「できないんじゃなくて、やらせてもらえないんだよ。」
ちょうど10年くらい前、職探しをしているときに出会った、ちいさなデザイン事務所のひとは、面接の席で言いました。
「べつに日本のメーカーのデザインがわるいわけじゃないの。インハウスでも事務所でも。やろうと思えば、イタリアなんかのデザインに負けないようなものができるデザイナーは、いくらでもいるんだ、日本にもね」
もうその事務所の名前も場所も思い出せない。
その頃は「そうかなぁ、そうなんだ」くらいにしか思わなかったけれど、のちにメーカーに就職したわたしは、その言葉を実感したことがあります。
確かに、「デザイナー」が「いいデザインだとおもった」ものが、「やらせてもらえる」機会はすくない。めったにないと言ってもいい。
なぜ「やらせてもらえない」のか。
それは、じつにいろんな「事情」(ああ、事情!)があって、どこかひとつを取り出して論ずるのは難しいです。自分でも整理できてないし。
でもあえて、誤解を恐れずに言うならば(怖いけど)、
過去そういう「デザインが先にたった」商品は「売れなかった」。
「売れない」ものは「作らない」。
「グッドデザイン取ると売れないって言われてたんだよね」と言う上司もいました。
そう言われていた時代も、あったのだろうとおもいます。
さらに誤解を恐れずに言うならば(さらに怖いけど)、
そんなモノが売れない原因は、
「割高」で「使いづらい」からだったとおもいます。
適正価格で使いやすければ、
デザインが「よくても売れる」んだろうとおもいます。
ユニクロとか。
ぎりぎり無印良品とか。
デザインが良いというだけで割高になっているもの。
まして使うことに「やせ我慢」を強いるようなものは、買ってもらえない。
だからね。
「今は」高価でもいい。
うつくしくデザインされたものの「価値」が浸透するまでは。
売れなければつくらない。
つくりたくてもつくれない。
だから私は買うんです。
作り手としてもがんばるけれど、買い手としてもがんばってゆきたい。
…というか、まぁ、趣味だけど。
「やらせてもらえる」機会が増えれば、
いずれあたりまえのことになってゆくでしょう。
「デザイン家電」が消える、その日まで。