ポエトリー・デザイン

インハウスデザイナーが思う、日々の機微。

目的と機能のタイミング。

2015年05月22日 | blog


充電式で、水洗い可能なバリカンを使っている。シェーバーも、充電式で水洗い可能なものに替えた。水洗いできるのは清潔でよろしい。

ただ、充電のタイミングが難しい。濡れているのでそのままプラグに繋ぐ訳にもいかず、タオルで拭いても水分が残るので心許ない。乾かしてから充電したいが、乾いた頃には充電のことは忘れている。結局、充電のタイミングを逃して、途中でバッテリーを切らせたりする。

Apple Watchのスペアのベルトを買った。白と黒。その日の服に合わせて選んでいる。白っぽいときは、白。黒っぽいときは、黒。

ところでApple Watchは、家でもしている。大きなiPhone6plusをポケットに入れなくても、時計だけで通知を逃さないのは便利だ。さほど広くもない家の中ならBluetoothが切れることもない。

風呂上がりにパジャマに着替えてからも、寝るまではApple Watchをしている。Apple Watchのベルトは、朝選んだ服に合わせたままだ。ベルトを替えるタイミングは、次の日の朝。

風呂上がりにわざわざベルトを替えるほどではない。でも、ベルトを選んだ意味は無くなっている。

目的のために機能がある。しかし、目的と機能のタイミングがずれてしまうと、機能がはたらきにくくなるということだ。

このタイミングを合わせることができたら、その機能はとても「気の利いた」ものになるだろう。

追記:蔦屋家電。

2015年05月19日 | blog
重要なポイントが抜けていたので追記。

「様々な商品が魅力的に並んでいるから買えない」のではなく、様々な商品が魅力的に「繋がっている」から、どれか一つを買えない、というのが正しい。

ビールの飲めるカフェでふと振り返るとビールの本がある。

美容関連の本棚を曲がると美容家電のコーナーになる。

一つ一つの商品がポコッと独立してあるのではなく、なめらかに計算されたグラデーションで繋がっている。そのつながりは、「これを買った人はこれも」的なサジェスチョンよりもずっとビビッドで強い。そのつながりを作り出したこと自体が、蔦屋シリーズの最大の価値なのだった。

力強いハーモニー(そう、力強いのだ)を奏でる空間から、一音だけ取り出して持って帰ろう、という気になれない。繋がりが強すぎて、切り取ることができない。逆に言えば、切り取った1個のモノが弱く感じる。だって個々のモノの多くは、普通に売ってるモノなのだ。

蔦屋家電に入ると、わあすごい、楽しい! と思うのと同時に、軽い混乱を覚える。家電と本、家電もジャンルが違うと、買うときに使う脳の部位が違うという感覚がある。普段は同時に動かない脳の別々の場所が反応するから、混乱する。


えーと、


ちょっとまた行って考えようっと。

蔦屋家電。

2015年05月14日 | blog
蔦屋家電、行ってきました。
とっても楽しいので、取り急ぎ皆さん行った方が良いと思います。特に、ネットでしか見たとこのない尖りアイテムの現物が見られるのが素晴らしい。

先日行った新宿伊勢丹でも思いましたが、売り場の作りで、こんなに商品が魅力的になるんですね。通路とか棚の高さとか天井とかの、物理的な寸法関係から違うように感じます。あの「雰囲気」を構築するには、かなり具体的なノウハウがあるんだろうな、と。

最初の印象では、めちゃくちゃ楽しいけど、「いやー私ごときの収入で買えるもん無いわー」でした。しかし、落ち着いて考えるとそれはおかしい。贅沢品も(巧みに)ちりばめられていますが置いてあるのは普通の価格のモノが大半で、極端な高級品というのは少ない。

それで、仕事を半休して、改めてじっくり確認してきました。楽しい。やっぱり楽しい。何時間でもいられそう。でも、お財布出すのに何か不思議な抵抗感がある。なんだろう?

わかりました。

洗濯機を買うときは、洗濯機を買う気持ちでお店に行きますね。電動アシスト自転車とかBluetoothスピーカーとかルンバとかはちょっと置いといて、今日は洗濯機を買うぞ、と。

でも、そんな気持ちで蔦屋家電に行くと、実に魅力的な見せ方で、電動アシスト自転車とかBluetoothスピーカーとかルンバとかが置いてあるんです。どれも素敵に見えちゃうので欲しくなる。もちろん洗濯機は買う。でも、あれも買いたい、こっちも素敵。とても全部は買えない。だってそんなにお金無いもん。

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あのー、高校生の頃、ノーパンしゃぶしゃぶというのがニュースになったんですね。高校生だから、行ったことも見たこともないけど、
ノーパンしゃぶしゃぶってのがあるらしいぜ、えーノーパン!わーすげー!、と騒ぐアホ男子の中、一人の友達がキッパリと言いました。

「俺は、別々がいい」

一同、おお! と思いましたね。やっぱ、集中したいってことです。それぞれに。激しい欲望があるからこそ。その場のアホ男子たちはおおいに爆笑しつつ、妙に納得したものです。

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冷蔵庫を買うときは、冷蔵庫に集中したい。
そこに、同じくらいの価格帯でノーパン並べられたら、そんなの集中できないじゃないですか!

