西田さん
初めて共演させていただいたのが
大河ドラマ『八代将軍吉宗』でしたね
吉宗(西田さん)の嫡男・家重を演じるにあたり、私は必死に調べて
言語障害と運動機能障害をもち、かなりの自閉症であったことを突き止めました。
日本でまだ映像では、ましてやNHKの大河ドラマでリアルに表現することは
タブーとされていました。
「徹底的にリアルに表現しなければ、不自由な家重の心の苦しみが伝わらない」
私の決心は堅いものでした。
資料を読みあさり、養護学校や専門医に通い、鏡で演技を研究しました。
案の定リハーサルでの演技を見て、演出家もプロデューサーも視聴者からのクレームを恐れて大反対でした。
私の心は折れかかっていました。
いよいよ本番の日。
私はリアルな表現で挑み、やはり演出からストップが掛かりました。
その時
「我々演技部は賛成です」
と、西田さんの一声
かなり間があってから
「わかりました。やってみましょう」
そして挑んだ最初の本番は、少し力が入ってやりすぎたかな...
しかし
「OK‼️」
結果は大反響を呼び、
第35話「父の背中」で、将軍継承を拒む家重と苛立つ吉宗が初めて本音で対決し、
家重をおぶって吉宗が歩いたシーンは、最高視聴率を獲得しました。
西田さんは常に、大きな懐で私の演技を受け止め、巨大なオーラで返してくださいました。
共演中私は、安心感と幸せをいつも感じていました。
不安や恐怖を乗り越えて徳川家重を演じきれたのは、西田さんのおかげです。
最終回を撮り終えて
「今回最も印象的だったことは?」
と記者団に聞かれた西田さんが
「中村梅雀という俳優に出会ったことです」
この一言は、私の一生の宝です。
以来、大河ドラマでは『葵 徳川三代』、『功名が辻』
映画『釣りバカ日誌』シリーズは11本
共演させていただきました。
どの作品も、西田さんと一緒の場面を思い出すと笑ってしまいます。
特に『功名が辻』の家康(西田さん)と秀忠(梅雀)のたった一つのシーン。
そして『花のお江戸の釣りバカ日誌』の浜崎伝助(西田さん)と日下部右馬助(梅雀)の、各シーンを作っていく過程。
思い出す度にしばらく笑っています。
出演された様々なドラマや映画を拝見しても、やっぱり笑ってしまう。
西田さんがこの世に居なくなってしまって
悲しいです 寂しいです
でも、思い出すと笑ってしまう。
幸せになってしまう。
なんという大きな財産を、たくさんの人の心に残したのでしょう。
私もそんな役者になりたいです。
あの会見での西田さんの言葉に恥じないように
これからも一所懸命に精進して参ります。
西田さん
お疲れ様でした。
たくさんの幸せを与えてくださり
本当に本当に、ありがとうございます。