MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-13

2007-10-04 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-13  アギュ・ルーム-3



そういきなり僕を起こすと、カプートは試合をやろうと言ったんだ。
僕たちはドラコボールを何試合も打ち合った。
僕よりも大きくて年上の彼と試合をするのは最初は少しなじめなかった。
でも、夢中で戦っているとそんな事、いつの間にか忘れてしまった。何もかもが、取るに足らないことのような気がしたんだ。
その為に彼は僕を試合に誘ったんだと思う。そういうところでやはり彼は大人だ。
僕には感じ取れた。見かけは変っても、彼は彼だった。
カプートは僕よりも背が高くて歳が上だけど前と変らない。
僕の友達のカプートだったんだ。
「すみませんでした。」
ドラコが疲れてへばり、やっと休憩に入った時、彼は僕を見ずにつぶやいた。
「いいよ、もう。なんか色々、あるみたいだし。」
僕は幾分大人ぶった訳知り顔で答えたと思う。

だけどそれよりも何よりも、僕にはちょっと気になることがあった。
「本当にユウリと行くの?」
「はい。ユウリのお父さんのいる所までは。」カプートはうなづいた。
「心配しなくて大丈夫です。そこまでですから。ユウリは父親と一緒に自分のアースに帰って暮らすことになるでしょう。ぼくはそこで別れます。」
カプートもユウリが好きなんじゃなかったの?
「彼女にとって僕はアギュの代用品だから。」
僕の無言の問い掛けに、寂しそうに笑う。
彼の言葉に込められた深い意味をまだ僕は知らなかった。
だからここはあえて、明るくいかなきゃと思った。なんたって、新たな同志発見。
「そうかー。」思いきり、伸びをする。「ユウリのアースってどこなの?」
その場所をカプートは手短に説明した。ジュラとは真反対の辺境地帯だった。
「その辺はペテルギウス側に近いね。僕が軍隊に入ったらその辺に配置されるんじゃないかな。シドラ・シデンもきっとそっちを希望するから、みんなで又会えるね!」
僕は明るい展望を描いた。そう悪い未来じゃないんじゃない?。ライバルは多いけど。
その明るい妄想を破るように暗い思い詰めた声がする。
「君に話しとくことがあります。」
カプートは僕の目をハッキリと見た。その目は真剣だった。
「ぼくのことを。ぼくが誰で。何をしてきたか。」
「いいよ、もう。」僕はやや、ぶっきら棒に言った。
「僕のクローンに何をしたかなんて、言わなくても。」
「その事じゃないんですよ。」悲しそうに彼は言った。




「お前はその時、知ったのか。」
ああ、当人からね。
「おぬしはきっと知ってるのではないかと思っていたのだ。」
「シドラがもったい付けてたのもこのことだったの?」
「我は後から推察した・・それ以外、ないと。」



カプートはアギュのクローンなんだよ。
処分されなかった、ただ一人のクローンだよ。成長したアギュだ。成長した、オメガスパイロ出身の原始星人。臨界進化しなかったら、そうなったはずの姿なんだろ?きっと。
なんせ、初期に捕られた99.875%同一の遺伝子だもんね。
「それなのに、臨界進化はしなかったのか・・。」
ああ、やはりアギュは神に選ばれし者なんだよね。
(ガンちん嫌みにょ・・)
だって。カプートはそうならなかったから、殺される運命だったんだもの。ケフェウスがちょろまかさなかったらね。アギュは神の気まぐれな指がたまたま触れただけだったんだ。
アギュが臨界進化した後で、スパイロ出身の子供は今にいたるまでことごとく集められている。その実験のせいか、今ではあの星では子供は自然分娩では産まれなくなってしまった。その初期に集められた子供の一人とすり替えたんだ。処分されたのは・・その子なんだろうな。まだ、イリト・ヴェガが来る前の話だからね。

(可愛そうな子供にゃ~)

