MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルツウ-3-4

2010-04-23 | オリジナル小説


話を再び、天界を鴉と彷徨うアギュとシドラへと戻そう。

閉じられているとは思えない程に空は青い。
その空に向けて聳える4つの柱。
しかし、柱と見えたのは、流れ落ちる衣服のヒダが直線をより強調している為。
明鴉が4大天使と紹介したモニュメントは向かい合いたたずむ巨大な彫像であった。
見上げてみると、それぞれの彫像は背で折り畳んだ羽を有しているのがボンヤリと伺えた。
『驚いたな・・・これでは・・・会話等、できるのか。こいつも死んでいるんじゃないのか?』シドラが囁く。明鴉に向けたのは不信の眼差しだ。
「・・・死んでいるというのは当てはまりません。ここの天使達は、すべて仮死状態なんです、って言っても死んでるのとあまり変わりませんか・・・彼等は来るべきハゲマゲドンに吹き鳴らされるラッパの音を待っているんです。」
鴉が自信なさげに訂正する。
「ふん、そしたら起きるわけか。」
「まあ、待ってるうちに待ち疲れてしまったわけですね。」
気を取り直すと、アギュを振り返る。
「ここでは仮に4大天使と呼んでいますが・・・別に言えば・・・普賢、文殊、観音、弥勒、4菩薩だと呼ぶ人間達もいるのですよ。この名前はご存知でしょう?」
『今度は仏教と来たか。』
「つまり・・・同じ物だと言うのですね?」アギュは柱をしげしげと見上げた。
「はい、たまたま、あなた方は最初にミカジェルと遭遇したわけで・・・彼はキリスト世界にしか自分を置くことを認めない、そういう奴ですからね・・・その結果、彼のイメージ世界に感応したまんま、ここに入って来たということです。だから今、ここは一見キリスト世界としてあなた方の脳裏に現れているわけです・・・ちょっと良かったら、見方を変えれて見てください。おもしろいですよ。意識して、これは天使だという先入観を捨てて見るわけです。」
そう言ったとたん一瞬、天使であった明鴉は黒い羽を持つ鴉天狗にだぶる。
「この姿の方がお好みでしたなら、こちらをお選び下さい。」優雅に舞ってみせる。
その回りの死んだ天使の群れも、羽衣のような衣装をなびかせたままの眠る迦陵頻迦と天部の梵天の群れと重なった。
「そう・・おもしろいですね。」アギュは感慨深くそれらを見て取った。
「あらゆる信仰の形をあなたがたは具現化させているわけなのですね。見る者によって違うものと写る・・・彼等人間のそれぞれに見たいものを見せる。」
「いわば、商売道具です。」鴉は黒い羽毛に覆われた切れ長の目で笑う。
「この姿で人間の信頼を勝ち取り、最も我々がおいしいと感じる信仰心を捧げさせるわけですから。」
「しかし、あらゆる宗教が一つの姿を持つわけでもない。」
「そうです。ミカジェルのように固定した姿に固執するものも多いですけど。信仰される中心になるものは一定とは限らない。宗教派閥が無数に産まれるわけですよね。4大天使と名乗るものさえ、たくさんいるといいましたよね?。平たく言ってしまえば、望むものを人間から取り出せす為ならば、なんだってありだと言ってもいい。魔族も天使もただの呼び分けだと僕はいいました。魔族と天使がまったく同じ行動をすることもあるのです。」
「デモンバルグのように。」
「そう、デモンバルグなんてその代表例でしょうね。彼は恐怖を好むけれど、自分の求める魂をひたすら守っている。雛を守る親鳥のように。滑稽と言ってもいいくらいだ。」
改めて、アギュは聳える彫像を見上げた。羽ではなく今度は背には光背が見える。
奇妙な事に目線を上に走らせれば走らせるほど、上半身はぼやけ胸や顔に当たる部分は濃い霞が掛かっているように見えた。
「・・・4大天使は会話もできます。あそこへ行けば・・・のはずです。」
「なるほど。そのようですね。」見上げてうなづく。
なぜなら、天使柱が形作る正方型の中心に、一つの次元が作られていることがアギュには感知できたからだった。
像がぼやけて曖昧になっていっている場では、空間が強く内側に凹んでいると強く確信する。「では、行ってきましょう。」
アギュは浮遊すると、鴉を追い抜いて見下ろす。
