原爆の爆心から北に1km。
広島城の西側に現在の『基町アパート』があります。
日清戦争の頃には広島城に、総司令部である大本営が置かれ、
軍事都市としての広島は、一時は日本の首都の様なものだったそうです。
第二次世界大戦。原爆。終戦。廃墟。
そしてスラム化、という過程を辿った基町。
様々な事情を背負った人々を、新たに収容するための集合住宅として、
1968年から10年の歳月と、総工費226億円をかけて完成した日本初の高層市営・県営住宅。
それが『基町アパート』。
8~20階建ての17棟に約3000戸が入っています。
今は約4000人程が暮らしています。
戦争で全てを失い帰還した元兵士、悲惨な被爆体験を胸に生きる老夫婦、
戦後帰国した中国残留孤児やその子孫、
縁戚を頼って移り住んだ中国人など…
65歳以上の高齢者が40%。
中国人が40%。
今もなお、被爆地ヒロシマの歴史が渦巻いています。
これが基町アパートの全景。

(広島大学の学生さん達が一ヶ月かけて製作した模型)
ここには、小学校、病院、郵便局、ショッピングセンター、銭湯など…
生活に必要な設備が何でもあります。
模型の右下に見えるグランドと、その左上に見える四角い建物が、広島市立基町小学校。
この小学校の生徒は現在120人。
その内、日本人以外のルーツを持つ小学生が40%を占めているそうです。
NHK広島放送局制作のドキュメンタリードラマ『基町アパート』は、
現在のこの町と小学校が舞台。
私は基町小学校の校長先生、成瀬泰樹役です。

杉野希妃さん、嶋田瑠那ちゃん、梅雀、加部亜門くん、石橋蓮司さん、シー・チュンさん。
ほかに、日色ともゑさん、田中美里さん、など多彩な出演陣。
東京で、母子家庭で育つ主人公の葉山龍太(加部亜門くん)。
母親がニューヨークに転勤。
母親の生まれ育った基町に移り、基町小学校に転入して来た。
基町アパートで初めて会った彼の実のお爺ちゃんは、日本語が通じなかった。
純真な子供達の目で真実を見て、少しずつ理解していく。
戦争がどんな傷を残したか。
基町という小さな町に凝縮した、深い物語です。

(梅雀、二宮孝司校長先生、杉野希妃さん(紙屋志穂先生役) )
基町小学校の本物の校長である二宮孝司先生は、実に柔軟に、そして心のこもったサポートをして下さいました。
先生は、全校生徒120人全員の顔と名前・性格を把握しておられます。
常に直に生徒達と触れ合い、語り合い、
自らの生き方・姿勢を見せて教育して行く。
今、こんな校長先生はいらっしゃるでしょうか…
私はその姿にとても感動しました。
ドラマには実際の基町小学校の生徒さん達も出演。
私は本当の終了式に、本物の全校生徒を前に、
中沢啓治作の『はだしのゲン』を題材に話すシーンを撮りました。
生徒さん達の純真な目が、私の胸に染み込んでくる様でした。

盆踊り大会のシーンには、基町アパートの住人の方達が多数出演してくださいました。
基町商店会長・立花和郎役の石橋蓮司さん

時代劇専門チャンネルのオリジナル時代劇『夜兎の角右衛門』以来の共演。
やっぱり名優。
細やかでチャーミングでスピリットにあふれた素敵な人です。
また共演出来て嬉しかった
8月24日(土) 23:00から NHK総合テレビで全国放送します。
お見逃し無く
「戦争がどんな傷を残したか。基町という小さな町に凝縮した、深い物語です。」
私自身、戦後生まれで、第二次世界大戦の実体験はありません。だんだん生活が良くなっていくいわゆる高度成長を体験し、それ以前の破壊を聞かされて育った世代です。
「戦争を知らない子供たち」から「戦争しか知らない子供たち」への予感が現実のものとならないように考え行動して行かなくてはと思います。
戦争は仮想世界のものではなく、戦争で死なない一部の人々に欺かれ起こるもので、犠牲となるのは常に普通の大衆であり、直接的には若者であると思います。
とても意味のあるドキュメンタリードラマだと思います。楽しみにしています。
かつて過ごした辛い時間を話す勇気は、ビビりながらも好奇心旺盛なお孫さんがいたから。でも、そんな彼を諭してくれるのは、お隣の美少女と校長先生。素敵な先生です、いつ見ても。