半導体の微細化を支える次世代技術「EUV(極紫外線)露光」が実用化へ大きく前進した。
半導体露光装置最大手のオランダASMLが試作装置の出荷を開始。早ければ2年後にも回路線幅20nm前後で量産が始まる。
日本の装置メーカーは出遅れており、製造装置の先端技術が国内から失われる事態になりかねない。
●究極の露光技術
18日から20日に神戸市で開かれた国際会議でASMLのラード・デ・レオ氏は、量産品の試作に使えるEUV露光装置の一号機を出荷し始めたと表明した。
長辺9mの巨大な装置は複数のモジュールに分割され、航空便で顧客へ届けられる。既に台湾積体電路製造(TSMC)などから計6台を受注。残る5台は来年半ばまでに出荷する。
「究極の露光技術」とされるEUVは、回路線幅20nm以降の微細化に大きく道を開く技術。微細加工の目安となる光源の波長が13.5nmと、現在の最先端の14分の1未満。10nm以下の線幅も実現できる。
量産工場に導入する装置は別途開発中で、12年に出荷する予定。早くも半導体メーカー6社から計8台を受注済みで、年内に2-3社が加わる見通し。
半導体メーカーはこれを使い準備を進め、早ければ13年前半ごろにも量産を開始。「EUVは12年以降の露光技術の第一候補」(NAND型大手の東芝セミコンダクター社の小林清志社長)。
エルピーダメモリも「微細化を進めるにはEUVが欠かせない」(坂本幸雄社長)と判断。今夏、ASMLと価格交渉を本格化させた。
●従来技術への不安
半導体メーカーの期待の裏側にあるのは従来技術への不安。現在最先端の20n-30nm台の製造では、「ダブル・パターニング」と呼ぶ手法を使う。
露光を2回に分けることで微細なパターンを形成できるが、工程が増えるため露光にかかるコストが「従来の2倍強」(大手半導体メーカー)。
20nmより細い線幅では露光を3回以上繰り返す「マルチ・パターニング」さえ必要とみられる。EUVを使うと工程数を増やさずにすむ。
量産用装置の推定価格は100億円程度と高額であるが、チップ1つ当たりに換算すればコストは下がる計算。半導体メーカーによれば、1時間あたり100枚以上のウエハーを処理できれば現状方式とコストが見合うという。
ASMLは量産装置で毎時125枚の処理を狙っている。課題は多い。最大の問題は露光装置に組み込む光源の出力。
125枚を処理するには250W必要だが、出荷を始めた装置の実力は20Wほどしかない。同社は11年半ばまでに装置をアップグレードし100Wの光源、60枚の処理を目指す。
実は、ASMLは今回出荷した装置で当初から100Wを実現する予定だった。光源の開発が遅れ、計画変更を余儀なくされた。
半導体露光装置業界2位のニコンの牛田一雄精機カンパニープレジデントは、EUVについて「量産技術の確立には問題が残っている」と語る。
同社は、以前は12年に出荷するとしていた量産用装置を、15年以降に実用化を目指す方針に転換。それまで現行の液浸ダブルパターニーング技術で対応可能としている。
●強気の姿勢崩さず
ASMLは強気の姿勢を崩していない。10年7-9月期の決夏発表で、今後の研究開発投資を四半期当たり1億4000万ユーロ(150億円強)に引き上げると表明した。
年間に換算すると、ニコン全社が10年度に計画する研究開発費570億円を上回る金額だ。
調査会社の米VSLIリサーチの調べでは、09年の半導体製造装置の売上高は、ASMLが約23億ドル、ニコンが15億ドル。現在主流の露光装置でASMLが先行し、ニコンとの差は広がっている。
業界3位のキヤノンは既に最先端の開発から脱落、ニコンはいわば日本の最後の砦。
EUVの実用化がASMLの思惑通りに進むと、露光技術という半導体製造の中核技術で後れを取り、日本から最先端の製造技術がなくなりかねない。
【記事引用】 「日経産業新聞/2010年10月21日(木)/3面」