MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-14

2007-10-09 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-14




     アギュレギオン

「その続きは私が話そう」
抑制のきいた声が響き渡った。
「私だけが語れることである。」
蒼い光が部屋に満ちる。
アギュレギオンが入って来る。
光がまといつく、しなやかな足取り。
肉を持たず性を持たず、長き時間を生きる者。
「想い出話に混ぜてもらおうかと思って、やって来た。迷惑なら言ってくれ。」
二人のジュラ星人は、ハッとかしこまって脇へと退いた。この二人は互いに良く似ている。その二人がまるで左右対称に片膝を突く。
「いえ、けして。」
「私は真相を知りたい。」
シドラ・シデンは頑なにつぶやく。そんな二人をアギュレギオンの視線がなでる。
不可思議な生物のようにうごめく光の中で、アギュの顔は陽炎のように揺らめく。
陽光がちりばめられた玉虫色の中心部ははっきりとは見えない。
目をそらすわけには行かない強い光なのに、なぜかまぶしくは感じない。
そこにいるのに、はるか遠くにいるように。
伝わってくるのはほのかな暖かみだ。
最高進化体はこちらに顔を向けた。おぼろな優しい顔がかすかに微笑んだ。


そういうわけで。
ここからしばらくの間。
アギュレギオンの話を元に語るとしよう。



カプートと話をした直後、ガンダルファは体に戻り眠ってしまった。
「話はすんだかよ。」
アギュは慎重にガンダルファとドラコを肉体に戻した。
かすかな振動が伝わった。空に黒い影が渦巻いたがやがて見えなくなった。
「まさか、シドラもですか?。」
「大丈夫だ。今のバラキはオレらに何もできない。」
「そうか!ワームの力が三次元で実体化するには人の力がいるのですね・・」
カプートは感動に耐えていた。
「ワームがこちらの世界で試行する力は契約者の持てる力を利用しているわけだ・・だからか!契約者が意識を保てなくなった今、この世界と切り離されたわけですね!それが・・それが、きっとワームが契約する、その理由の一端なんだ!」
アギュはまったく、聞いてないようだった。
「いつもより深く眠ってもらった・・オレがここを離れるまでオレが押えて置く。」
「あなたは能力をずっと隠していた。その為に外界から遮断することが、あなたには必要だった。そうなんでしょ?」
「オマエにはできまい?」馬鹿にするようにアギュは息を鳴らした。
「オレの実力はオマエ達が知るよりも、もっと色々できるんだ。驚いたか。」
「はい。驚きました。」
年上に見える男は、子供のように見える男に丁寧な口を聞いた。
「くやしがるな?。」
「はい。そうでしょうね。」ケフェウスにイリト。カプートも笑った。
「いつから、知ってたんですか?」
「・・」
アギュはカプートの真剣なまざしから、寝ているガンダルファに目を移した。
「まぬけ顔だ。」
「いい奴ですよ。」カプートはそっと言い添えた。「彼は公平で平等です。」
「ジュラの人間はな!」アギュはヘッと鼻で笑う。
「オレに逆らうなんてな。変な奴ら。」
その言い方はずっと優しかった。
「ぼくのことは、いつから・・?」カプートはもう一度、問い直した。
「そうだな・・」
「アギュ」蒼白な顔をした、ユウリが現れた。
「そんな哀しそうな顔すんなよ。」アギュはユウリに向けて笑いかけた。
「あなたもお別れが言いたかったですか?」カプートも倣う。
「いえ・・」ユウリは俯いた。
「シドラにはとても言えなかった・・今から、出て行く・・なんて」
「ガンダルファはバカだから、絶対に隠せない。シドラはイリトに報告するしかない。」
アギュはもう終わり!とばかりに手を振る。
「オレはアイツと話した・・飛び付いて来たぞ。」笑いを押し殺す。
「では・・ケフェウスはモニターで確認してるのですね。僕達の脳波の同調を。」
「アイツも、目からウロコが取れたかな?」クスクス笑う。
ユウリが不安そうに囁いた。
「彼は裏切らないかしら・・?」
「裏切れないさ。」
「うまくいくかしら?」
「まあな。」すがるような視線からアギュは目をそらした。
カプートが静かに話しかける。

