MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイらル・フォー-4

2017-03-12 | オリジナル小説

小児愛者の夢

 

 

 

『私は子供の泣く声が大好きなんですよ。』

誰かが夢の中で囁く。それは俺の声だ。俺の声?本当に?

泣き声はやがて途絶える。『ああ、つまらない・・』

わかった、わかったと俺は答えている。

俺はいつも夢に支配されている・・・

 

 

 

 

あの子が女の子でないだなんて信じられなかった。

俺は男のガキになんか、興味はない。俺は、俺は女の子が好きなんだ。それも幼い。

大学に入ってから完全に自覚した。俺は同世代の女に興味ない。というか、怖い。うるさい、匂いがきつい、可愛く感じない。それに比べると小さい女の子のあのあどけない丸みはどうだ。髪の艶やかさ頰の柔らさ、その肌は良い匂いがするだろうといつしか夢想した。・・・そして、その通りだった。そのことを俺はもう知っている。

それなのに、なのにあの子は男だというのだ。

 

俺はそれ以来、ずっと混乱している。

そんなはずはないんだ。信じられない、こんなことは初めてだった。

俺の勘が、俺の嗜好がまちがうはずはないんだ。

なのに。

この春から毎朝、見かけるあの子だ。

一目見た瞬間、ドキリとした。惹きつけられたなんてもんじゃない。心臓を鷲掴みにされるとはこのことだ。

それからはもう片時も目が離せなくなった。いやだ、離したくない。

なんて愛らしい、美しい少女だと思った。

俺の夢の子供がここにいる。

そう思った。

だから、迷わず後をつけた。

そんなことをすれば仕事に遅れるのはわかっていたが、俺の足は止まらなかった。

止められなかった。

つけ始めて随分経って、ようやく俺は違和感を覚え始めた。

その子の髪が女の子にしてはかなり短いこと、半ズボンを履いていること、ランドセルが青であることに気がついた。

だけどそれでも、俺はその子が女の子であることを少しも疑わなかった。

友達から『とよ』その子はそう呼ばれていた。男とも女ともつかない名前だ。

俺はちっとも疑わなく、距離を詰める。もう一度、正面から顔を見るためだ。

そうすると更に色々な細かいことが目に入ってくる。

その子の周りの友達は男の子ばかり。

その子達はみんな同じ制服を着ていた。同じ青いランドセルをしていた。

(それは近所の私立大学の付属小学校のものだった!)

そして。明らかに少し離れて群れて歩いている女の子達は同色のスカートを履き、デザインが同じ、ピンクのランドセルをしていた!

刻印されたエンブレムはあの子の青いランドセルのそれと寸刻も違わないのだ!

あまりのことに俺は呆然としてしまって、その時はそのまま子供達が学校の門に消えるのを見送ってしまった。門の両脇に立つ職員の不審そうな視線に気がつくのにすら少し時がかかったようだ。ようやく気がついた俺は彼らが互いに会話しだす前に、なるべく怪しまれないようにゆっくりとその場から引き返した。絶望した俺が子供を凝視するどころか、もう何も目に映らない虚ろな状態に陥っていたことが幸いしたのかもしれない。

まるで何かの天啓に打たれた人間にしか見えないことを俺は願っていた。

あの子達が最後の集団だった。もうあたりには子供の気配はない。

門が閉められる音を俺は駅へと向かう背中で聞いた。

 

俺はそれはもう、その日から鬱々と思い悩んだ。

相手が男だとわかってもあの子が忘れられなかった。

夢はそんなこと些細な問題だと、囁いてきた。

だけど、俺には決心がつかない。

俺は断じて幼い男の子になど心を動かされたことなんか、なかったんだ。

俺は、俺が恥ずかしかった。

 

俺の前を今日もあの子がややうつむき加減で歩いていく。

白いシャツから長い首の襟足がまぶしい。俺は拳を握りしめる。あれに触れたい!

その欲望は突然でまっすぐで凶暴だった。

俺は今まで女の子にしかそんなことを思ったことはないのに。

なんでだ!どうして俺は今、あの男の子にこんな思いを抱くんだ!

 

・・・本当に男の子なのか?

 

その疑問は突然だった。

まるで昼間から夢が耳元で囁いたみたいだ。

 

その可能性は確かに、ある。

唐突に俺の中に希望が灯った。

『そうだ、女の子なのに男として育てられているのかもしれない。』

いつもの夢が、起きているはずの俺の頭の中でお構いなく示唆する。

その妄想がどんなに荒唐無稽であるのか、本来の俺なら何度も反論しただろう。

そうだ、頭ではわかっている、わかっているのだが、だけど。

まさにそんな感じだった。

 

『確かめればいい。』

 

もうダメだった。その声に俺はとうとう逆らうことをやめた。

途端、苛立たしいストレスの波は嘘のように凪へと変わっていった。

地平線まで視界が開けた海だ。

波に漂いだす俺の心は耐えようがなく、甘美だった。

 

確かめたい。

 

『さらえばいい。』

 

そうだ、あの子をさらって・・・

そうやって確かめれば・・・わかることじゃないか。

『もし、違っていたら・・・殺せばいい。』

いつものように。

『どうせ、殺すのだ・・・なんの問題がある?』

むせるような熱で窒息しそうだった体が、スッと楽になる。


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