素晴らしすぎる蔦屋家電で財布のヒモが緩まないのは、どうもそういうことみたいです。大変失礼致しました。

投資対効果の距離を縮める。

2015年05月11日 | blog
投資対効果、というと堅いけど、コストとリターンの「距離」をどうやって縮めるか、ということを考えている。

ひとつの案件が終わったときに「振り返り」を行い次に生かすというのは、必ず効果があるし、やった方が良いことだ。

でも実際はやらずに、何となく次の案件に入ってしまう事が多いと思う。

やれば「いいこと」があることがわかっているのに、それでもできない原因の大きなところは、振り返りと改善の「時間的な距離の遠さ」にある。

行動が即、改善に結びつくなら誰でも始めやすいが、振り返りから実際の改善の効果が出るのに、通常の開発だと数か月かかる。そうなると途端に実行のハードルが上がる。

例えば、目の前に困っている人がいるなら多くの人が手をさしのべるが、具体的に助かる人が見えない場合は、腰が重くなる。環境問題とかエコとかの多くはこのケースだ。

認識できるかどうかと、存在しているかどうかは、脳から見れば同義である。

電車のリュックも階段の傘もキャリーカートも本人には何の悪気もなく、ただ後ろに目がついていない=認識してない=存在してないだけである。

やった方が良いことは、やると良いことあるんだから、やった方が良いのだ。離れて感じるならば、そこを繋げるだけなのだ。

歳とっても自分の歯でご飯が食べられるのは最高だと思うんだけど、それでも歯磨きサボるのが人間だからなあ。

Apple Watch。

2015年05月05日 | blog


伊勢丹のApple Watchストアに受け取りに行ったら、黒シャツの店員に満面の笑顔で「Apple Watch、何に使われるおつもりですか~?」と聞かれました。「逆に皆さん何に使われるんですか?」と聞くと、心拍センサーがついてるので、スポーツのときに使う、と言う方が結構いらっしゃるようですね~、という答え。

いきなりで恐縮ですが、何に使うの? 何に使えるの? という質問をする人は、Apple Watch、買わないと思います。

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Apple Watchの発表と、アップルにマーク・ニューソンが参加のニュースは同時でした。そのとき、ああ、アップルは「かわいげ」を取り戻そうとしてるんだな、と思いました。

アップルのプロダクトは、「クール」になりすぎました。デザインが洗練されているのはあたりまえ、さらに左脳的なスペック競争でも(もう)負けない。どこからも誰からも、非の打ち所のない「クール」の称号を手に入れていました。

iPhoneが4になったとき、あまりにストイックなその造形に、もはやハードは黒子になった、と書きました。かつて愛されたブラウン管iMacのチャーミングなかわいさは、もう無かった。

デザインが洗練され、スペック的にも非の打ち所がない、と言う価値は、けれどやがては追いつかれます。だから、「そうではない何か」を取り戻さなければならなかった。

腕時計は、アップルが作るためにピッタリのプロダクトでしょう。iPhone4の圧倒的な精度やガラスの扱いに触れたとき、同じレベルのプロダクトが世の中にあるだろうか? と考え、思い当たったのは、腕時計の世界しかありませんでした。

そして、腕時計であるという制約は、アップル得意の潔い「割り切り」を存分に発揮できるフォーマットといえます。実際、よく割り切ったなぁ、と清々しくなる仕様も多いです。

アップルが「俺たちが次に作るべきプロダクトは何か? 」と考えたとき、必然的に選ばれたのが腕時計だったと想像します。腕時計には、クールの称号を超えられる可能性があった。

何に使えるのか、という問いの答えは、iPhoneの通知機能を取り出して腕時計にまとめたもの、ということになるでしょう。メールも、メッセージも、LINEも、Twitterのメンションも、セットしたアラームも、全部腕で鳴ります。もちろん電話の着信も。これらは、通知を確認するためにiPhoneを取り出すというコストが無くなるので、便利な機能といえます。

また、実利として、腕時計なら通知を逃さない、と言いたいところですが、普通に歩いていたり、バイクや自転車に乗っていると気付きません。

でも、腕にチーンと通知が来るのは、ブルッとするほどワクワクします。

そのまま電話に応答できたり、カメラのモニターリモコンになったり、アップルペイが使えたりするのは(日本じゃ使えませんけど)、わざわざ腕時計でやらなくてもいい機能です。でも、すこぶるワクワクする。

左脳的な実利はあまりない。腕時計でできると、ちょっと楽しいし、ワクワクするだけ。

そう考えると、この価格設定はいかにも高い。機能と価格が釣り合っていません。

しかし、モノとしての魅力はとてもあります。トロリとした質感と重量感、フォルムもディティールもじつにチャーミングで、愛玩的に愛でたくなります。

Apple Watchとはそういうもので、だから、何に使うのか? 何に使えるのか? という疑問を持つ人には向かないでしょう。ただ、とてもチャーミングで、ワクワクするだけ。

それが、「非の打ち所のないクールさ」の次に、アップルが目指したものなのだと思います。なんだか理屈で説明できないけど、魅力的なもの。説明できなければ、コピーも真似もできません。ああ、ぞっとしますね。(インハウスデザイナーとしては! )