「あなたは?」
鴉は困ったようにアギュを見上げた。
「僕は・・・遠慮しておきます。用もないし。彼等も僕に関心なんてないでしょうから。僕はきっとはじかれてしまう。でも・・・あなたなら大丈夫だと思いますよ。」暗に4大天使の方でも既にアギュに関心を寄せている可能性を示唆する。
「僕はここであなたのドラゴンレディと待っていますよ。」
「冗談じゃない。」すばやく、怒ったシドラが現れた。
「あなたはどっちが好みです?」明鴉はシドラに問うたが無視された。
『我もおぬしについて行くぞ。危険極まりない。』
「シカシ。」アギュは目をすがめて上空を吟味した。人格が変転する。
「アソコへはバラキでは侵入できない。特殊な場だ、違うか?」
しばらくバラキと会話をしたシドラは、間を置いてから渋々うなづく。
それらを好奇心一杯で見て取った明鴉は嬉しそうにドラゴンの背に近づいた。
「ほら、言ったでしょう。ここで僕と遊んでいましょうよ。」
「やなこった。」「ちょっとだけ、乗ってもいいでしょう。」「なんだと」
鴉とバラキの背に乗ったシドラが言い争ってるのを背後にアギュは上へ上へと自分の存在を引き上げて行く。
その空間は回りの空間を引き込む中心部とは反対に、近づくにつれてその外部輪郭からは侵入を拒むかのように分子が外へ外へとと押し出されている。
流れに逆らうように、体が重く動きが遅くなる。
例えれば、そこは時間というものが更にゆっくりと流れているかのようだった。
時間が負荷に押しつぶされ這いつくばる。
「人工的な次元だ。これが4大天使の力か?」
アギュは自身の存在を巧みに分散することによって複数の空間にぶれさせた。幾重にもぶれたアギュは(それは人の目で見たとしても感知できない)ほとんどの抵抗力を相殺することに成功した。
そしてやがて、その4大天使のプライベート空間とでも言うべき場所に到達する。

はじき出されるように気が付いたら、アギュはその空間に飛び込んでいた。
そして、そこに『それ』はいた。
渦くまる光の粒子の渦。その空間をみっしりと詰めて重く存在する金色の光。
太陽には及ばないが、核融合を繰り返す巨大で圧倒的なエネルギー。
立ち上がる太陽フレアのような4本の角がなければ日輪そのものであった。
その前では、蒼き光のアギュは小さな光に過ぎなかった。
しかし、その光はその場のエネルギーに瞬時に反応しそれらを取り込み、何よりも強く鋭く輝いた。アギュは身の内が溶岩のように滾る熱に満たされるのを感じる。
おそらく、少しでも戦けばその存在に頭から飲まれてしまっただろう・・・生半可な気力ではアギュでさえ光に溶けてしまったかもしれなかった。
胸に輝く低いオレンジの光がアギュの体温を冷やして行く。
アギュはかつて惑星よりも巨大なワームドラゴンと対峙したこともあった。
臆することはない。
「オマエが4大テンシか?!」アギュの口から不遜な高い声が放たれた。
「4人いるっていうのに、4人、いないじゃないか!」
重い空間に鎮座する光はしばし激しく渦巻いた。粒子がぶつかりあう、ゆっくりとしたざわめきと共に光が立ち上がるのがわかる。
『・・・控えろ・・・』と、その存在は濃く重たい意志を伝えて来た。
『・・・我らは4人にして1人・・・1人にして全てのもの・・・』
「フン。気取ってるな、さすがホショクシャどもの親玉だ。」
『・・・宇宙から来しものよ・・・』
ふーん、なるほど。もうアギュ達のことを把握している。明鴉の言った通りだった。
『・・・この星を巡る・・・三千世界において、知ろうとして我らの知らぬことなどないのだ・・・』
ほとんどはあえて知りたくもないことばかりって言いたいようだなとアギュは心のうちで皮肉る。
『・・・天使との争いも・・・すべて見ていた・・・』
『・・・お前が鴉に語った話も・・・ここで聞いていた・・・』
「すべてお見通しってわけか!では、オレが誰だかはもう知っているな?!」
アギュは挑発する。
「オレがどういう存在かってことだ!言ってみるがいい、三千世界の蛙よ!」
『・・・それは・・・わからぬ・・・外世界から来たということだけしか・・・』
挑発をかわし、淡々とそれは己の無知を認めた。『・・・お前は何者だ・・・・』