「それをずっとケフェウスは隠していたのだな。」
そう、だからカプートを手放すわけには行かなかったんだ。自分の思いままの研究をし、その成果を独り占めしたいという野心と保身の為にね。連邦高等議会はさすがに承諾なしに特定のクローンを作り続けることの是非を問いていた。
「臨界進化と言えども、どこまで人権を認めるべきかで当時は紛糾したらしいな。」
肩をすくめ、吐き捨てる。
「しかし、だからと言って処分すればいいものではないのだ!。」
シドラ・シデンはみんな、この臨界進化に対してクレイジー過ぎるとブツブツつぶやいた。僕もまったく、その通りだと思う。
「ケフェウスは進化しなかった場合のアギュも欲しかったわけだな。」
そう、研究を完全にする為のコレクションにね。そうだ、いつぞや言っていた正に奥の手。
「カプートは彼の悪事の証拠であり、交渉の切り札ったのか。」
だから彼を手放すわけには行かなかったわけだ。そして、カプートは自分の正体が知れたら、連邦法上存在できない事を知っていたから・・。
「そこまで無慈悲でなかっただろうに。」
「そうだよね、イリトはカプートを見ない振りをしてケフェウスから離すことにしたんだろ?。いったんスクールから外に出すことを認めたわけだから。なんだかんだ言っても、研究者は誰もが本当はアギュの進化しない場合の見本も欲しいのさ。カプートが既成事実として認められる可能性はあったんだ・・」
「でもケフェウスは成果を人と分け合うつもりはなかった。」
まして自分だけ違法行為で処分されるなんてね。
「功を焦った前の所長の管理には穴があったと聞いている。所長もグルだったかもしれない。連邦は研究費の不正使用の疑いで前所長を更迭した。イリトを送り込むことにした直後に彼は死んでいる。」意味深にシドラ・シデンは言葉を切った。
そうさ。自殺かもしれない。あるいはケフェウスが?。アギュは彼を人殺しと呼んでいたっけ。

(アギュはどこまで知っていたんにょ?)さあな。すべてを見ていたのかも知れない。
(確かに見るだけならタダにょ!)
彼は、当時はまだ無力だったはずだ。
「アギュは自分の能力を隠し通していた。奴を進化の速度は今までで一番、早い。」
アギュは当局からも予測不能だったんだ。
(ボオッと寝ていたわけではなかったってことにょ?)そういうこと。
「利用されていたのは、ユウリの方だったのかもな。」
「この事をシドラと今までちゃんと話し合ったことってなかったよね。」
「あれから色々とあったからな。」
そうバタバタと立て続けに事は進んでしまったんだっけ。

僕はカプートから彼の生い立ちを聞いた。




ぼくの最初の記憶は5歳ぐらいですか。
このスクールで初めて目覚めた時からです。
そこから、ぼくの時間が始まりまったのです。
最初はケフェウスの存在すらぼくは知らなかったのです。
ケフェウスはぼくに近づくことにかなり用心していたのでしょう。
その姿を、当時のぼくは見たこともなかったんです。彼は惑星にいましたから。
自分の認識はスパイロから来た、ただのカプート。目立たない生徒だったと思います。
それでも、それなりに友達もできました。
あの頃が一番、楽しかった・・ぼくもみんなと一緒にここを卒業して故郷(その頃は、そんな記憶があるような気がしていたんですよ・・かわいいものだ)に帰ることを待ち望んでいたんですよ。戸籍上の親でもスパイロの子供は、臨界しないとわかって親元に返されることをみんな、楽しみにしていたんです。そこが星ではなくて、例え居住収容所だとは知っていてもね。
でも、みんながいなくなってもぼくには帰る許可がいつまでも下りませんでした。
その頃、前の所長が亡くなって実権がケフェウスに移ったのです・・正式な任命じゃありません。イリト・ヴェガが来るまでの暫定的なものでした。
それでも、ケフェウスの権力には充分でした。
ぼくは自分の正体を知りました・・。
そして、ぼくはケフェウスの所有物だったことを彼から教えられたのです。臨界進化しそこねた役立たず。コレクション的価値しかない。生きていたかったら、ケフェウスを受け入れるしかなかった。
ぼくは彼のパートナーとなりました。互いの命を握り合う運命共同体です。
でも、ぼくは望みを捨てられなかった。優れた者にさえなれば、ケフェウスが中央に取り立てられれば、ぼくにもチャンスがあると思っていたのです。ぼくは彼の実験も手伝いました。彼に気に入られるために、なんでもしました。そして、ひたすら勉強しました。それだけがぼくの命綱だった。でも・・
ぼくが彼のパートナーになってから、ぼくは回りの誰からも敬遠されるようになりました・・。ぼくに近づく人も、親しくなろうとする人もいなくなったのです・・。
ニュートロン達は原始星人であるぼくをいつも軽蔑し、侮辱しました。
そんな時にユウリが現れて、臨界進化体を目覚めさせることに成功したんです。
ぼくは同じ原始星人としてとても誇らしかった。
ケフェウスが失脚して、ユウリのソリュートに目を付けて、ぼくは彼女と直接出会うことが叶いました。望む形とはかなり、違っていましたけど。
ぼくは彼女に実験を強いる側の一員でしたから。でも、ぼくは自分にできる限りの範囲で彼女を庇ってあげたかった。それは、多分ユウリにも伝わったんでしょう。
彼女にピクニックに誘われて、ぼくは本当に嬉しかった。
ガンダルファやみんなと遊んでほんとに楽しかった   。



