売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

『宇宙旅行』第6回

2013-01-31 10:48:26 | 小説
 連載小説を依頼してくださった方は、タトゥー関連のサイトを運営してみえるので、そこで掲載する小説は、タトゥーを題材としたもので、ということでした。
 私の『幻影』 を読んでくださり、全身に大きなタトゥーをした女性主人公が探偵役を務めているので、私を選んでいただけました
 ここ数日、構想を練り、昨日までに原稿用紙換算で30枚ほど書きました。正式に掲載が決まれば、詳しいことをお知らせいたします。

 今回は『宇宙旅行』第6回です。私のブログでは元の原稿(Word2007で書いてあります)をそのまま貼り付けてあるだけです。最初は縦書きに変換してみようと思いましたが、長文だとかえって読みにくくなり、横書きでそのまま貼り付けるだけにしてあります。先ほど紹介した、連載作品では、パソコンでもスマホでも読みやすい形式にしてくださるそうです。


 五人の乗組員と戦闘用アンドロイドは、アルゴに戻った。
 五人はさっそく今日体験したことを話し合った。今日の会話はすべて戦闘用アンドロイドが録音している。戦闘用といっても、戦闘だけではなく、食物や空気、水の分析も、いろいろな記録も、怪我や病気の治療もできる万能ロボットである。もちろん飛行艇の操縦もできる。
「今日のことを、みんなはどう思うかね? 忌憚のない意見を聞かせてもらおう」
 船長のジャクソンが一同に尋ねた。
「まったく愚かなことだと思いますね。せっかく素晴らしい科学文明を持ちながら、迷信でしかない宗教のために、それを棄ててしまうとは」
 最初に副長のタカシが意見を述べた。
「しかし、本当なのでしょうか? ひょっとして我々を油断させ、地球の情報を引き出して、地球を征服しようと企んでいるのでは?」と、操縦士のベルナルトが不安げに続いた。
「いや、私はそれはないと思います。そんな芝居をする意味がありません。かつて彼らの科学技術は、明らかに地球よりはるかに進んでいました。彼らがその気になれば、地球など簡単に征服できたと思います。我々がこの惑星系に目をつけたように、当然彼らも、私たちの太陽系に、生命の生存に適した惑星があるということに、気づいていたでしょうから」
 ユミがベルナルトに反論した。
「過去形で言ったのは、意味があるのかね?」とジャクソンが質問した。
「はい。彼らは、実際科学を棄ててしまい、今では地球の方が科学水準は上回っています。だから、私たち地球人は、逆に彼らを支配することが可能なはずです。彼らはテレパシーなどの超能力は持っていますが、連邦政府軍が総力をもって攻撃すれば、簡単に制圧できると思います」
「つまり、我々は地球に帰って、この星は植民地化する価値があり、と報告すれば、それで我々のミッションは完了、ということかね」
 副長のタカシが、ジャクソンに代わって満足そうに言った。
「ただ、私はこの星を侵略したくありません。命令違反かもしれませんが、この星はそっとしておいてあげたいのです」
「我々のミッションは、この星が我々地球より文明が進んでいれば、平和的な外交を結ぶ、そしてもし遅れた未開な星ならば、植民地化、その判断を報告することだが。地球に届いたこの星の電波を解析した結果、せいぜい二〇世紀前半程度の地球の科学技術でしかない、と我々は推測していた。それで、連邦政府の意向としては、この星を我々連邦政府の統制下に置き、開発することだ。その当否を確認し、報告することが我々の任務だ。一個人の感情で報告内容を左右するわけにはいかん」
 ジャクソンが四人の部下に、このミッションで課された報告義務の説明をした。
「ユミ隊員の発言は、重大な命令違反です。我々には連邦議会が定めた任務を遂行する義務があります。この星は、植民地化するべきです。このミッションのために莫大な予算をつぎ込んで、恒星間宇宙船アルゴを建造したのですから。船長が言われるように、個人的な感情により、そっとしておいてあげたい、だなんて言うべきではありません。本来なら、直ちにユミ隊員を処罰するべきです」
 副長のタカシはユミを咎めた。
「俺は何となくユミ隊員の気持ちがわかるな。この星には、地球にはない癒しのような雰囲気があります。我々が暴力でもって踏みにじるべきではない、というような気分になる、不思議な魅力を感じます」とベルナルトがユミを擁護した。
「ベルナルト操縦士までもが……。シェン隊員、君はどうかね?」
 船長のジャクソンはシェンの考えを質した。
「はい、私もユミ隊員やベルナルト操縦士の言っていることが理解できます。この星はそっとしておくべきだ、という気持ちがあります」
「シェン隊員、君までがそんなことを」とタカシはシェンに詰め寄った。
「まあ、待ちたまえ、副長」
 ジャクソンはタカシを制止した。
「植民地化するというのは、必ずしも悪ではない。文明の発達が遅れた地域なら、植民地化することで、優れた文明の恩恵をこうむり、その結果、地域の発展が促され、そこに住む人々のためになることもあるのだ。地球では一五世紀に始まる大航海時代には、確かに昔のヨーロッパ諸国は、アフリカ、アジア、アメリカ大陸などを侵略し、圧政や略奪などの悲劇を繰り返してきた。しかし、今の我々は違う。植民地化といっても、あくまで平和的な支配で、その土地の人々と共存を図ることなのだ」
 ジャクソンはユミたちをなだめにかかった。
「しかし、この星の人たちは強い宗教的な意識を持っています。私たちがこの星を支配すれば、この星の人たちの宗教的観念を、徹底的に蹂躙(じゅうりん)し、矯正することになるのではないでしょうか? それでは私たち地球の価値観の押しつけになり、この星の人々は不幸になるのではないでしょうか?」
 ユミは反論した。
「いや、宗教は悪だ。現に、この星の人たちは、くだらん迷信に過ぎない宗教のために、大切な科学技術を棄ててしまった。何という愚かなことだろうか。我々はこの星の人たちに、宗教の弊害を教え、正しい道に導いてあげなければならない」
 ジャクソンはユミに諭すように言った。
「宗教は本当に悪なのでしょうか? 確かに地球では、宗教の対立による紛争が拡大し、それが民族闘争とも重なり、世界的な戦争にまで広がってしまいました。それゆえ、宗教は悪だ、害毒だ、不要なものだ、となり、徹底して排除しました。宗教を信じているものは、それがどんな宗教であれ、弾圧し、洗脳し、信仰を捨てさせました。それでも信仰を捨てない人たちは、収容所に入れられ、一生出られなくなりました。しかし、それでよかったのでしょうか?」
「そのおかげで地球は戦争もなくなり、平和な世界となった。そして科学も進歩し、素晴らしい星となったではないか」
「しかし、この星は科学文明より、宗教を選択し、このような素晴らしい星となったんじゃないでしょうか。地球人だけが正しいというのは、私たちの傲慢かもしれません」
「確かに、ユミ隊員が言うことも、一理あると思います」
 シェンがユミに同意した。
「さっきはこの星の人たちを疑うような発言をしましたが、やはりユミ隊員が言うように、この星の宗教、考え方は尊重するべきだと思えるようになってきました」とベルナルトもそれに続いた。
「君たちまで、何を言い出すのですか。一時的な感傷で任務を投げ出すわけにはいかないよ」
 タカシが、ユミに同調し始めたシェン、ベルナルトの二人を非難した。タカシは副長として、この星を植民地化するという使命に忠実でいようとした。
「まあ、ユミ隊員が言うように、この星はそんなに素晴らしいものかどうか、明日以降、じっくりとこの星を観察してみようではないか。明日はこの星を案内してくれるとカッサパが言っていたし。この星を偵察するのも我々の任務だからな。明日に備え、今日はゆっくり休もう」
 船長のジャクソンがそう結論した。

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