伯父の犬
ぷーちゃんは、ペットショップで売れ残り、処分寸前の所、長女がただでもらってきた。
それも、ある日突然に。
伯父の家には、ある日突然の様に、人が増える。
私も私の弟たちもある日、突然この家にやってきた。
ぷーちゃんは、初めは戸惑い、そしてすぐさま受け入れてくれる。
私は、ずーーと思ってた。
ぷーちゃんは、私だけを馬鹿にしてる。
3人姉妹の様に、おねいちゃん達の横で寝ていても、ぷーちゃんは、私にだけ遊べと要求する。
眠いので、お布団に潜り込んだら、お腹の上に乗ってダンスを始める。
お腹が痛いので、うつ伏せになったら。
こんどは、私の頭の上で玉乗りを始める。
その頃、おねいちゃんのどっちかが、
”ぷーちゃん、寝なさい”
っと声を掛けると、ぷーちゃんは、すっとんと足元に行き、おとなしくなる。
ぷーちゃんは、私以外の頭の上でダンスはしない。
ぷーちゃんは、駅が好き。
お散歩には、必ず駅に行く。
駅前のコンビニの前でヤンキーにお兄ちゃんがソーセージをくれるから。
でも、ある日を境に、駅の改札まで行くようになった。
”誰も、かえってけぇへんで”
そう、声を掛けても、暫く改札の前に座る。
一度だけ、弟が駅から帰ってきた時に出くわしたらしい。
それから、ぷーちゃんは弟を駅で待つ。
弟は、大学生になり、伯父の家を出て行っても、ぷーちゃんは、駅で待つ。
ぷーちゃんは、伯父にひときわ大事にされた。
ある日、伯父が長女に言った。
”もう、そろそろ帰ってくれ。ぷーちゃん、ストレスで下痢になる”
みんなで、笑った。
伯父は、孫よりぷーちゃんが大事だ。
私が、最後にぷーちゃんに会った日。
ぷーちゃんは、老衰のせいか、物凄く臭かった。
それでも、よしおさんは、ぷーちゃんを撫でて愛でた。
東京に帰る日、コートをポイっと床に置いて、二階に荷物から降ろして戻ると。
ぷーちゃんが私のコートの上で丸くなってた。
”あーーーぷーちゃん”
ぷーちゃんは、いつもみたいに、悪い顔をせずに、寂しそうに私を下から見上げた。
いつもなら、私の嫌がる事はよーく熟知していて、うしししししって顔するのに。
私は、駅までぷーちゃんの臭いさせながら、歩いた。
伯父は、あまりお昼寝をしないのに、あの頃はお昼寝をしてた。
”しんどいん?”そう聞くと。
”ぷーちゃん、最近ぼけてきて、朝4時ごろから、散歩いくんや。トイレもちかなってるしな”
”おねいちゃん?犬の餌なんでこんな所置いてあるん?高すぎてここじゃあ食べられへんちゃう?”
”あーぷーちゃんの分やから”
”ぷーちゃん、いっつも私の事馬鹿にしてたわ。”
”ふふふふふ、いちこが家に来る前、ぷーちゃんがまだ、小さい時、私がぷーちゃんはうちの三女やでって
教えてたから、いちこは四女だからやろ。ちゃんと、家族として認めてる証。
弟達には、そんな事しなかったやろ。いっつも、よそいきの可愛い顔してたやろ”
伯父の祭壇の横には、ぷーちゃんのごはんも添えられた。
たぶん、ぷーちゃんは、伯父を迎えに下界に降りてきてるだろうから。