犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

朝日の誤読誘導記事

2010-01-21 23:06:05 | 近現代史
 今月初めの当ブログで,戦時中の朝鮮半島出身徴用者の年金に関する朝日新聞の記事を取り上げました。

 これに関連して,21日の朝日朝刊に,次の記事が載りました。

戦時中の「徴用」、今なぜ記録提供?
政権交代で実現、韓国政府の支援策に活用

コブク郎 戦時中、朝鮮半島から日本企業に動員されて働いた人たちの年金や未払い賃金の記録が、最近、相次いで日本政府から韓国政府に提供されることになったね。
 韓国側が求めていたのに応じたんだ。盧武鉉前大統領時代の2004年、徴兵や徴用の実態を調べる政府機関が出来たが、肝心の資料が韓国にほとんどなかった。日本側はこれまで記録を出すことに消極的だったけれど、政権交代で方針が変わったんだ。
 戦争中になぜ、朝鮮半島の人が大勢、日本の企業で働いていたのかな。
 日本では働き手が兵隊にとられ、労働力が足りなくなった。これを補おうと、当時の政府は統治下にあった朝鮮半島や台湾などから働き手を集めた。朝鮮半島出身者だけで約70万人とも言われ、炭鉱や港湾などに送られた。
 賃金はきちんと支払われなかったの?
 支払った事業所もあったが、混乱の中、朝鮮半島へ帰る人たちに「後で送る」などと言って、そのままになった例も多い。それで日本政府は敗戦翌年の1946年、事業主に未払い賃金などを法務局に預けるよう促した。預けられたお金はいまも日本銀行にあるんだ。今回、提供を決めたのはその記録だよ。
 日本政府は、記録と一緒に未払いの賃金も払うの?
 いや。日韓の国交が正常化した65年の基本条約で、両政府は互いに請求権や財産権を放棄したんだ。ただ、韓国では、盧政権が進めた戦時中に日本で働いた人たちへの支援制度が08年に整い、本人や遺族の一部に未払い賃金額に応じた支援金などの支給が始まった。日本側の記録提供で、受給者は増えそうだね。
 年金の方は? 日本で働いていた韓国の女性に厚生年金の脱退手当金が支払われた記事で、99円と随分安いことに驚いたよ。そもそも請求権は放棄したのでは?
 年金脱退手当金は、本人が請求した時点で権利が生じるという法解釈だから、基本条約には含まれないんだ。99円という額は、厚生年金保険法で貨幣価値の変化を換算しないことになっているからだ。この女性や支援者等は反発している。日本が韓国を併合して今年で100年。お互いが信頼しあえるように過去の溝を埋めていきたいね。
(三橋麻子、中野晃)

 わかりにくい記事を,やさしく解説するという趣旨のコーナー(ニュースがわからん!)に載ったものです。

 確かにわかりやすい表現で書かれています。

 たとえば,人数について,

朝鮮半島出身者だけで約70万人とも言われ、炭鉱や港湾などに送られた。

と書かれていますが,これがなんの人数かというと「働き手」。これは,この記事の対象である「徴用」よりも広い概念で,「民間募集や官斡旋」という,いわゆる「強制連行」ではない労働者も含まれている。厚生省の発表では,「民間,官斡旋,徴用,女子挺身隊」を合わせて66万人です。

 しかし,この記事を読んだ人は,あたかも「徴用」された人の人数が約70万であるかのような印象を受けるでしょう。

 その次が問題です。

コ 賃金はきちんと支払われなかったの?
A 支払った事業所もあったが、混乱の中、朝鮮半島へ帰る人たちに「後で送る」などと言って、そのままになった例も多い。

「支払った事業所もあった」という日本語の表現は,「支払わなかった事業所のほうが多かった」というニュアンスです。

 そして,質問には「きちんと」という言葉が入っているけれども,答えでは省略されているところがミソ。

 この問答の意味するところは,

「払うべき賃金を不足なく払ったか」

「いや,必ずしも全額を払わなかった企業もあった」


というもののはず。実態は,「賃金は払っていたが,終戦時の混乱や逃亡(相当多かった)のため働いていた期間の最後の月の賃金が払えなかった場合がある」ということのはずです。

 ところが,「やさしい表現」にすることを口実に,

「日本で徴用されていた朝鮮人は約70万人で,その半分以上は,給料をいっさい受け取っていなかった」

と誤読しやすい記事に仕上がっています。

 朝日らしい,非常に巧みな記事といえましょう。

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