「オレはニンゲンだ。最高にイカシタ、シンカしたニンゲンだ!」
アギュは誇らし気に叫ぶ。「オレはリンカイシンカ体!。」
思い出したように口から、こう笑が迸った。
「いっとくが、ロードではない。」
それに答えるかのように、金色の粒子が光速で渦巻いた。
「4大天使・・・笑ってやがるのか?」アギュは油断なく身構える。
『・・・なるほど・・・愚かな間違いだったな・・・』
「ロードなど、いないのだろう?」アギュは容赦しない。
「それはオマエ達がニンゲンをホショクする為に、カンリするために作ったゲンソウだろう!? そうやって、人間達を騙してエネルギーを食うわけだ!」
しばし、光は沈黙する。
「ホラ、見ろ!図星だ!オマエらは寄生虫だっ!」
叫ぶと共に、剣のような青い光が渦巻く光に鋭く打ち込まれたが、その先端は金色の密度の濃い粒子と激しくぶつかり火花を散らせた・・っと思う間もなく先端が折られ四方に弾けとんだ。4本の光の角は微動だにしない。
『・・・戦いなど飽いた・・・我らに争いをは無用・・・』
侮りがたい相手であることをアギュは悟り、密かに舌を巻く。
少しはお行儀良くした方が利口なようだ。
光が飽いたのはアギュへの関心でもあったのかも知れない。
誰もいないかのように光が、つぶやく。
『・・・ロード・・・わからない・・・』意識が水面のように揺れる。
「オマエにもわからないのか。オレもわからないがな。」
ふと、アギュも真顔になり、小さくつぶやいた。
対峙する二つの光にしばし時が過ぎたようだ。

『・・・宇宙にも・・・ロードはない・・・』
「知らん。」4大天使が再び呟くと、即座にアギュは吐き捨てた。
「ただ、オレと同じリンカイしたニンゲンはすべてウチュウの果てを目指して消えたと聞く。果てにナニがあるかはわからない。今のところは、誰にもな。」
『・・・宇宙の果て・・・』
「いつか・・・」その時、自分でも思いがけないことをアギュは言う。
「オレも行くがな。」
言ってから思う。果たして、オレは本当にそれを望んでいるんだろうか。
他の人格からの干渉はなかった。彼等は完全に接触を断ち、沈黙している。
自分でもアギュはわからなくなった。
光は再び、アギュの存在を思い出したようだ。
『・・・なぜ、お前は行かない・・・』
今度はアギュの方が答えない。意趣返し、子供のように。
「オマエも・・・おそらく、そこへ行けるんじゃないかな?」
確信は持てないまま、天界とされる空間の薄い膜のことをアギュは考えていた。
「あと何億年か待てば、ここは破れる。銀河の中心を貫く、ワームホールへと投げ出される。オマエらはドコへ行くんだろうな。ウチュウの果てとやらへも自由自在かな。」
アギュの目には押さえがたい憧憬が浮かんでいたのかもしれない。
再度、光が問う。
『・・・なぜ・・・仲間の下へ行かない・・・』
「仲間じゃない。」即答せずにいられない。「オレの仲間はここにいる。」
今はだ。しかし、そしてその後は?。
彼等が短い命を終えた後、アギュはどこにいるのだろうか。
『・・・進化した人間も変わらぬものだな・・・』
アギュは自分の思いがすべて4大天使に伝わっていることに困惑した。かつて上司となった元最高機密研究所の長官、イリト・ヴェガはアギュを憂慮していたのではなかっただろうか?。覆い隠すべき肉体を失った人間、すべての感情がむき出しになったまま生きている存在。見方を変えてみれば、それが臨海進化体なのではないかと。

「そんなことはどうでもいい。」アギュは目的を思い出した。
「オレが聞きたいのは、デモンバルグだ。デモンバルグのことは知っているな?」
『・・・デモン・・・』4大天使は確かに肯定したようだ。
「アイツは何もんなんだ?アイツの追ってる魂のことを知りたい。」
『・・奴は・・不可侵領域・・・』気のせいか、いらだしげに光は瞬いた。
『・・・もうひとつ、ある・・・・』
「?」
『・・・追ってるもの・・・』
「デモンバルグが追ってる魂がもう一つあるのか?」
『・・・追ってはいない・・・対になるものだ・・・』
「渡が持ってる魂と対の魂があるのか?」
『・・・デモンバルグはそれをいつも遠ざけている・・・・』
「自分の追ってる魂からか。」
『・・・デモンバルグの狙いは・・・わからない・・・』
