「え?買いたいとおもうデザインがない?そりゃそうよー。
あなた、デザイナー?
そう。ふーん。
で、いままでいくつの製品のデザインをしてきたの?
あたしは、そうねぇ、もう十年以上やってるけど、
たぶん100個もないわね。
それで、あなた今年に入って、何個モノを買ったの?覚えてる?
覚えてないでしょう。去年は?一昨年は?
わからないけど、きっとたくさん買ってるわよね。
たくさん買ってるし、買わなかったモノは、
その何倍も、何十倍もあるのよね。ただ見たりしただけのものが。
そうでしょう?
あのね、みんな買うということについては、もうプロ級なのよ。
ものを選んだり、見極めたりということはね。
それだけの審美眼を、モノ作りの立場で、持てるかっていうことなのよ。
デザイナーだけじゃないわよ。商品企画とか、マーケティングとか、
みんなの総意でモノってつくっているわけでしょう。
これが正しい、これが売れる!って信じてね。
でもね、あたしおもうんだけど、そういう人たちも、
じつはアマチュアの域を出てないんじゃないかな。
だって数が違うのよ。経験の。
作るっていうことが、選んだり買ったりの、
何十分の一、何百分の一の経験しかないのよ、
そんなの、「かなうわけない」っておもうのよ。
…
みんなシンプルなものが欲しいって言うじゃない?
それで、ほんとうにシンプルなものをデザインすると、
商品企画とかは、びびるのよね。
こんなにシンプルなのでいいのかな?って不安になっちゃう。
だいじょうぶ?もっと、めっきとかバッジとかが、
必要なんじゃないの?って。
でも、じぶんがお店に行ったら、
できるだけシンプルな、
めっきとかバッジのない、トースターを選ぶのよ。
え?それでどうすればいいかって?
そんなのじぶんで考えなさいよ。
でもね、そういうことを意識するだけでも、違うとおもう。
どんなものづくりのベテランでも、
買うほどに、作ることの経験がないってことをね。
大人になったら子供の気持ちがわからないのと、おんなじよ」