blue deco design lab

横山光輝異色の短編、『影丸と胡蝶』と『恋と十手とお銀ちゃん』

相変わらず、まだ読んだことが無い横山光輝の作品を読み漁っているが、その中の1冊で、時代劇傑作短編集である『影丸と胡蝶』を読んでみた。最近、『クイーン・スフィンクス』や『夜行島魔人』と同じ、講談社漫画文庫の文庫本だ。



この短編集は横山光輝が描いた時代劇の短編が8編収録されているが、『伊賀の影丸』や『仮面の忍者赤影』などを始め、晩年も多くの歴史漫画を手鰍ッており、時代劇は横山光輝の最も得意とする分野である。この中に収められている8編の中で、特に女性が主人公の2編が面白かったので取り上げてみたい。

1) 『影丸と胡蝶』



まずは表題にもなっている『影丸と胡蝶』。これは『伊賀の影丸』の外伝/サイドストーリー的な位置付けの短編で、15ページほどしかない短いものだ。面白いのは影丸が主人公というよりは、影丸の回想で語る過去の物語の形式になっている。幕府隠密の影丸は、旅の途中で葉山の里を訪れると、必ず立ち寄るお墓があった。花のお供えが絶えたことは無いお墓であったが、昔この村で何かあったのかを回想で影丸が語る形で物語がスタートする。



大凶作の葉山の里を訪れた幕府隠密の影丸だったが、農民はみな殺気だっていた。大凶作にも関わらず、領主には厳しい年貢を納めるように命令されており、餓死してしまう人が出るほどの過酷な状況になっていた。旅の途中に通りがかった影丸であったが、胡蝶に歓迎を受け、しばしこの村に滞在することになるが、領主は農民たちが一揆を起こさないよう、胡蝶の父である名主を人質にとっていたことを知る。胡蝶が一揆を起こせば、父を殺すことになってしまうが、一揆を起こさなければ村人はどんどん餓死してしまう。究極の選択を迫られた胡蝶は、一揆をすることを選ぶ。結果一揆は成功し、領主からの年貢は大幅に見直されることになり、村人を救ったが、一揆を起こした責任者として、胡蝶も最後に処刑されてしまうという悲しい物語だ。





横山光輝の作品は、明確な少女漫画でない限り、比較的女性が登場することが少ない上、あまり重要な役割を与えられないケースも多いのだが、この作品は胡蝶を主人公にしている点でかなり珍しく、特筆に値する作品だ。1964年に週刊『マーガレット』という少女漫画雑誌に掲載されていることからも、影丸の外伝でありながら、少女をターゲットに描いた作品という意味でもかなり異色だ。短い作品ながらとても良く出来た物語である。

2) 『恋と十手とお銀ちゃん』



この短編集からもう一つ、異色の作品として『恋と十手とお銀ちゃん』という作品がある。こちらは1975年に少女漫画雑誌『プリンセス』に掲載された作品で、女性が主役であり、しかもタイトルの通り、かなり楽しげな物語であると聞いていたので、ぜひ読んでみたいと前から思っていた作品だ。



町で捕り物小町と呼ばれるお銀ちゃんは、いつも事件現場に駆けつけ、事件を推理しながら解決するという、言わば女刑事だ。この設定もかなり斬新なのだが、全体にライトタッチで描かれており、お銀ちゃんが恋心を寄せる捕り物仲間の錦一郎と一緒に事件を解決するのだが、このお銀ちゃんの恋模様の要素もなかなか可愛く、また描写も決してやり過ぎない程度に盛り込まれており、後味の良い短編である。






この作品も横山作品の中ではかなり異色であり、時代劇ながら、少女漫画作品と言えなくも無い要素を持つ作品という意味で、かなり貴重な作品である。1作の短編で終わってしまったのは何とももったいなく、出来れば連載・シリーズ化してくれたら面白かったのではないかと思ってしまった。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「漫画/アニメ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事