「何を考えてるのですか?」
「何も。」
「あなたは、又・・」
「うるさい!」即座にアギュがさえぎった。
「オマエにはわからない!わかるわけない!」
「ええ。わかりませんよ。」カプートの顔に赤味が差した。
そんな二人を目を見開いて、ユウリは見守る。
「僕は出来損ないですからね。」
「そうだ!」アギュは吠えた。
「オレになれなかったオマエがグダグダ言うな!」
「なんで、そんな目で見る?」
「わかりませんか・・?あなたは私でもあったのに。」
「違う!」悲鳴。
「ええ。違います。いまわかりました。」
「オレに対等な口きくな!。」
「あなたはいつもちゃんと答えない。誤魔化している。」カプートは迷わない。
「結果としてあなたは500年、現実と向かい合わずに逃げ続けた。違いますか?」
「オマエにはわからない。」アギュは強く輝いた。
「オレは臨界進化体だ。」

「そうですね・・僕にはわからない。臨界進化しなかった僕には・・」
少しの間があった。
「そうならなかったことを、今初めて後悔しません。」
カプートは頭を上げた。
「そして、2度と後悔しないでしょう。」
アギュはギリッと奥歯を噛んだが何も言わなかった。
二人の話に入ることはできなかったユウリは、息を詰めて成り行きを見守っていた。
「アギュ・・」
「それじゃ行くか、ユウリ。」アギュは何事もなかったように振り返る。
「アギュ、あたし・・あなたに・・」
「いいか、説明や懇願はもう無しだ!」
「約束したわ・・あなたと・・本当にいいの?」
真剣な眼差しをあざけるようにかわす。
「あんな約束、オレが真に受けてると思ってたのか?おめでたいな!」
ユウリは殴られたようにたじろいだ。
「あたしはもう、いらないの?必要ないってこと・・?」
「オレは最高に進化した人類だぞ。その気になればなんだって思いのままだ!オマエのチンケな人生を捧げられたところでオレになんの得がある?」
アギュは笑いを爆発させる。
「あの時はオレも子供だったから、長いことすねて見せたがこうやって現実に戻って見ればみんなオレにヘイコラしておかしいったらありゃしない。偉そうなニュートロン共がオレの顔色に一喜一憂だ!。まったく、いい気分じゃないか?そうだろ?」
現実世界ではユウリとアギュの身長はほとんど変らなかったはずだった。しかし、この世界でのアギュの頭はユウリを見下ろしていた。もはや正体を隠すことのない、大人のカプートに彼は負けたくなかったのだろう。
アギュはユウリの震える顎に手を当てた。
「あたしは、アギュ・・」
「そのうち、ここからおさらばするまでの退屈しのぎだ。オマエもそのひとつ!」
「アギュ!」カプートが聞いてられず口を出す。アギュは激しい一瞥をくれる。
カプートはそこに何かを読み取り黙った。
「オマエはカプートと行くのが一番、いいんだ!」
唇にそっと指が触れた。しかしアギュはユウリと目は合わせなかった。
「オレといたって先がないんだ。わかってるだろ?」
カプートが初めて聞く、彼のためらいがちな言葉。
「オレがこの間、オマエに言ったことずっと考えてたんだろ?オマエだって悪くないと思ったんだろ?オレは知ってるぞ・・」
アギュはユウリの顎をカプートの方に向けた。
「アイツを見ろ。アイツはオレだぜ?できそこないだが、オマエにピッタリだと思わん?アイツとシアワセになってみろよ。」アギュは振り払うようにユウリから手を放した。
「アギュ、聞いて・・それは、違うの!」しかし、ユウリの声は届かなかった。
「どうよ?クローンくん。」今度はカプートに薄笑いを向ける。
「コイツを進呈してやるぜ?シアワセにしてみせる?」
「・・人は進呈できるものではありませんよ。」
「そんなことわかってる!オマエにできるのかって聞いてんだ!」
落ち着き払った答えにいらだつ。
「・・してみせます。必ず。」視線を捉える。「あなたにはできない方法で。」
アギュは再び奥歯を噛みしめる。しかし、平静を装う。
「やってみろ!このできそこない!そしたら、認めてやる!」
意識体だけのアギュの体も激しい感情に、一瞬かき乱されたようにまたたいだ。
でも、すぐに持ち直す。
「オレの言う通りにしてろ、わかったな!」
噛み付くようにユウリに言い聞かせると乱暴に手を引いて引き立てた。
言葉も無いユウリはかろうじて、ガンダルファの寝顔を見下ろし、一粒二粒の涙をこぼした。
カプートは現実に戻りゆく、アギュの後ろ姿にじっと目をやった。
「あなたは又、逃げようとしている。僕から、ユウリから。それを阻む力は僕にはない。」
足下を見下ろす。「でも、大丈夫。ユウリは僕が守るから。」
「さよなら、親友。」
そっとつぶやいたがもう振り向く事はなかった。
カプートは二人の後に従った。

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