僕がアトムの物語に昔から惹かれてしまうのは、小さなアトムが背負うその何とも切ない「運命」にある。天馬博士の息子トビーが事故で亡くなり、悲しみに打ちひしがれた天馬博士が作り上げた人間型ロボットこそがアトムなのである。10万馬力ながら人間の心を持つアトムは、その力を正義の為、人間の為に役立たせようと活躍するが、ロボットと人間の間で揺り動かされるそのアイデンティティーに苦悩し、また父である天馬博士も、息子とそっくりで完璧なロボットであるアトムを作るが、やはりロボットには本当の息子の代わりは務まらないと苦悩するのである。この父と子、そして人間とロボットの関係が何とも切ないテーマを多くはらんでいるのだ。
また高度文明化した人間世界での様々な社会問題をも刻銘に映し出しており、今見ても実に考えされられるテーマが多い。しかし、このような人間型ロボットや、物語のテーマ設定を60年近くも前から世に送り出しているVisionaryとしての手塚治虫には改めて敬服する。
今回のハリウッド版ATOMは、米国LAと香港に制作スタジオを持つIMAGI Animation Studio社が手鰍ッており、見事に米国とアジアの感性がブレンドされている中で制作されている点で、今後益々増えそうなコンテンツ製作形態である。しかし、僕のようなコアな手塚治虫/鉄腕アトムファンにとって一番嬉しかったのは、色々な設定が比較的原作に忠実に描かれている点だ。それもその筈、手塚治虫の長男で、クリエイター/手塚作品の監修などを務める手塚眞氏がコンサルタントとして映画製作に関与しているのだ。よって、原作のカラーをある程度忠実に保ちながらも、新しいアトム像を完成させることが出来たと言える。
アトムの顔ややや原作よりもスレンダーになって、特徴であったほっぺの膨らみが無くなったが、それでも純粋な少年らしい可愛いアトム像が保たれていると感じた。天馬博士や御茶ノ水博士、そして手塚作品には欠かせないヒゲオヤジやハムエッグなどお馴染みの手塚キャラが登場。また手塚治虫自身も、ヒッチコックさながら劇中にチョイ役で登場している点も注目だ。また物語が展開されるメトロシティーは、日本の富士山とその周りの巨大都市(東京?)だけが宇宙に飛び出したかのような空中都市として描かれており、こういう細部に、日本、そして手塚治虫への敬愛を感じる作品となっている点でファンには嬉しい仕上がりとなっている。一方で、リーダー役の女の子コーラや、心優しい大型ロボットのZOGなど新しいキャラも登場しており、ハリウッド版ならではの設定も見逃せない。
今回の日本語吹き替え版でアトムの声を担当するのは上戸彩。少年のような声にはぴったりである。また、渋い声の天馬博士には役所広司。米国版オリジナルでの天馬博士はあのニコラス・ケイジが担当しているが、どちらもなかなかのはまり役である。
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