「デモンバルグは有史以前からのただ1人の悪魔だって聞いたが。」
『・・・・おそらく・・・・』
「4大天使のオマエらよりも古いのか?」
『・・・確かめようがない・・・・』
アギュは僅かに舌打ちする。
「ちぇっ!役に立たないな。ならば、それはいい。その対になる魂とやらはどこにあるんだ?」
もったいぶるかのように光が渦巻く。密やかな笑いを秘めて。
「教えろ!」その時、アギュの中から突如、別の人格が浮遊してくる。
「そんな風に彼等にごり押ししてはいけません。」「いいんだ、こいつらは所詮、デモンバルグと変わらないホショクシャだぞ。」「あなたの何倍も生きてこの星の人々の信仰を司って来た方々です。もっと聞き方があるでしょう。」
少し、抵抗があったが交代する。
「申し訳ありません。」アギュは光に許しを請うた。「カレは口の聞き方をしらないものですから。」
『・・・1人ではないのか・・・』
「はい、あなた方と同じです。私は二人、統合人格を入れると3人と言った方がいいかもしれません。」
『・・・似ている・・・』
アギュと変わったのはカプートと呼ばれた418であった。
「実は、私達が複数人格を得たのはある不可抗力なのですが。確かに、肉体を失いつつある私達と、具象化した体とはいえ物理的な姿を捨てて1つに融合したあなた方、4大天使と私達は似ていると言えば言えるでしょうね。」
いつもは滅多に出ては来ない418はついつい饒舌になる。
「ただし、大きな違いがある。私達は連邦からの頸城があるとはいえどの空間にも出入りが自由である・・・しかし、明鴉さんの話によると、魔族も天使族もこの地球の重力から離れることができないそうじゃないですか。あなた方、4大天使もそうなのではありませんか?。あなた方が今の姿を取る事にしたのも、それが大きな要員ではないのですか?」
『・・・よく、しゃべることだ・・・』4大天使の口調に始めて変化が現れた。
『・・・我々は有史より地上を管理していた・・・何の変化もない単調な繰り返しだ・・・人間は増え栄え、たくさんのエネルギーを我々に提供し続けた・・・我々はそれを吸収し淘汰しあい重い巨大なエネルギーとなった・・・しかし、それだけだ・・・終わりがない・・・それに気づいたものがここに来て自分を封印した・・・いつか何らかの変化が現れるまで・・・そう・・・すべてに・・・我々は飽いた・・・今は地上になんの関心もない・・・』
「そうですか・・・」418のトーンも落ちる。
「我々がオリオンからこの地球に来たことで、何らかの変化が起こせればいいのですが・・・」
『・・・期待はしていない・・・』
「我々はここの人類と祖を同じくする人類の末裔です。ここの時間で何千万年も前、祖の人類から別れた一群の人間達が船でこの星に降り立ちました。我々が派遣されて来たオリオン連邦を作ったのはそれ以外の人類です。祖の人類にはあなた方のような天使や悪魔と言う観念があったことが伝わっています。しかし、オリオンの人類にはそのような観念すら失われているのです。しかし、ここの人類達は今だに祖の人類に近い遺伝子を保ち、自覚はないかもしれませんがあなたがたような存在と共にあります・・・それがなぜなのか私は知りたいのです。」
4大天使の光が激しく渦巻き出す。内側で新たなエネルギーを作り始めていることを418は確認する。退屈した彼等の好奇心を刺激し、興味を引く事ができたようだ。
『・・・ドウチ・・・』
「・・・なんですって?」
『・・・思い出した・・・かつて我々は魔族と激しく争った・・・それを調停したのがデモンバルグであった・・・魔族も天使族もかつては同じものであったと奴は言った・・・・争うのは無意味・・・どちらが上か下かもない・・・」
光は記憶をたどるように瞬いた。
「・・・そう、奴は言った・・・ドウチと呼ばれたのだ・・・我々はパートナーソウル・・・それが原型だとデモンバルグは言っていた・・・』
「!」アギュの内も激しく輝く。ついに望む情報を引き出したのだ。
「その時から、彼はその二つの魂のうちの一つを追っていたのですか?」
『・・・そうだ・・・もっとずっと昔から・・・』
418は興奮を抑える事ができなかった。
「そうです!、確かに祖の人類の初期の記録にドウチと言う存在が残っているのです。人々はドウチによって守られていたと。それではひょっとして・・・デモンバルグは遥か人類がここに降り立ったときからの何らかの情報を握っているのに違いありません!。これは私の直感です。直感に過ぎませんが・・・あなた方は変化を待っているといいました。もしかして、その変化に繋がるかもしれないのは・・・デモンバルグなのかもしれません!。彼に会わねばならない・・・」
『・・・奴は一筋縄ではいかぬ・・・それ以上は・・・語らぬ・・・』
「彼の追っている魂と対になるものはどこにあるのです?」
418は頭を下げる。「必要なのです、教えていただかなくてはなりません。」
『・・・60年前までは日本にあった・・お前も知る神月・・』
「神月にあったのですか?!」
『・・・それから後はわからぬ・・・痕跡が消えた・・・・』
「消えたのですか。ほんとに?あなた方でもわからない?」
『・・・わからない・・・』
アギュが落胆しかけた時、光は続けた。
『・・・わからない、が・・・ある・・・』
「何か方法があるのですね?」
『・・・知る方法はある・・・・』
「方法?」
光はものすごい勢いで渦巻き、己の中央に一つの穴をうがいた。
『・・・過去に聞くがいい・・・』
アギュはその竜巻が形どる螺旋の洞窟を半信半疑で見つめる。
粒子の渦巻くその巨大な洞窟は深くえぐるように熱の滾る溶鉱炉へと突き抜けて行るのではあるまいか。蒸気が盛んに吹き付けて来るが、熱さは感じなかった。

「おい、どうした?」再び人格が現れる。「やめとけ、こんなの罠じゃないのか?」
そして、叫ぶ。「ヒカリ、なぜオレ達にそこまでする?」
『・・・信じられぬか・・・ならばそれまで・・・』
「アナタ方は・・・」人格が統合する。「アナタ方も・・・来し方を知りたいのですね。ここに籠ってすべてを遠ざけてはいても本当は、いまだ待っているのです。」
『・・・デモンバルグの秘密を暴き出したものはいない・・・我らもできなかった・・・対になる魂を手に入れ・・・奴の秘密に近づくがいい・・・』
「勿論、あなた方が私を葬る可能性もなくはないが。」
『・・・・無意味・・・・』
418も再び現れる。
「時間と言われるものも不確定な次元の一つと言われています。この宇宙全体よりも大きなものとみられ、解明されていません。宇宙の中では明確な時間の観念がないからです。どうして、時間の密度がところにより濃くも薄くもなるのか?。まったく時間と言うものがない次元も多く存在する。遡るところさえ確認されているんですから。極端に言えば、あってないものとも言えるのです。ただ人間の観念の中に存在する時間という観念に限って言うならば、時間軸は螺旋であるとの考察があります。X軸に対するY軸は平行宇宙の連なりではないかと。時間とはそのX軸を移動する点同士の繋がりで表現されるしかないものなのです。そして、未来に行くのは容易いが、過去に戻るのは難しいと言う話もある・・時間軸は常に先へ先へと進んでいると考えられているから・・・と言うことは、もしも過去に戻れたとしてもです、そこからまたここへと引き返すは容易なはず、となります・・・こんな、チャンスは滅多にありません!。行ってみることに私は賛成します。」
「オレにはそんなに楽観的に思えない・・・このラセンを辿れば、デモンバルグの秘密に近づけるのか?本当にジカンを遡ることができるのか?・・・ヒカリ、騙すんじゃないだろうな!」
『・・・面白い・・・』
光が始めて声をあげて笑う。そこには、複数の響きが混じっていた。
『・・・こんなに面白いことは幾久しい・・・お前という存在が気に入ったと言ってもいい・・・そうだ・・・ここには我らが有史から経験した全ての記録がある・・・我らが見守って来た人類の歴史とやらを辿れば、そこここにデモンバルグの影が浮かぶのがわかるだろう・・・」
アギュは瞬時に心を決めた。
「では・・・行きます。」
アギュの統合人格はあらがううちなるものを押さえこむと、4大天使が開いた螺旋・・・日輪を貫く何処とも知れぬ洞窟へとその身を投げ込んだ。

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