昨年のチャイコフスキー国際コンクール優勝者によるガラコンサートを聴きに行った。
昨年webで実況中継されたコンクールで、チェロ部門で、ナレク・アフナジャリャンが、
「ロココ変奏曲」で圧巻の演奏で優勝したのは知っていた。
その彼がドボルザークのチェロ協奏曲を演奏してくれるだけでなく、バイオリン、ピアノの優勝者たちが
モスクワ交響楽団とともにそれぞれ協奏曲を演奏してくれるというのでチケットを手に入れておいたのだ。
すでに巨匠といわれる音楽家に比べ、このコンサートは相対的にチケットが安かった。
サントリーホールの舞台後方席は、その中でもお買い得な値段になていた。
チェロを聞くには一番前がいいけど、舞台に近い席はすでに売り切れていたこともあり、
ピアノを聴く(見る)には、オーケストラを取り囲む舞台後ろ側の席が楽しそうだ。
今まで大ホールの後ろ席に座ったことがないし、オケを観察したり、指揮者と演奏者の
コンビネーションを見るのは、後ろの席が面白そうなのでここに決めた。
「のだめカンタービレ」では”彼女席”だったっけ。
さて後ろから見たサントリーホールはというと、まるでオペラのオーケストラピットを覗き込んでいる感じだ。
<休憩時間に後ろから舞台を見る>
カラヤンがサントリーホールの設計をしたとき、ベルリンフィルのホールと同じヴィンヤード型にした。
カラヤンにとっては聴衆と一緒に演奏できる最高の形式だというようなことを語っていた。
確かにこの形式のホールは、いつも映像で見ていると、聴衆と一体となってコンサートが
行われている雰囲気が伝わってきて、大変楽しげに見える。
演奏が始まると、この席のメリットとデメリットがすぐに分かった。
<メリットといえば>
1)何しろ指揮者の真正面ということ。彼がどんな呼吸でオケを動かしているかよく分かる。
とりわけ、ソリストの演奏とオケをどのように調和させてゆくのかが手に取るように分かる。
ソリストの演奏を指揮者が代表して聞き取り、演奏にあわせて指揮棒を振り、オケと同期させてゆく。
最後に演奏したピアニスト・トリフォノフの時には、ピアノに左手を添えて聴きながら、半身で指揮していた。
2)オケの後ろの方が良く見える。特に木管金管の演奏者がよく見え、チェロもやや後ろ向きなのでよく見える。
クラリネット奏者たちが玉手箱のような楽器ケースから、マウスピースなどを取り替えたり、いろいろ細かく
動いているのが分かった。
3)ピアノの演奏が良く見える。前方の客席から見えるのは、真っ黒くででかいピアノそのものだけど、
後ろ上方から見ると ピアニストの手の動きがつぶさに観察できる。とくに今回はピアノが良く見えるよう
P席の舞台に向かって左側を購入したので、ダニール・トリフォノフの白い指が鍵盤の上を言葉ではいえないような
速さと柔らかさで動き回るのが良く見える特等席だった。
<デメリットといえば>
1)指揮者(今回はアンドレイ・ヤコヴレフ)のうなり声が聞こえすぎる。指揮者で声を出す人は他にもいるのだが
真後ろ(指揮者真正面)には、楽器一台分ほどの声として聞こえてくるのには驚いた。
最初のモーツアルトのバイオリン協奏曲第3番でそんなに力まなくてもいいのにと思った
2)チェロ協奏曲を聴くには最悪。背中しか見えないのは想定内だったが、チェロの音が客席からの反響としてしか
聞こえないのだ。バイオリンは後ろでもOK、ピアノにはむしろ好都合。しかしチェロを聴くときは後ろの席はやめたほうがいい。
それでもナレク・アアフナジャリンのチェロは素晴らしく甘く響いてきた。高音の伸びというか豊かに美しく
響く彼の音色は、是非とも前の席で聴きたいと思った。
3)オケの音響バランスは、前方と全く違う。例えばホルンの朝顔は後ろを向いており、大きく響く。ティンパニーも近い。
それに比べて、弦楽器全体が遠くなり、もともとオケ全体が前方に向かって出来ているのだから、悪く言えば
「薄い壁を隔てて音楽を聴いている」という風情になる。
メリットもデメリットもある後方席だけど、それでもサントリーホールのオーケストラ席をこれほど近く、真下にみながら、
生の演奏を見ること、聴くことができるだけでもすごく楽しい。
無論彼ら3人の優勝者の演奏はどれも素晴らしく、それぞれが、超絶技巧を凝らしながら
素晴らしいアンコール曲で応えてくれたのも大変嬉しい演奏会だった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます