかし、餌が昼間の一定の時間帯でのみ得られる環境に置かれると、マウスはこのクロックを無視して、行動パターンを昼夜逆転させ、餌のある昼間に行動し摂食するように順応することが知られています。ところが、この「食餌同期性」の概日行動パターンを支配しているはずの体内時計がいったいどこにあるのかは、これまで全く不明でした。
 今回研究チームは、通常飼育環境下のマウス(自由給餌)と昼間の一定の時間帯でのみ摂食できる環境に置かれたマウス(昼間制限給餌)からそれぞれ脳を取り出して、時計遺伝子注3の24時間発現パターンをあらゆる脳部位でくまなく比較しました。その結果、脳内の視床下部背内側核と呼ばれる場所において、昼間制限給餌下でのみ時計遺伝子(「分子腹時計」)が24時間周期でスイッチオン・オフし始めることを見出しました。
 近年、ヒトにおいては、睡眠時間や食事の時刻などのライフスタイルと、肥満やメタボリック・シンドローム注4の発症との間に密接な関係があることが注目されています。今回、分子腹時計が脳内のどこに局在するのかが突き止められたことにより、この腹時計がいかにして食餌によって制御され、またいかにして食欲・食行動を支配しているのかを解明してゆくための、最初の突破口が開かれました。将来、ここから肥満や生活習慣病を予防する新たな手段が発見されることが期待されます。
 本研究成果は、JST創造科学技術推進事業(ERATO)柳沢オーファン受容体プロジェクト(総括責任者:柳沢正史 テキサス大学教授)が、東京医科歯科大学難治疾患研究所(三枝理博助手)、ハワード・ヒューズ医科学研究所、およびテキサス大学との共同研究で得たもので、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に2006年7月31日(米国東部時間)付けで公開されます。

[2006年08月01日/科学技術振興機構プレスリリースNo.318]
http://www.jst.go.jp/pr/info/info318/index.html