カプートはため息を付いた。僕は彼の物語を黙って聞いていた。
「つらかったんだな。」つぶやく。
大人のカプートは晴れ晴れと言う。
「もう、みんな過去の話です。」
彼は大きい手のひらを落ち尽きなく組み合わせた。
「ただ、アギュに会うことだけが怖かったんです。会いたかったんですけどね。彼にはきっと、人目でぼくが誰かわかってしまうんじゃないか・・なんてね。」
ため息を付く。
「杞憂でしたけど。」その声の調子で、ほんとはカプートはアギュに気付いて欲しかったんじゃないかと僕は思った。だからあの時、厄災の星の名を出して自分に注意を向けるようにしたんじゃないかと。言わなかったけど。
「イリト・ヴェガは僕を生かしてくれる気らしい。僕は多分、その辺りのどこかに身を隠すことになります。政治的取引の材料だとしても、僕は嬉しい。生きていけることが嬉しいんですよ、ガルファ。」
カプートは僕を愛称で呼んだ。それは偶然、母だけが使ったものと一緒だった。
「良かった、カプート。ほんとに」
研究所を僕は密かにずっと許せなかった。でも、一番許せないのは僕自身だったんだ。
僕は無力だったから。でも、今は僕にできることがあった。
「このことは僕の胸にしまっておくよ。誰にも言わない。何があっても。」
「ありがとう。」
「君はどっちにしろ、特別な存在なんだ。」僕は胸をはった。
「いつか必ず、中央にでれるはずだ。連邦にショックを与えられる存在なのはまちがいないんだよ!だから、今は我慢だよ!」
「その通りですね。いつか。」
「僕達、ずっと友達だよね」僕は歳の差を思い出した。大人にタメ口きいてるじゃんか。
「ずっと友達です。」カプートは手を差し出した。
「親友です。」
僕らは固い握手をかわした。ニューニューと耳元で泣く奴がいる。カプートはそっちを見て笑った。
「そう、ドラコもです。」

その話をカプートとした直後から、僕は記憶がない。
不可思議な深い眠りに落ちていたんだ。



「我もだ。夢でユウリと話してるうちにな。」
シデンは首をかしげ、苦い笑いをもらした。
「どうやらアギュに一服もられたのかな。」
(ドラコもなのにゃ~。起きてたのはバラキだけにゃ)
バラキの赤い目が瞬く。
(アギュの計画もドラコは気付かなかったんにょ~不覚にゃ~)
「気にするな。バラキも起きてはいたが無力化されてしまった。」
(ワームはガンちん達を通じてしか、単独ではこの世界には干渉できないのにょ)
「へーそれ、初耳。くわしく、教えて!」
「その話はまた後だ。」(ガンちんは脱線好きなのによ~)

そして、事は起こる。スクールでのその夜の朝方、ダークサイトの一部が銀河中央部ペルセウス腕方向から連邦に進行。上層部の混乱に乗じて、ケフェウスはカプートとユウリを連れて逃亡した。ユウリとカプートを送る予定だった船を強奪してね。
そしてアギュも消えたんだ。

「すべての首謀者はアギュだとバラキは言ってる。」彼女の後ろの闇が渦巻く。
でもどうやって、ユウリとカプートが命を落としたのかは誰にもわからないんだ。
「ケフェウスと共にな。」
そうケフェウスも死んだ。たぶん奴のせいで二人も死んだんだと僕は思う。


その時、ふいにそこに光が差した。

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